188 幼女のスカートを捲るのはやめましょう
転がっているリリィを起こしてあげると、プリュちゃんが私の腕をトントンと叩く。
「うん?」
私がプリュちゃんに視線を向けると、プリュちゃんがドワーフの王様に向かって指をさす。
「主様、王様が起き上がったんだぞ」
「え?」
言われてドワーフの王様に視線を移すと、ドワーフの王様は苛立った様子で立ち上がっていた。
私はドワーフの王様に体を向けて身構える。
すると、リリィが空気を読まずに、うふふと笑い出した。
「リリィ? どうしたの?」
「今の私なら、必殺技が使えるかもしれないわ」
え?
必殺技?
「必殺技!? リリさんかっこいいんだぞ!」
「プリュ、焦らないで? まだ、かもしれないってだけよ」
なんだか、ろくでもない事を考えてる雰囲気だよ。
私がリリィの様子に訝しんでいると、ドワーフの王様が右手で両刃の斧を持ち上げて、私達に向かって走り出した。
「とにかく今は王様を止め――」
「いくわよジャスミン!」
私がリリィに話しかけると同時に、リリィが叫んで私の目の前で仰向けに転がって横になる。
「え? リリィ、何やってるの?」
私の疑問に答える事なく、リリィが背中の中心を軸に横回転しだす。
そして、ドワーフの王様が、私達の目と鼻の先まで接近してしまった。
ダメだ!
リリィが斧で斬られちゃう!
魔法で助けなきゃ!
私は直ぐに魔力を集中して、手のひらをドワーフの王様に向ける。
そして、手のひらから魔法陣を出現させて、私はその魔法陣から勢いよく大量の水を発射する。
高威力の水圧で押し切るんだから!
だけど、私の放った魔法はドワーフの王様には届かない。
何故なら、ドワーフの王様は左手にアブソーバーキューブを持っていたからだ。
その結果、私の魔法の魔力はアブソーバーキューブに吸収されてしまい、私の魔法は不発に終わってしまったのだ。
しまった!
アブソーバーキューブキャンセラーは今からじゃ間に合わない!
私がそう思ったその時、突然リリィが大声を上げる。
「これが私の必殺技! スカート捲りローテーションよ!」
リリィが大声で、そんなおバカな事を言った瞬間に、リリィの横回転の速度が爆発的に上がる。
回転は暴風を巻き起こし、私のスカートは捲れてパンツがあらわになった。
「きゃーっ!」
「す、凄いんだぞ! リリさん、すっごくすっごく凄いんだぞ!」
「ちょっ、や、やめ、やめてーっ!」
私は必死にスカートを押さえながら、吹き飛ばされないように重力の魔法を使って、その場に踏み止まる。
な、なんなのーっ?
って言うか、風凄っすぎないー?
ラテちゃんがいないから、これ以上は重力の魔法で踏み止まれないぃ!
お願い止まってーっ!?
私の心の叫びが通じたのか、リリィは横回転の勢いを利用して、くるんっと立ち上がった。
「どう? ジャスミン。凄いでしょう? それに、この体にも随分慣れてきたと思うのだけど?」
リリィ、どう? って、そんな爽やかな顔で言われても、ツッコミどころしかなくて、もう何が何やらだよ。
って、あっ。
そうだ!
ドワーフの王様は!?
私は急いでドワーフの王様に視線を向ける。
そして、私は驚いた。
「王様がもの凄く吹き飛ばされてるんだぞ!」
「う、うん」
ドワーフの王様はかなりの勢いで吹き飛ばされていたようで、瓦礫となった城を取り囲む塀の前で膝をついて、両刃の斧を地面に突き刺して私達を睨んでいた。
リリィのスカート捲りやばすぎじゃないかな?
私はジト目でリリィを見る。
リリィは何故か悔しそうに顔を顰めていた。
「大変よ。スカート捲りローテーションには、重大な欠点があったわ」
「え?」
「まわっている間は、ジャスミンのパンツを見れないのよ」
リリィは本当におバカだなぁ。
私がおバカなリリィに微笑むと、ドワーフの王様が両刃の斧を支えにして立ち上がり、大きく声を荒げだす。
「ふざけるな! こんなふざけた連中に、誇り高きカザドの民が負けるわけがない!」
ま、まだ戦うつもりなの?
リリィのチートを前にしても、あれだけ戦意が揺らがないって凄すぎだよ。
それに、さっきから実は気になってたんだけど、カザドの民ってなんだろう?
よし。
ここは一つ、聞いてみよう。
答えてくれるかわかんないけど、もしかしたら、王様が耳を傾けてくれるきっかけになるかもだもんね。
私はごくりと唾を飲み込んで、右手を上げてドワーフの王様に質問する。
「あの、王様。カザドの民って、なんですか?」
私が質問すると、王様は私を更に怖い顔で睨んできた。
ひぃっ。
怖いよぉ。
「カザドの民ってのは、ドワーフ族が自分達を呼ぶ時の呼称だ」
私がドワーフの王様に睨まれて怯えていると、食堂の方から私の疑問に誰かが答えてくれた。
「ありがとー!」
なんとなく、そんな気はしていたけど、やっぱりそうなんだ。
私はお礼を言いながら食堂の方に顔を向けて、いつの間にかミノタウロスや兵隊さん達が、私達の様子を見に出て来ていた事に気が付いた。
私の質問に答えてくれたのはミノタウロスのようで、私と目を合わせると軽く右手を上げた。
「余計な事を言いおって! だが、良いだろう。我等カザドの民は誇り高き種族! 貴様等人間に負けはしない!」
ドワーフの王様が大声を上げて、両刃の斧を右手で持ち上げる。
「ふん。何が誇り高き種族よ。魔族と結託して格好悪いったらありゃしないわよ」
「リリさんの言う通りなんだぞ! スミレさんみたいな優しい人もいるけど、サルガタナスは悪い奴なんだぞ!」
「小賢しいわ! 人間の小娘と精霊風情が粋がりおって! サルガタナスは、唯一我等をカザドの民と呼ぶ良き理解者だ! 貴様等の様に、我等をドワーフと呼ぶ愚か者共とは格が違う!」
そっか。
そう言う事だったんだ。
「プリュちゃん」
私はプリュちゃんの頭を優しく撫でる。
「主様。アタシ、頑張るんだぞ!」
「うん」
プリュちゃんが水の加護を魔力に変換させていく。
私はそれを右手に集中させながら、リリィに視線を向ける。
生物の魔法。
土属性の上位魔法の一つなら、きっと私にだって出来る。
ラテちゃんがいなくても、それ位はやってみせるんだから!
私は左手でドワーフの王様の使った魔法の解除を試みる。
「させんわ!」
ドワーフの王様がアブソーバーキューブを使って、私の魔力を吸収しようとするが、もうその手には乗ってあげない。
私はすかさずアブソーバーキューブキャンセラーを使って、効果を打ち消した。
「貴様っ! 何故それを!?」
私はリリィに左手で触れて、リリィに魔法を発動する。
すると、リリィは黄緑色の光に包まれて、元の姿へと戻った。
「ありがとう。ジャスミン」
「うん」
次は、水の魔法で王様を!
と、私が王様に向けて魔法を使おうとしたその時、食堂の方から大声が聞こえてきた。
「これは何事ですの!?」
私は聞き覚えのある声に振り向いた。
すると丁度その時、フェルちゃんとビフロンスが食堂の壁に開いた穴から出て来て姿を現した。
えっ? フェルちゃん!?
それにビフロンスも……って、まだ成仏してなかったんだね。




