179 幼女と学ぶ無効化の仕掛け
オライさんとの戦いを終えて、プリュちゃんとアマンダさんが私達に合流する。
それから、私達は教授のお爺ちゃんと目を覚ましたエリゴスさん、そしてオライさんから色々と教えて貰う事になった。
教えて貰った事の一つ目は、道端で私達に教授のお爺ちゃんが話しかけてきた本当の理由だ。
話しかけてきた本当の理由は、私達を匿う為だった。
エリゴスさんから私の事を耳に胼胝ができる位に聞いていた教授のお爺ちゃんは、私を見て一目でわかったらしい。
だから、比較的に安全な自分の鍛冶工房へと連れて来てくれたようだ。
と言っても、結局は誰かが通報したみたいで、通報を受けたオライさんが来てしまったわけなのだけど……。
二つ目は、一見街の人々が私達の事を気にかけていないように見えるけど、実はそんな事は全く無かったという話だ。
この研究施設にも、お城から伝令が来ていて、見つけ次第報告するように言われていたようだ。
そして、怪しまれないように私達を見つけても、騒がずに普段の生活をするように命令されていたらしい。
だから、私とスミレちゃんが魔科学研究地区を歩き回っている時に、既にお城に報告がいっていたようだ。
兵隊さん達が私達の所に来なかったのは、リリィが全ての兵隊さんを足止めしていてくれているおかげだったのだ。
ちなみにオライさんから聞いた話だと、リリィの足止めが無ければ、オライさんがこの場所に来る事も無かったようだ。
そして、ここからが、私達の目的の本題である。
「魔力の流れを読み取る事で、魔力を吸収して魔法の無効化をしていた!? それは本当ですか!?」
アマンダさんが教授のお爺ちゃんに詰め寄る。
「ああ。本当だ。あれぁー、なーんもしねーで、魔法を無効化してるってわけじゃねーんだ」
教授のお爺ちゃんがそう答えると、エリゴスさんがニヤリを笑って説明の続きをしだす。
「アブソーバーキューブは、あくまでも使用者のコントロールあっての代物なんだよ。中には自動で魔力を読み取って、発動する装置もあるけどな。だが、手動のアブソーバーキューブと比べて、応用はきかねえってー代物だ」
うーん……。
どっちにしても応用だとか以前に、そんなの仕組みがわからなきゃ、対策は出来ないよね。
「まあ、自動だろうが手動だろうが魔力の流れ、つまり波長を対象に合わせてやれば、誰でも簡単に対象の魔法の魔力を吸収して抑えられるってー事だ」
えーと……装置との波長が合わなければ、魔法が使えるって事かな?
それなら、魔力の波長を変えれば良んだよね?
だから、あの時オライさんは魔法を使いながら、魔法を無効化に出来る矢を使えてたんだね。
それなら、うん。
「頑張ればどうにか出来そうだよ」
私が笑顔で話すと、スミレちゃんが驚きながら私の顔を見た。
「えっ? 流石なのです。私には、ちっとも理解出来ないなのですよ」
「アタシも波長を合わせるとか、絶対無理なんだぞ」
「がお」
アマンダさんが顎に手を当てて、真剣な面持ちで呟く。
「魔力の波長を合わす……。言っている事はわかるけど、他人の魔力に干渉するなんて、普通はそんな簡単に出来る事では無いわ」
「そうなのよ。でも、一番問題なのは、そこじゃないなのよ。魔力の波長を変えるなんて、普通は難しくて出来ないなの。だから、結局は魔法の無効化を防げないなのよ」
アマンダさんとスミレちゃんが話すと、オライさんが微笑しながら口を挿む。
「まあ、普通はそうですね。自らの魔力の波長のコントロールは、単純に慣れが必要なんですよ」
あれ?
そう言えば。
と、私はそこで、ふと頭に疑問を浮かべる。
「魔法を無効化する為に、相手の魔力の波長がわかる必要があるんだよね? じゃあ、兵隊さん達って皆それが出来ちゃうの? それとも、その自動でってやつなの?」
私が疑問に思った事を訊ねると、オライさんが首を横に振った。
「自動で読み取って魔力を吸収する物は、広域のタイプで使う物なので、対人戦では基本使われませんよ」
「広域のタイプ?」
「はい。例えば、この鉱山街では魔法は使えても魔力を読み取って、対象相手の居場所を探る事は出来ません」
「そう言えば、アマンダさんも魔力探知が出来ないって言ってたもんね」
「そうね。目の前にいる相手にも、それが出来なくて最初は驚いたわ」
アマンダさんが苦笑して話すと、オライさんがこくりと頷く。
「そうですね。ただ、波長を上手くコントロール出来るようになれば、この鉱山街でも魔力を読む事が出来るようになります」
「だな。広域で無効化にする装置、と言うよりかは、自動で波長を読む装置の欠点ってやつだ。アブソーバーキューブってのは、吸収した魔力を使って、その機能を半永久的に仕える代物だ。おかげで便利ではあるんだが、普通ならわからない程度に微弱な魔力を出しちまってんだ」
と、教授のお爺ちゃんがオライさんの言葉に続けて、補足説明を入れてくれた。
すると、それを聞いたアマンダさんが顎に手を当てて呟く。
「つまり、その微弱な魔力を読み取る事で、アブソーバーキューブの位置を把握し、吸収の範囲外を導き出せるという事ね。しかし、そもそも難易度が高すぎて、私には出来ないわね」
うーん……。
アマンダさんは何かわかったみたいだけど、魔力を読めない私には、そこ等辺はサッパリだなぁ。
難易度が高いみたいだし、考えてても仕方ないもん。
気にしないでおこう。
「話を戻しますが、ドワーフの兵が波長を合わせられるかどうか。その答えは、イエスです」
「凄いんだぞ。アタシには絶対出来ないんだぞ」
「がおー」
オライさんの言葉に、プリュちゃんとラヴちゃんも驚きの声を上げると、オライさんは微笑した。
「と言っても、正確には兵だけでなく、ドワーフであれば誰でもそれが出来るんですよ」
「え? どう言う事?」
私が驚いて訊ねると、教授のお爺ちゃんが自分の目を指でさした。
「俺達には魔力ってもんが無いが、この目がある」
「目?」
「アタシにも目はあるんだぞ?」
「がお?」
私とプリュちゃんとラヴちゃんが揃って首を傾げると、お婆ちゃんが微笑む。
「私達はね。魔力を見る事が出来る目を持って生まれるの。だから、何もしていなくても、それが見えているのよ」
「凄いんだぞ」
「がおー」
「じゃあ、今も私や皆の魔力が見えてるの?」
「まっ、そう言う事だな」
と、私の質問に教授のお爺ちゃんが答えた。
すると、スミレちゃんが力無く項垂れて呟く。
「困ったなのよ。魔力の波長を変えるだけでも難しいのに、ドワーフからはそれが見えているなんて、どうしようもないなのよ」
確かに、簡単にはいかなさそうだよね……って、そうだ。
なんでオライさんは、今回の襲撃の時に装置を使わなかったんだろう?
それとも、使わなかったんじゃなくて、持ってこれなかったのかな?
もしくは忘れたとか?
と、私が頭に?を浮かべた時、アマンダさんが顎に手を当てて真剣な面持ちで口を開く。
「話を聞いていて納得したわ。私達が城で捕まった時、何故全員バラバラの場所の牢に入れられていたのか、疑問だったのよ。牢自体も、私達の魔力の波長に合わせて、魔法が効かない様にしていたのね」
あっ。そう言えば、そうだよね。
忘れていたけど、よく考えてみれば凄く不思議だもん。
私はてっきり、みんな一緒の牢屋に入れられると思ってたけど、全然そんな事が無かったんだよね。
なんか、あの時は大変だったから考えてる暇が無くて、ちっとも気が付かなかったよ。
「そういう事です」
アマンダさんの言葉にオライさんが頷くと、エリゴスさんがオライさんを見て指をさした。
「ところでよお。何でオライが、俺達の話し合いに入ってーいるんだ?」
「ふん。決まっているでしょう」
オライさんが顔をキリッとさせる。
「二度も任務に失敗したんです。帰ったら殺されます」
あぁ……うん。
なんかごめんね?
「あっ。そう言えば、私驚いちゃった」
私はアマンダさんに笑顔を向けて、話を切り替える。
「水の魔法って、傷を回復もする事も出来るんだね」
そうなのだ。
アマンダさんは私達に合流すると。スミレちゃんと教授のお爺ちゃんとオライさんの傷を治してくれたのだ。
私も水の魔法を使えるけど、そんな事が出来るなんて思ってもみなかった。
ちなみに、プリュちゃんに知らなかった事を話すと、「あんな凄い魔法をいっぱい使えるのに、そんな初歩的な魔法を知らなかったのか!?」と、凄く驚かれた。
「水の属性は結構便利で羨ましいなのよ」
「うふふ。でも、直ぐに治せるわけではないし、そこまで便利でもないのよ」
「ううん。そんな事ないよ!」
私はアマンダさんに尊敬の眼差しを向ける。
すると、アマンダさんは照れ臭そうに微笑んだ。
キャーッ!
照れてるアマンダさん可愛い!
私がアマンダさんの可愛い反応に興奮していると、工房の出入口から笑い声が聞こえてきた。
「あはははは。ジャスミンくん。相変わらず元気そうで何よりだよ」
私はその声に驚いて振り向く。
するとそこには、見た目が幼く白衣を着た女の子、サガーチャちゃんが立っていた。




