187 幼女ところころ転がるまん丸体型
「おおぉぉおおっっ!」
ドワーフの王様が雄叫びを上げて、私に向かって跳躍し、兵隊さん達の頭上を飛び越える。
そして、ドワーフの王様は大きな両刃の斧を振り上げた。
「覚悟おっ!」
ドワーフの王様は私に接近すると、両刃の斧を振り下ろす。
だけど、その刃が私に届く事は無かった。
リリィが私の目の前に立ち、斧を真正面から片手で掴んで止めたのだ。
「たかがドワーフの王如きが、私のジャスミンに向かって、物騒な物を振り回さないでもらえないかしら?」
「小癪な!」
ドワーフの王様が持っていた両刃の斧を手放して、リリィに近づく。
そしてそのまま左手でリリィのお腹に触れると、リリィのお腹に黄緑色の魔法陣が浮かび上がった。
「生物魔法ファットアップ!」
ドワーフの王様が呪文を唱えると、突然リリィが風船のように膨らんで、まん丸に太ったおデブさんになってしまった。
と言うか、おデブさんと言うよりは、最早ボールのような見た目だ。
「えっ!?」
「どけえーいっ!」
まん丸姿になってしまったリリィは、驚いて隙を作ってしまう。
そして、ドワーフの王様はリリィの隙を逃さない。
リリィはドワーフの王様の剛腕によるラリアットを食らってしまい、吹っ飛んで壁に激突してしまった。
リリィが激突すると、壁は衝撃で崩れ去り、お城の外の地面が顔を出した。
「リリィ!」
私は慌ててリリィに駆け寄ろうとしたけど、ドワーフの王様に直ぐに回り込まれてしまって立ち止まる。
私とドワーフの王様が睨み合い一瞬の間が空くと、今までの様子を見ていた兵隊さん達が悲鳴を上げながら、食堂の外へと逃げて行く。
するとその時、逃げる兵隊さん達の波に逆らって、ミノタウロスが歩きながら大声を上げる。
「ちょっと待った!」
ミノタウロスが私の横に立ち、ドワーフの王様に指をさす。
「アンタも焼きが回ったな。陛下」
「何だと?」
「衰えたって言ってんだよ」
「マラクス。貴様、私を愚弄するか」
な、なんだかよくわからないけど、今の内に!
ミノタウロスがドワーフの王様を引きつけている間に、私は急いでリリィに駆け寄る。
「リリィ、大丈夫?」
「ジャスミン。残念だけど、全然大丈夫じゃないわ」
「え!? どこか大きな怪我を負っちゃったの!? 早く治療しなきゃ!」
「違うわ。自分で立てないのよ」
「ふぇ?」
よく見ると、リリィは足をじたばたと動かしていた。
だけど、崩れた壁の瓦礫に上手くはまってしまっているのと、まん丸に太ってしまったせいで、手足が全く地面に届いていなかった。
「ジャスミン、起こしてー?」
リリィは手足をバタバタと振り回す。
こ、これは……。
私は必死に口元を押さえる。
ど、どうしよう。
可愛すぎて笑っちゃう。
笑っちゃいけないのに笑っちゃうよ!
「リリさん、まん丸で可愛いんだぞ」
やめてプリュちゃん!
言わないで!
私が必死に笑いを堪えていると、ドワーフの王様の怒声が食堂に響く。
「貴様ぁっ! 今何と言ったっ!?」
「何度でも言ってやるよ。まだ幼い師匠に、自慢の斧を簡単に受け止められるような雑魚は、ドワーフで十分だって言ったんだ。カザドの民? くだらねーぜ。ドワーフで十分だ」
「サルガタナスの部下とはいえ、貴様は生かしてはおけん! 死ねい!」
ドワーフの王様は叫びながら、ミノタウロスに両刃の斧を振るう。
ミノタウロスは余裕の笑みを浮かべながら、それを片手で受け止めようと右手を前に出す。
するとその時、オライさんがミノタウロスをガバッと掴んで横っ飛びして、勢いよく2人で地面に転がった。
ドワーフの王様の一振りは空振りして、その先にあった壁を斬撃から起こった風圧ならぬ斬圧で一刀両断。
壁に大きな爪痕を残し、それを横目で見たミノタウロスが顔を青ざめさせる。
「馬鹿ですか貴方は!? あんなものを片手で受け止められるわけがないでしょう!?」
「そ、そんな……。だって、師匠は軽々と受け止めてたんだぞ!? 確かに師匠は俺より優れているけど、それはあくまで芸術面だ!」
「何を馬鹿な事を言ってるのですか! あの娘は魔性の幼女の片腕ですよ!」
「な、なんだってぇーっ!?」
違うよ!
友達だよ!
って、それより今の内に!
私はまん丸リリィを立ち上がらせて、耳元で囁く。
「リリィ、スミレちゃんとアマンダさんが……」
「……わかったわ」
私がリリィに耳元で囁くと、リリィは頷きながら、何故かうつ伏せに転がる。
「え? リリィ、何してるの?」
「ち、違うのよ! わざとじゃないの! 頷いたら、その反動で転がってしまったのよ」
そ、そんなにやばいの?
その体。
「やばいわ。このままだと、ジャスミンのパンツを一生見れない気がするわ!」
見れなくても良いんじゃないかな?
私がリリィの相変わらずな発言に呆れていると、ミノタウロスの悲鳴が聞こえてきた。
悲鳴に驚いて視線を向けると、いつの間にかオライさんがよぼよぼの腰を曲げたお爺さんになっていて、ミノタウロスがドワーフの王様に向かって見事な土下座を披露していた。
「許して下さいコラッジオ様! 俺が間違ってました! カザドの民最高ーっ!」
う、うわぁ。
と言うかだよ。
オライさんがお爺さんになっちゃってるのって、やっぱりドワーフの王様の魔法だよね?
リリィもまん丸になっちゃってるし、結構厄介な魔法を使うなぁ。
「許しを乞うても意味は無い。貴様は殺すと決めたのだからな」
「ひいぃっ!」
ドワーフの王様が両刃の斧を振り上げる。
とにかく、考えてる場合じゃないよね!
私は魔力を集中する。
そして、粘着性の強い液状の網を出して、オライさんとミノタウロスを捕まえる。
「乱暴しちゃうけどごめんね!」
私はオライさん達に向かって大声を上げながら、食堂の外に放り投げる。
「先に殺してほしい様だな!」
ドワーフの王様が私にもの凄い速度で接近して、両刃の斧を振りかぶる。
「させな……っ」
リリィがすかさず私の前に立とうとして転がる。
り、リリィ!?
「なんだと!?」
その時、驚くべきミラクルが起きた。
転がったリリィは接近したドワーフの王様の足に勢いよくぶつかって、ドワーフの王様がバランスを崩して、勢いのまま私の横を通り過ぎて壁に激突したのだ。
え、えぇぇ……。
リリィはころころと倒れて、私はリリィを起き上がらせながら、壁に激突したドワーフの王様に振り向き確認する。
ドワーフの王様は壁を破壊して、勢いよくお城の外まで行ってしまっていたようで、お城の外の地面の上で膝をつきながら頭を横に振っていた。
「ジャスミン、ありがとう。それにしても、この体は不便ね。ダイエットしないといけないわ」
「え? そこなの?」
「リリさん。頑張るんだぞ!」
プリュちゃん、ボケに素で返さないで?
あれ?
この場合、両方ボケ?
などと、私が困惑していると、ドワーフの王様が立ち上がった。
「少々油断しておったわ。そのなりになっても、まさか私と互角に渡り合えるとはな」
いやいやいや。
今のはどちらかと言うと、互角に渡り合っていたと言うより、ただの漫才だよ?
って、今はそんな事を考えてる場合じゃないよね!
私はリリィの手を取って、一緒に城の外に飛び出した。
そして、外に出ると、私は周囲を確認する。
鉱山街出入口の丁度反対側……?
じゃあ、ここは魔科学研究地区方面なんだ。
「主様、ここからじゃ狙えないんだぞ」
「うん」
「ジャスミン、スミレ達の助けは期待出来そうにないわね」
「そうだね。でも、頑張らなきゃだよ」
私達の様子を見ていたドワーフの王様が、顔を顰めて私を見る。
「む? 貴様等、何をこそこそと話している?」
「アンタに教えるわけないでしょ」
そう言って、リリィがドワーフの王様に向かって走ろうとして転がった。
「馬鹿め! 私の魔法を食らい丸々と太った貴様は、最早まともに動く事すら――何っ!?」
ドワーフの王様がリリィを見下すように喋っていると、リリィの転がる速度が急激に増していく。
そして、リリィは転がりながら、もの凄い速度でドワーフの王様にぶつかる。
いいや違う。
最早それは、ぶつかったと言うよりも、恐ろしく強烈な威力を持つ突進だった。
「ぐおぉっ!」
ええぇぇーっ!?
ドワーフの王様が吹っ飛んで仰向けに倒れて、リリィはその場でうつ伏せになった。
「もうっ。何なのよ。こけただけで、こんなに転がってしまうなんて、本当に動き辛い体だわ。それにしても、運良く何かにぶつかって、止まってくれて助かったわね。こんな事をしている場合じゃないもの」
え? ちょっと待って?
今の攻撃って、リリィ的にはこけただけなの?
凄い勢いでてたけど、リリィ的には攻撃ですらなかったの?
「ジャスミン。お願い起こしてー?」
「う、うん」
こけただけで、ドワーフの王様を吹っ飛ばしちゃうなんて、リリィは凄いなぁ。
と、私はリリィに関心し、そして呆れながらリリィを起こしてあげた。




