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182 幼女のお城侵入作戦開始です

「いいですか? ここから先は、私の指示に従ってついて来て下さいね」


「うん。よろしくだよ」


 私はオライさんに返事をして、身に着けたローブのフードを深く被る。


「それでは、行きますよ」


 オライさんは私に取り付けられた鎖を手に取って、ゆっくりと歩き出す。


 ここはドワーフ城の城門前。

 私は大きめのフード付きローブを羽織って、手首には鎖を巻いていた。

 鎖を巻いているのは、私が捕まったと思わせる為だ。

 ローブはプリュちゃんとラヴちゃんを隠す為に羽織っていて、鎖はただ巻いているだけで直ぐに外せるようになっている。


 スミレちゃんとアマンダさんは、2人で一緒に別行動をしている。

 お城の外から中の様子をうかがって、必要であればサポートをしてもらうのだ。

 そして、一応もし私に何かあった時の為の保険でもあった。


 サガーチャちゃんも危険を承知の上で、手伝ってくれている。

 私達とは別行動をして、お城の中にいるフェルちゃんを捜しだして、今回の作戦を伝える役目だ。

 もし王様にばれたらサガーチャちゃんが反逆者にされちゃうと断ったのだけど、サガーチャちゃんは心配は無用と言って、手伝ってくれる事になった。


 それと、私は一度トンちゃんに加護の通信を使ってみた。

 だけど結果は音信不通で終わってしまい、そのせいもあって、私には少し焦りが生まれていた。


 私はオライさんの後を歩いて、城門で一度足を止める。

 そして、城門に立っていた人物を見て驚いた。


「ご苦労。戻るのが遅かったな。賊共に殺されたかと思ったわ」


 え!?

 お、王様!?


 私は何故か城門に立っていたドワーフの王様の姿を見て、緊張でごくりと唾を飲み込んだ。

 王様がチラリと私を見て目が合う。


「捕えたか」


「はい。遅くなり申し訳ございません」


「その場で殺しても良かったのだぞ? まあいい。それより、私は今から例の場所へ向かう。わかっているとは思うが」


「はい。もちろん承知しております」


「ならば良い」


 そう言葉を交わすと、王様は歩いて何処かへ行ってしまった。

 私は王様が去って行った後も、緊張が治まらずに、暫らくの間は心臓の鼓動が早くなっていた。


 城門で門番とオライさんが軽く話をして、私はオライさんに連れられて城門を潜り抜ける。

 それから、お城の前の庭園を歩いていると、オライさんが小声で私に話しかけてきた。


「王が城門に立っていた時は、肝を冷やしましたね」


「うん。生きた心地がしなかったよぉ」


「護衛をつけていない所を見ると、やはりアレでしょうね」


「アレ?」


「まあ、気にされなくて良いですよ。王の趣味の様な物ですから」


「ふーん」


 そっかぁ。

 趣味だったら、1人で気楽に楽しみたいから、1人で出かけたとかなのかな?

 うーん……。

 でも、護衛を連れて行かない理由にもならないような。


 と、私がボーっと考えながら歩いていると、オライさんが急に立ち止まる。

 おかげで、背後を歩いていた私はオライさんにぶつかって、鼻を当ててしまって少し痛い。


 痛ぁ。


 私が涙目で鼻を押さえていると、オライさんが私に振り向く。


「すみません。少し、厄介な相手が来ました」


 厄介な相手?


 私が首を傾げたその時、オライさんに若干怒気のこもった声で誰かが話しかけてきた。


「オライ。あの人を見なかった?」


「これはこれはお后様。護衛も連れずにどうされました?」


 お后様?

 じゃあ、王様の奥さんで、アモーレちゃんのママ!?


 私はオライさんの後ろから、そーっと顔を覗かせて、お后様の姿を見る。


 その姿はとても美しく、絵に描いたようなお姫様の様に、綺麗で可愛らしい顔立ちをしていた。

 お后様と言うよりお姫様と言われた方がしっくりくる顔立ちのお后様は、小さな身長も含めて、まるで中学生位の少女のようだった。

 ただ、何やらお怒りのご様子で、眉根が少し上がっている。


「いいから答えて? あの人を見なかったって、あら? この子は?」


 私とお后様の目が合う。

 すると、お后様の顔から怒気が消え去り、私はお后様に顔を近づけられる。

 思いもよらない行動に出たお后様に、私はなんだか恥ずかしくなって、オライさんの後ろへと顔を引っ込めた。

 するとその拍子に、私が手につけている鎖が音を鳴らして、お后様の目に映る。


「鎖……? オライ、貴方まさか、こんな小さな子を牢屋に入れる気?」


 お后様がそう言って、オライさんを睨んで詰め寄る。


「い、いえ。そうはおっしゃられましても、この子は例の賊ですよ? 私は陛下に従っただけで――」


「この子が賊!? まったく、何を考えているのかしら? こんな小さな女の子を賊だなんて! これだから、サガーチャが反抗的になっちゃったのよ!」


 え? サガーチャちゃん?

 なんでここでサガーチャちゃんの名前が?


「お后様の仰りたい事もわかりますが、陛下も何かお考えあっての事です。博士もそれを、きっといつか分かって下さいます」


「私の前で、娘の事を博士って言うの、やめてもらえる?」


 む、娘!?


「も、申し訳ございません」


「本当にあの子ったら、第一王女としての自覚が足りないのよ。アモーレはあんなに素直で可愛いのに、誰に似ちゃったのかしら?」


 え、えええぇぇぇっっ!?


 2人の会話を聞いていた私の頭の中は、それはもう大混乱だった。

 ドワーフの王様に続いて今度はお后様にまで出会ってしまっただけでも、かなり焦ってしまうと言うのに、更にはサガーチャちゃんがまさかの王女様で私の頭の中は最早限界だった。

 そして、限界を迎えた私は気持ちを落ち着かせる為に、目を閉じて深呼吸をする。


 よーし。

 深呼吸したら落ち着いてきたよ。


 落ち着きを取り戻した私は、ゆっくりと目を開けた。

 だけど、その落ち着きは、一瞬にして驚きへと変わってしまう。


「ぴぁ!」


 私は驚きのあまりに変な声を上げて、一歩後退る。

 何故なら、私が目を開けて見えたのは、文字通り目と鼻の先にまで顔を近づけていたお后様の顔だったからだ。


「ふふふ。この子、凄く良いわね。それに、何処かで見た事ある様な顔をしているのよね。何処だったかしら……あっ。そうだわ!」


 お后様が私の手を取って、とても勢いよく楽しそうに言葉を続ける。


「良かったら、娘のアモーレの遊び相手をしてもらえないかしら? あの子も、貴女みたいな可愛い子の遊び相手が出来れば、きっと喜ぶと思うのよ」


 え、えっと……。


 私が勢いに呑まれてたじろいでいると、オライさんが私の肩を掴んで、くいっと後ろにさげて前に出てくれた。


「お后様。陛下をお捜しだったのでは?」


「あら。そう言えばそうだったわね。やだわ私ったら。うふふ」


「陛下でしたら、外出された様ですよ。サルガタナス様に会いに行かれたのではないでしょうか」


「まあ。そうなの? 昨日の晩から帰ってこないから、今朝から裏口で見張っていたのだけど、正門を通って逃げたのね」


「そのようですね」


 オライさんが言葉を返すと、お后様がため息を一つ吐き出して、また怒気のこもった顔になる。


「家族会議をする予定だったのだけど……。まあ良いわ。サガーチャも珍しく何処かへ出かけてしまったし、仕方がないわね。二人が帰って来てからにしましょう」


 お后様は呟くと、私と目を合わせて微笑む。


「また会いましょう」


「う、うん」


 私が返事を返すと、お后様は満足気な顔で、お城へ戻って行った。


 な、なんだか疲れたよ。

 雰囲気がサガーチャちゃんとアモーレちゃんのママって感じで、凄く優しそうな人だったなぁ。

 怒った顔がちょっと怖かったけど。

 って、あれ?


「王様が外に行った事、言っちゃって良かったの?」


 私がオライさんを見て訊ねると、オライさんは顔を真っ青にしながら答える。


「良くは無いですね」


 やっぱりそうなんだ。


「とにかく、先を急ぎましょう」


「うん」


 その後は何も問題なくお城に入る事が出来たのだけど、念の為オライさんの提案で、牢屋に行く経由でリリィのいる場所へと向かう。

 私ははやる気持ちを抑えながら、オライさんの後ろを歩く。


 リリィ。

 トンちゃん。


 暫らくオライさんの後に続いて歩いて行くと、たったの一日だけしか経っていないにも関わらず、もの凄く懐かしく感じる声が聞こえてきた。


「まだよ! まだ、戦えるわ! そうでしょう!?」


 リリィ!


「これ以上はやめるッスよ! もう限界ッスよ!」


 トンちゃん!


 私は声を聞いて、思うより先に走り出していた。

 鎖を外して、私はリリィとトンちゃんの声が聞こえた方へ急ぐ。


「リリィ! トンちゃん!」


 そして、ついに私はリリィとトンちゃんを見つけた。


「ご主人!?」


「ジャスミン!?」


「リリィ、トンちゃん。やっと会え…………え?」


 感動の再会は一転し、私は目の前に広がる光景を見て絶句する。


 えーと……なんだこれ?

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