176 幼女が呆れる裏切りの理由
エリゴスさんと、エリゴスさんが教授と呼んだお爺さんに連れられて、私達は教授のお爺さんの研究施設の建物の中に招き入れられた。
そこは、この魔科学研究地区の中でもかなり大きな研究施設で、私もスミレちゃんもラヴちゃんも、お口をポカーンと開けて驚いた。
あっ。そうだ。
念の為プリュちゃんに連絡入れておこう。
私は建物に入る前に、プリュちゃんに連絡を入れた。
建物内では、すれ違う研究者さん達が、お爺さんを見て挨拶をする。
お爺さんは当たり前のように、それに対して答えずに視線を向けるだけだった。
スミレちゃんはと言うと、それを見る度に、何やら物言いたそうにお爺さんを睨んでいた。
そうして建物の中を暫らく歩いて先に進むと、一番奥の研究室に辿り着き、エリゴスさんがドアを開ける。
「さあ、入った入った!」
私とスミレちゃんはお爺さんにお尻を触られて、押されるようにして中に入る。
「エロ爺! 何処触ってるなのよ!」
「はっはっはっはっ! 照れるな照れるな!」
「幼女先輩に触るなって言ってるなのよ!」
あっ。
そっちなんだ?
て言うか、なんだか私はもう慣れちゃったよ。
お爺ちゃんって、たまにこんな感じな人いるよね?
私は気にする事なく研究室に入って、その意外な室内を見て驚きの声を上げる。
「えっ? なんで?」
私が驚いていると、エリゴスさんがドアを閉めて、私の前に立った。
「純白の天使。その反応、無理もないだろーなあ。なんせよお。研究施設に、こんな鍛冶工房があるなんてえ、思ってもみねーもんなあ」
そう。エリゴスさんの言った通り、ここは研究や実験どころか、科学とは無縁の場所にしか見えない鍛冶工房だった。
金属の臭いも凄く強く、鍛冶をする為に使う火床があったりとで、こう言っては失礼かもしれないけど、お爺さんのイメージに凄く合っていた。
「はっはっはっはっ! 驚いたか? 今じゃ俺も教授なんて、ガラにもねえ呼ばれ方してるけどよ。若い頃は親方なんて言われてたんだぜ」
あっ。うんうん。
絶対そっちの方が似合ってる。
「何で研究施設の中に、こんな非科学的な物いれたなのよ?」
「ああん? そりゃあ、お前、俺の本職はこっちだからよお」
「教授はこう見えても、鍛冶師なんだぜえ」
むしろ、そっちの方がしっくりくるよ。
「それよりよ。お前さん達、この魔科学研究地区に何しに来たんだ? まさか、エリゴスの馬鹿に会いに来たわけでもあるめーよ。お前さん達、城を脱走したって言う例の重罪人だろう?」
「え?」
う、うそ!?
知ってたの!?
知ってて、私達をここまで連れて来たの!?
それじゃあ、もしかして、これって罠?
私が焦っていると、そんな私を見てお爺さんが豪快に笑い出す。
「はっはっはっはっ! 嬢ちゃん、おめえ面白いな。心配するな。何もしやしねーよ」
「本当?」
「ああ。本当だとも。俺ぁよ、見ての通り、義理堅ぇ男だからよ! はっはっはっはっ!」
お爺さんが豪快に笑いながら、私の背中を叩く。
すると、スミレちゃんが私を護るように抱き寄せて、お爺さんを睨んだ。
「ただのエロ爺なのよ」
「あはは。ありがとー。スミレちゃん」
「これ位は当然なのです。リリィがいない分は、私がしっかり幼女先輩を護るなのですよ」
スミレちゃん、なんだか久しぶりに、頼れるお姉さんな感じだよ。
と言うか、正直私思ったんだけど、ここにリリィがいなくて良かったよね。
もしいたら、絶対に大変な事になっちゃうもん。
「それで、嬢ちゃん達は何しにここに来たんだ?」
「あっ。うん。えーと……」
正直に魔法を無効化する装置をどうにかする方法を調べに来たなんて言えないし、何て言えば良いんだろう?
私が言い淀んでいると、スミレちゃんがエリゴスさんを見て口を開く。
「そんな事より、こっちも聞きたい事があるなのよ。その答え次第で、こっちもその質問に答えるなのよ」
え?
聞きたい事?
「ほう。良いだろう。言ってみろ」
お爺さんがニヤリと笑って答える。
「エリゴス。お前、フルーレティ様を裏切った理由を教えるなのよ」
あー。
そう言えば、裏切ったんだっけ?
そのわりには、私とスミレちゃんに親しく話しかけてきたよね。
なんでだろう?
エリゴスさんはスミレちゃんの質問を聞くと、鼻でそれを笑い飛ばして、顔をキリッとさせて答える。
「それは簡単なー事だぜえっ。なんせ、オレッチの目的は一つ。純白の天使のパンツを見る為に、フルーレティ様を裏切ったんだからーよおっ!」
エリゴスさんが意味のわからない事を喋った瞬間、その場の空気が凍りつき、お爺さんさえもエリゴスさんを馬鹿を見るような目で見た。
「パンツを……見る為なのよ!?」
「パンチュ? がお?」
「ラヴちゃん、あっちで一緒におままごとしよっかぁ?」
「がおー!」
「おいおいおいおい! そりゃあ、ねえんじゃあねーかあっ!? 純白の天使よお!」
「ラヴちゃんの前でおバカな事言わないでもらえるかな!?」
「幼女先輩! 待って下さいなのです! これは、エリゴスが一枚上手だったなのですよ!」
え?
何が?
「フルーレティ様を裏切りベルゼビュート様側につく事で、幼女先輩と敵対関係になり、戦うという確固たる名目の元にパンツを見る事が出来るなのです!」
「流石はバティンだぜえ! その通り、オレッチの狙いはそこなんだーよおっ!」
おバカなの?
え? 何?
そんなおバカな理由で裏切っちゃったの?
私はあまりにもおバカな理由すぎて、呆れてドッと疲れが出るのを感じた。
「オレッチは聞いちまったんだ。魔性の幼女が魔族と戦う時に見せる純白は、この世のものとは思えない程に、絵にも描けない様な美しさだってなあ。まあ、他にも色々と噂は流れてはいるが、それで付いた二つ名がー純白の天使だろお? 最高じゃーねえか」
絵にも描けないって、それ何処の竜宮城?
おバカなの?
エリゴスさんが微笑して私を見た。
私は背筋に若干の寒気を感じて、たじろいで一歩下がる。
すると、今度は突然ため息を吐き出して、悲しみに満ちた顔で首を横に振る。
「だけどどうだ。実際は裏切った事が、裏目に出ちまったーじゃあないか。オレッチは悲しくも、この通り老いぼれ爺の介護係になっちまったってーわけだ」
「誰が老いぼれだ」
ポカンッと、エリゴスさんがお爺さんに小突かれる。
だけど、エリゴスさんは気にした様子も無く、言葉を続ける。
「しかし、それもこれまでだ! 今こそ純白の天使のパンツを見る時だってー、オレッチにはわかるぜえ!」
そんな時では無いと思うなぁ。
って言うか、どうしよう?
凄く気持ち悪いよ?
私がドン引きしていると、スミレちゃんがエリゴスさんに指をさす。
「可哀想だけど、それは出来ないなのよ!」
うんうん。
言ってあげてスミレちゃん。
お前に見せるパンツは無いみたいな事を。
「おいおいおいおい! どういう事だあ!?」
「今や幼女先輩は、世界中にその名を轟かせる存在なのよ! 即ち、最早アイドルなのよ!」
うん? あれ?
どうしよう?
なんか思ってたのと違う事を言い出しちゃったぞ?
「そして、幼女先輩のペットである私は、言い換えればマネージャも同然なのよ! つまり、幼女先輩のパンツを拝みたければ、マネージャーである私の許可が必要なのよ!」
もう何がなんだかだよ。
意味がわかんないよ。
「そ、そんな……」
エリゴスさんが膝を床につき、両手で床を叩く。
「だからこそハッキリ言わせてもらうなのよ。答えはノーなのよ! パンツを見たければ幼女になって出直してくるなのよ!」
「ちくしょおおおぉっ!」
え、ええぇ……。
エリゴスさん、そんなに?
なんでそんなに悔しそうなの?
なんで号泣してるの?
と言うか、スミレちゃんも本当に意味わかんないよ。
幼女になって出直せって何?
私がエリゴスさんとスミレちゃんにドン引きしていると、スミレちゃんがエリゴスさんの肩に手を乗せて囁く。
「エリゴスには悪いけど、これが現実なのよ。ちなみに私は、能力で衣類とかを透かしてパンツを見る能力を手に入れたから、いつでもどこでも見放題なのよ」
「何てえ……奴だ」
かすれた声でそう呟くと、ズシンッと、エリゴスさんがその場で倒れて気絶してしまった。
そこへお爺さんが駆け寄る。
「エリゴス! おい! 大丈夫かおめえ!?」
「がお?」
「エリゴス、中々の強敵だったなのよ」
スミレちゃんは天井を見上げながら、何処か遠い目をして呟いた。
えーと……うん。
何これ?




