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181 幼女は心配で動き出す

 魔科学研究地区にある大きな研究施設の建物内の一室の鍛冶工房に、ほんのり甘くてとても良い匂いが漂う。

 時刻はお昼を少しだけ過ぎた頃。

 私は椅子に腰かけて、お昼ご飯の代わりにパンケーキを皆と一緒に食べていた。


「美味しいんだぞ!」


「がおー!」


「サガーチャちゃん。ポーチを作ってくれてありがとー」


「いやいや。こちらこそパンケーキを作ってくれてありがとう。とても美味しいよ」


 ポーチは既に完成していて、その出来は素晴らしく、とても可愛いらしい見た目の腰かけポーチ。

 私は目を輝かせて、何度も手に取って見ていた。

 驚く事に、元々が硬度の高い鱗だったとは思えない程にとても柔らくて、ゴムのように凄く伸びる。

 しかも、柔らかいのに叩くとコンコンと音が鳴る程に、硬いという不思議な感じだ。

 触り心地もプニプニしていて気持ちが良い。


 私が出来上がったポーチに目を輝かせ、皆がパンケーキを美味しく食べていると、サガーチャちゃんが思い出したかのように呟く。


「あっ。すまないジャスミンくん」


「え?」


 私は突然謝罪されたて意味がわからなくて首を傾げると、サガーチャちゃんが申し訳なさそうな顔をして言葉を続ける。


「実は銀色の腕輪なのだけど、リリィと言う名の少女の分だけは、まだ毒針を解除出来ていないんだよ」


「え?」


 私の頭は一瞬にして真っ白になる。


「私がその子の牢屋に行った時には、既にいなくなっていたんだ。それで、そこにいる彼女と、他の二人の毒針を解除した後に捜しにいったんだ。だけど、見つけた時には既に魔族がいて、流石にあの中に入って行く勇気が持てなくてね。申し訳ないけど、近づく事が出来なかったんだ」


 う、嘘?

 じゃあ、リリィは……。


「本当にすまない。その後フェールに会って、君達が城を抜け出した事を聞いてね。それで、私とした事が、その事をすっかり忘れてしまっていたんだ」


「う、ううん。サガーチャちゃんは悪くないもん。気にしないで」


「毒針ってなんなのよ?」


「そう。貴女は知らなかったのね。私達は捕まった時に、腕輪をはめられていたのよ。それには毒針がしこんであって、その毒針を彼女が解除してくれたの」


「そんな事があったなのね」


 アマンダさんがスミレちゃんに説明している間、私の頭の中で不安がぐるぐる回っていた。

 ニクスちゃんの事はもちろん心配だけど、リリィの事がニクスちゃん以上に心配で、我慢出来ないほどになってしまった。


 こうしてる場合じゃない。

 リリィを早く助けに行かないと!

 あの毒針には、エッチな気分にさせる毒があるんだもん。

 早く助けないと、薄い本みたいな展開になっちゃう!


 私は椅子から腰を上げて立ち上がり、ポーチを腰に巻いた。


「サガーチャちゃん、ありがとー! 私、今からリリィを助けに行って来るよ」


「お供するんだぞ!」


「がお!」


 プリュちゃんが私の腕に抱き付いて、ラヴちゃんはポーチの中に飛び込む。


「私も行きますなのですよ!」


 スミレちゃんが立ち上がってそう言うと、アマンダさんが「待って」と私達に呼びかける。


「助けに行くと言っても、そう簡単に都合よく事が運ぶとは思えないわ」


「でも、このままじゃリリィが……」


「落ち着いて? 助けに行くなとは言わないわよ」


「アマンダさん……」


 アマンダさんが私の顔を見て優しく微笑むと、オライさんに真剣な面持ちで顔を向けて口を開く。


「オライ、貴方には一芝居してもらうわよ」


「え!? 私ですか!?」


「ジャスミンを捕まえたと言って、城にジャスミンを連れて行くのが貴方の役目よ」


「待って下さい。それは嘘だと気がつかれたら、私の立場が危ないのではないですか?」


「ええ、そうね」


 アマンダさんがニコッと笑って答え、オライさんは顔を真っ青にして私を見る。


 オライさん、ごめんなさい!


 私は心の中でオライさんに謝罪して、両手を合わせてオライさんに頭を下げる。


「お願い! オライさん。私をリリィの所まで連れて行って?」


 私が頭を下げて頼むと、オライさんは苦笑して頭を掻いた。


「わかりました。命の恩人の頼みを無下に出来ませんし、引き受けましょう」


「ありがとー! オライさん」


 私は嬉しくてオライさんに抱き付く。

 すると、話を聞いていた教授のお爺ちゃんが立ち上がって、何かを取り出して私に差し出した。


「こいつを持ってってくれ」


 私はオライさんから離れて、教授のお爺ちゃんから何かを受け取る。

 それは、ソフトボールサイズの白くて丸い物だった。

 私がそれを、なんだろう? と首を傾げてみていると、教授のお爺ちゃんが勝気な笑みをして口を開く。


「そいつはアブソーバーキューブを、相殺する為に俺が開発した装置だ」


「親方、それは欠陥だらけの実用性皆無の代物じゃないか。そんな物をジャスミンくんに渡すなんて、何を考えているのさ?」


「ふんっ。甘くみるなよひよっ子。おめーが城でダラダラと研究してる間に、改良に改良を重ねて、使えるようになったんでい!」


 私が頭に?を浮かべて、サガーチャちゃんと教授のお爺ちゃんのやり取りを聞いていると、エリゴスさんが説明してくれる。


「その装置は使用者の半径一メートル以内の全てのアブソーバーキューブの効果を、三回まで防げる事が出来る装置ってー代物さあ。アブソーバーキューブキャンセラーとでもー呼んでくれ」


 エリゴスさんの話を聞くと、サガーチャちゃんが呆れて呟く。


「ほら。私の開発したアブソーバーキューブには、遠く及ばないじゃないか。一メートル以内の、しかも三回までだなんて、欠陥品も良い所だね」


「うっせーやい! ったく、口の減らねえ奴だなおめーはよ!」


「ふふん。親方を超えた私には、その権利があるのだよ」


 なんだか、あの2人楽しそうだなぁ。

 って、ボーっと見てる場合じゃないよね!


「大事に使わせてもらうね! 教授のお爺ちゃん!」


「ああ。気をつけろよ」


「うん!」


 私が教授のお爺ちゃんに力一杯に返事をすると、オライさんは立ち上がった。


「それでは参りましょう。私について来て下さい」


「うん! お願い!」


 こうして、私はトンちゃんの連絡を待たずして、再びドワーフのお城へと乗り込む事になった。


 待っててねリリィ! トンちゃん!

 今、助けに行くからね!

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