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185 百合は花を綺麗に咲かす

※前回のリリィ視点の話の続きになります。

 凄くおバカな内容ですが、最後までお付き合い下さい。

「そう言えば、昨日は言えなかったッスけど」


 ドゥーウィンが思い出したかのように、昨日ジャスミン達が城を抜けだした事を話し出す。

 私は話を最後まで聞いて、ジャスミンが無事である事に安堵した。


「そう。ジャスミンが無事で良かったわ」


 その時、食堂のドアが開かれて、可愛らしい声が聞こえてきた。


「ジャスたんだー! ジャスたんがいっぱいいうよ!」


「アモーレちゃん?」


 声の正体は、ジャスミンととても仲良しになったアモーレちゃんだった。

 アモーレちゃんは目をキラキラと輝かせて、失敗したジャスミン人形を見て回る。


「こんな所にどうしたのよ?」


 私は驚いて、アモーレちゃんに近づいて訊ねる。

 すると、アモーレちゃんは元気な笑顔を私に向けた。


「ごはんたべうの。イイーもたべう?」


 イイーとは、アモーレちゃんが私を呼ぶ時の呼称だ。

 アモーレちゃんは、らりるれろの発音がまだ得意ではないらしく、リリィと言えない様だ。


 それはともかくとして、ジャスミンだったら即倒ものの笑顔を、アモーレちゃんが私に向ける。

 私はアモーレちゃんの頭を撫でながら、微笑んで返事をする。


「そうね。私も頂こうかしら」


 私が答えると、食堂に入りこんでいた兵達がざわつき出す。


「アモーレ様がいらっしゃるぞ!?」


「何故このような所に!? 従者は何をしているんだ!?」


「危険だ! ここは今や戦場だぞ!」


「誰か、誰かアモーレ様をここから逃がしてくれ!」


「駄目だ! 俺達が触ってしまったら、純粋で可愛らしいアモーレ様が汚れてしまう!」


「ちくしょう! 俺達には、何も出来ないのか!」


「馬鹿ッスか? アンタ等」


 煩い外野を放っておいて、私はマラクスに声をかける。


「私はこの子と朝ご飯を食べるわ。私が見ていないからって、気を緩めてはダメよ?」


「わかっています! 師匠がいなくとも、俺は、決して屈したりはしません!」


「このままお開きじゃ駄目ッスか?」


「イイー。あさごはんじゃないよ。おひうごはんだよ」


「え? お昼?」


「うん。 あさごはんは、おかさまとパンたべたの」


「うふふ。そうなのね」


 私はいつの間にかお昼になっていた事を知って、お腹が空くのを感じた。


 もうそんなに時間が経っていたのね。

 全然気が付かなかったわ。

 でもそうなると、ご飯を作るシェフが今はいないって事よね。

 仕方がないわ。

 アモーレちゃんの為に、私が料理するしかないわね。


 私はアモーレちゃんを椅子に座らせて、調理場でオムライスを作り始める。

 実は、愛するジャスミンと結婚した時の為に、私は密かに料理を勉強していた。

 いつか料理を極めて、ジャスミンに料理を披露して、美味しいと言ってもらえる様に今も頑張っているのだ。


 私はオムライスを作ると、ちょこんと座って待っているアモーレちゃんに持っていく。


「わあ! おむあいすだー! やったー!」


「喜んでくれて嬉しいわ。どうぞ召し上がれ」


「いただきまーす」


 アモーレちゃんはお利口さんにそう言うと、スプーンを取ってオムライスを食べ始める。


「おいしー!」


「うふふ。良かったわ。ほら、ドゥーウィン。アンタの分も作ったから、一緒に食べましょう?」


「遠慮なくいただくッス」


 ドゥーウィンが返事をして、ケチャップをオムライスにぬろうと、ケチャップの入った器を持ち上げる。

 そして、ドゥーウィンが自分のオムライスの所にケチャップを持っていこうとした時に、ケチャップを落としてしまった。

 落ちたケチャップは、アモーレちゃんの背中に落ちてしまい、着ているドレスがべチャッと赤色に染まってしまった。


「何やってるのよドゥーウィン」


「ごめんなさいッス」


 慌てるドゥーウィンを、アモーレちゃんが笑顔を向けて優しく撫でる。


「だいじょうぶだよ」


「優しさが心にみるッス。ありがとうッス~」


 私は急いで布巾を持って来て、アモーレちゃんのドレスに付いてしまったケチャップを拭った。

 だけど、流石に染みが残ってしまって、背中が真っ赤になってしまった。

 そして、相変わらず外野は煩い。


「何て健気なんだ!」


「流石は我らがアモーレ姫! 世界一美しい心の持ち主だ!」


「アモーレ様万歳!」


 それから着替えさせようかと思ったのだけど、アモーレちゃんがこのままで良いと言い出したので、着替えの場所もわからないし、私は諦めて三人で仲良く一緒にオムライスを食べた。

 仲良くオムライスを食べ終わると、アモーレちゃんはお口にいっぱいケチャップをつけたまま、そのまま机に頭を乗せて眠ってしまった。


「お腹がいっぱいになって、眠ってしまったわね」


「そうッスね~。起こしたら可哀想ッスし、このまま寝かせてあげるッス」


 私とドゥーウィンがそっとその場を離れると、丁度その時、マラクスが私に話しかけてきた。


「師匠、ついに、ついに完成してしまったぜ」


 私はマラクスの言葉を聞き、無言で頷いて、ジャスミン人形の許へと向かう。

 そして、完成したというジャスミン人形の許までただり着くと、私はじっくりと鑑定に入った。

 まずは瞳から確認し、まつ毛の長さや太さ、そして鼻の角度などを確認する。


 どれくらい経っただろうか?

 かなりの長い時間が経ち、私は額の汗を腕で拭う。

 そして、最後にジャスミン人形のスカートの中を確認し、私はスカートを顔で被りながらこくりと頷く。

 私は立ち上がり、マクラスに振り向いて、真剣な眼差しを向けて目を合わす。 


「この姿、そして、この感触。何から何まで、信じられない程にジャスミンそのものだわ」


「じゃ、じゃあ……」


 マラクスだけでなく、兵達も私に注目して、この場がしんっと静まりかえる。

 私は目をつぶりこくりと頷いて目を開けた。


「間違いなく、これはジャスミン人形と言うに相応しい人形よ」


「うおっしゃあーっ!」


 マラクスが喜び、兵達から祝福の歓声が巻き起こる。


「もうっ皆、アモーレちゃんが起きてしまうでしょう? 静かにしなさいよ」


「はは。その通りだぜ。ついはしゃいじまった」


 マラクスと兵達は皆で微笑み合い、ジャスミン人形の完成に大いに喜びあった。


「やっと、やっとこれでボクも解放されるッスね」


 ドゥーウィンも涙を流して、私達の勝利を祝福してくれた。

 するとその時、食堂のドアが開かれる。


「ちょっと、いったい何の騒ぎなの?」


 ドアを開けて入って来たのは、何処かで見た様な顔をした、ドレスを身に着けた私より少し年上に見える少女だった。


「お后様!? な、何故お后様がここに!?」


 お后様?

 じゃあ、この人がアモーレちゃんのお母様?


「あの人を捜している間に、アモーレまでお昼頃からいなくなったと聞いて、もしかしてと思って来たのよ」


「そういう事でしたか。それでしたら、あちらに」


 兵達が道を開けて、寝ているアモーレちゃんを手差しする。

 すると、アモーレちゃんを見たお后様が、口に手を当てて目を見開いた。


「アモーレの背中から血が!? そんな……」


 お后様がフラフラと膝をつき、ショックでそのまま気を失ってしまった。


「お后様!」


 兵達が慌てだし、全員揃ってオロオロしだす。

 私はその様子を情けないと思いながら、椅子を横に並べて、お后様を担いでその上に寝かせてあげた。


「どうするッスか? 勘違いで気絶しちゃったみたいッスけど」


「そうよね。まあ、別に何かあったわけでもないし、問題ないでしょう」


 私がドゥーウィンの質問に答えたその時だ。

 突然、マラクスが悲鳴を上げる。


「そんな、なんてこった!」


 マラクスの声に驚いて振り向くと、マラクスが涙を流して床を叩いた。


「どうしたのよ?」


 私が訊ねると、マラクスは無言でジャスミン人形の、脇腹に指をさした。

 そして、それを見て私は絶望した。


「そんな……嘘でしょう!?」


「え? 何スか? 何があったッスか?」


「ここを見なさい!?」


「え? 何も無いっすけど?」


「そうよ! 何も無いのよ! そこには、ジャスミンの可愛らしい一ミリにも満たない小さなほくろがあるはずなのに!」


「え、ええぇーっ! 別にそんなのなくても良いッスよ!」


「駄目よ! こんなんじゃ、完成とは言えないわ!」


「師匠! 俺は、俺はどうしたら!?」


「まだよ! まだ、戦えるわ! そうでしょう!?」


 マラクスが涙を拭いて立ち上がる。

 そして、マクラスは私を見て、力強く呟く。


「俺が間違ってました。そうさ。俺は、俺達はまだ戦えるんだ」


「これ以上はやめるッスよ! もう限界ッスよ!」


 ドゥーウィンが情けなくも諦めて悲痛の声で叫んだその時、開けたままのドアの向こう側から、天にも昇る様な心地良くて懐かしい声が聞こえてきた。


「リリィ! トンちゃん!」


 その可愛らしい声に導かれるまま、私はそんな筈はないと思いながらも振り向く。

 するとそこには、この世の奇跡、ジャスミンが立っていた。

 ここに来るはずのない可愛らしいジャスミンは、額から汗を薄っすらと浮かべていて、私とドゥーウィンを真っ直ぐ見る。


「ご主人!?」


「ジャスミン!?」


 私は気が付いた。

 目を奪われる程に綺麗でサラサラな白銀の髪は、走って来たのか少しボサボサに荒れていた。

 それに、目を合わせたら魅了されてしまう程にルビーより美しく澄んだ瞳は、少し潤んでいて、思わず抱きしめたくなってしまう。


「リリィ、トンちゃん。やっと会え…………」


 今にも泣きだしそうな、それでいてとても嬉しそうな笑顔で私達の名前を呼んだジャスミンが、急に言葉を詰まらせる。

 そして、一瞬の出来事ではあったけれど、ジャスミンの顔に変化がおきた。

 ジャスミンは笑顔から表情を青ざめさせて「え?」と、呟いたかと思うと、食堂を見まわしてから死んだ魚の目になったのだ。


 私はジャスミンの相変わらずの百面相っぷりを見て、あまりにも可愛すぎて自然と笑みが零れた。

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