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186 幼女は戦わずして勝利を掴む

 目の前の惨状を見て何があったのかと考えながら、一度周囲を見て確認する。

 まず、ここは天井が高く、もの凄く広い食堂のようだ。

 ここには多くの人が集まっている。

 私を見て良い笑顔なリリィ。

 何処か疲れた様子のトンちゃん。

 目の下にクマがある兵隊さん達。

 兵隊さんと同じ鎧を着たミノタウロスと思われる魔族。

 背中にケチャップか何かをつけた跡を残して、お昼寝中のアモーレちゃん。

 並べられた椅子の上で横になって、何やらうなされているお后様。


 私は一度確認し終わると、そんな中でも、異様な存在感のある物体達へと視線向ける。


 私にそっくりなお人形さん……だよね?

 本当に、ここで何が起きてたの?

 このお人形さん達そっくり過ぎて、もの凄く怖いよ?


 私が自分そっくりな人形達に怯えていると、トンちゃんが私の側に来て説明してくれる。


「ハニーと牛頭が、ご主人の等身大フィギュアを作ってたッス」


「え? なんで?」


「それはボクにもわからないッス」


 ど、どうしよう?

 意味がわからないよ?


 私が困惑していると、突然ミノタウロスが叫び出す。


「ぐあああぁぁっ!」


 私は驚いてミノタウロスを見る。

 ミノタウロスは涙を流し血反吐を吐いて、両手に拳を作って床を叩いた。


「俺は、俺は今まで何をやっていたんだ!? こんな現実、あまりにも残酷すぎるじゃないか!」


 え? 何?

 何が起きたの?

 血を吐いちゃってるけど、大丈夫かな?


「マラクス……。貴方、気が付いてしまったのね」


 リリィがミノタウロスの肩に、そっと手で触れる。


「師匠! 純白の天使を等身大フィギュアで再現出来るはずが無いと、何故言ってくれなかったんですか!?」


 し、師匠?

 え?

 2人って、そういう関係?


「馬鹿ね。確かに貴方の能力程度では、本物のジャスミンの魅力を百パーセント出す事なんて、絶対にありえない程おこがましいわ。でも、それでも良いじゃない」


 ミノタウロスがリリィの顔を涙を流しながら見つめる。

 リリィもミノタウロスに慈愛に満ちた微笑みを見せる。


「ジャスミンの魅力に終わりが無いのと一緒で、貴方の作り出すジャスミン人形にも終わりなんてないのよ」


「師匠!」


 私はトンちゃんに顔を向ける。

 すると、トンちゃんは私の顔を見て、微笑して頷いた。


 そっか。

 そう言う事だったんだね? トンちゃん。

 私、わかったよ。


 そして私は、いつの間にかに背後に立っていたオライさんに顔を向ける。


「戻ろっか」


「え? 良いのですか?」


「うん。だって、なんか凄くおバカなんだもん。関わりたくないの」


「いやあ。流石のボクも、一時はどうなる事かと思ったッスよ。ご主人が来てくれて助かったッス」


「主様。リリさん置いて行くのか?」


「がお?」


「うん。楽しそうだし、放っておいても良いんじゃないかな? それに腕輪もはめてないみたいだし、大丈夫だよ」


 そう言って、私は来た道を戻ろうとしたその時、周囲にいた兵隊さん達に呼び止められる。


「そりゃあ、あんまりなんじゃないか!?」


「そうだそうだ! アンタには、この戦いを最後まで見守る責任がある!」


「マラクス達の勇姿を見ていってやってくれよ!」


「今日はニーソ穿かないのか!?」


 なんなのこの人達?

 と言うか、なんか最後に変なのまじってなかった?


「ジャスミン!」


 私はリリィに呼ばれて振り向く。

 すると、リリィは真剣な面持ちをして、ゆっくりと私に近づいて来た。

 そしてリリィは私の目の前に来ると、私にそっくりなお人形さんを私に見せた。


「これ、どういう事なの?」


「え? ええぇぇぇっ!?」


 リリィが私に見せた私に似たお人形さんは、パンツとニーソックスを穿いただけの、最早忘れてしまいたい昨日の私の姿をしていた。

 私は顔から火が噴き出るんじゃないかと思えるくらいに、頭に血が上っていくのを感じながら、魔力を手の集中させる。


「兵達から聞いたわよ。ジャスミンが昨日、この姿を皆の前でお披露目していたって! どうして私を呼んでくれなかったのよ!?」


「わーっ!」


 私はリリィの話を聞かずに、叫びながら炎の魔法を使って、あられもない姿をしていた私そっくりの人形を消し炭にする。

 すると、リリィが真っ青になり、床に膝をついた。


「そんな、酷いわジャスミン。今日はこれを抱いて寝ようと思っていたのに……」


「しなくていいよ!」


 もうやだぁ。

 本当なんなの?


 私は半泣きになりながら、もう一度私そっくりなお人形さんを見回して、服装のバリエーションの多さにドン引きする。


 よし。

 全部燃やそう。


 私はそう決心して、魔力を集中して魔法を使おうとした時、兵隊さん達が私の前に立ちはだかった。


「させんぞ! この命に代えても、必ずジャスミン人形は守りぬいて見せる!」


「俺達の夢を、燃やさせたりしない!」


「どうやら、ここが俺の死に場所らしいな!」


「すみません。踏んでもらっても良いですか?」


「我等、カザドの民の力を今こそ見せてやる!」


 なんか、変なのまじってなかった?

 ううん。全部変だよね。

 なんで皆そんなに必死なの?


「お前等黙ってろ!」


 私が兵隊さん達の必死さにドン引きしていると、ミノタウロスが声を上げて、兵隊さん達をかき分けながら私の目の前にやって来た。

 そして、ミノタウロスは私に微笑み、握手を求めるように右手を前に出す。


「負けたぜ。純白の天使。俺の完敗だ」


 え? 何が?


 私は言われた意味がわからず困惑すると、リリィが立ち上がって私に微笑む。


「そうね。私達の完敗だわ。やっぱり、ジャスミンには敵わないわね」


 えーと……。


「負けたとか言われても、何も勝負してないよ?」


 私が思った事を口にすると、ミノタウロスが目を見開く。


 え? 何?


 私がミノタウロスの顔を見てビクッと驚くと、今度はミノタウロスが号泣し始めた。


「うおおぉぉっ。何て美しい心の持ち主なんだ!」


 え? え?

 なんの話?


「敗北者の俺に気遣って、俺を敗北者にさせない為に、そんな嘘までついて! それに比べて俺は何て愚かなんだ! 勝ち負けを気にして、自分が恥ずかしい!」


「マラクス。わかるわ。私も同じ気持ちよ。私達は、とても大切な事を忘れていたのよ。だから、ジャスミン人形を完成させられなかったんだわ」


 ど、どうしよう?

 おバカが2人、ううん。

 周りにいる兵隊さんも全員おバカだし、このおバカ集団から抜け出せなくなっちゃってるよ!?

 誰か助けて!?


 私は助けを求めてトンちゃん達に目を向ける。

 だけど、現実はそんなに甘くない。

 トンちゃんとラヴちゃんは一緒にポーチの中で眠っていて、プリュちゃんは私そっくりのお人形さんを目を輝かせて観賞中。

 オライさんに至っては、既に逃げていた。


 もう駄目だと、諦めかけていたその時、怒声がこの場に響き渡る。


「これは、どういう事だーっ!」


 私や周りにいる皆が、その怒声に振り向くと、そこに立っていたのはドワーフの王様だった。


「よくも、よくも我が愛しい妻と娘を、殺してくれたな!?」


 えーと……また勘違いしてる?

 場の空気が一転したのは嬉しいけど、これはこれで厄介だよぉ。


「貴様だけは! 貴様だけは許さんぞ人間っ! 妻と娘の苦しみを、いや、それ以上の苦しみを味わってもらうぞっ!」


 う、うわぁ……。

 凄く勘違いで怒ってるよ。

 うーん。

 とにかくだよ。

 王様って頭に血が上ったら、人の話を聞かないタイプみたいだし、こうなったらやるしかないよね。


「プリュちゃん!」


 私は覚悟を決めると、プリュちゃんの名前を呼んで、王様に向き合った。


「プリュちゃん。王様の頭を冷やして、お話を出来るようにするよ」 


「わかったんだぞ」


 プリュちゃんは返事をして、私の腕にしがみつく。

 こうして、私達とドワーフの王様の戦いの幕が上がるのであった。

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