175 幼女に絡んではいけません
魔科学研究地区。
それは、ドワーフ達が科学的に魔法を研究する施設を、所狭しと建てていった場所だ。
そこら中が鉄臭く、あらゆる擬音が鳴り響いている。
更には、たまに爆発音が聞こえて、建物から煙が飛び出していたりと騒々しい。
そんな騒々しいこの魔科学研究地区には、私とラヴちゃんとスミレちゃんで来ている。
目的は魔法を無効化されない為に、何かの情報もしくは物を手に入れる事。
アマンダさんはプリュちゃんと一緒に別行動で、情報を集めながら、離れた場所で私達のサポートをする事になっていた。
私とスミレちゃんは一緒に歩きながら、研究施設の様子をこっそりと覗いて見て回る。
そして見て回って思った事は、前世で日常に使っていた物に似た物があるんだなという事だった。
カメラのような物から、自動販売機のような物まで、様々な物が作られていたのだ。
実は前世で見慣れた物と言うのもあり、この街の雰囲気のせいで今の今まで気が付かなかったけど、街のあらゆる場所に自動販売機が置いてあった。
試しにスミレちゃんは自動販売機でジュースを買ってみると、前世で見慣れた缶ジュースが出て来ていた。
「なんだか、異世界って感じがしないなのです」
「うん。私もそれ思ったよ」
私とスミレちゃんは、お互い顔を合わせて苦笑する。
もしかしたら、私達のように転生した誰かがドワーフの中にいて、同じような物を作ったのかもとスミレちゃんとお話した。
それからも、あっちは何だろう? こっちは何だろう? と、見て回っていると、スミレちゃんが道端で立ち止まって、顎に手を当てて真剣な面持ちになる。
「それにしても、不思議なのですよ」
「そうだよね。なんでこんな物作ってるんだろうね」
私が答えると、スミレちゃんは苦笑して首を横に振る。
「それもそうなのですけど、顔を隠していないのに、私達を見ても誰も何も言わない事が不思議なのですよ。着ている服装が民族衣装と言っても、流石にこれだけ歩き回れば、誰か一人くらいは私に気が付いてもいいと思うなのです。私は見てもわかるように魔族だし、ドワーフから見て大きい筈なのですよ」
あっ。そっかぁ。
サガーチャちゃんが言ってたけど、ドワーフって皆小さいんだもんね。
私はともかく、ドワーフ達から見てスミレちゃんは大きいし、普通は気が付くよね。
それに……。
「すっかり忘れていたけど、私達ってお城を脱走したんだもんね。指名手配されてないのかな?」
「がお?」
「ドワーフ族にとって、脱走者なんてどうでもいい存在なのですかね?」
「あはは。そうだとありがたいかも」
と、私が苦笑して答えると、背後から声をかけられる。
「お前さん達、道端で立ち話なんてしてるんじゃないぞ。邪魔だから他所でやらんかい」
「ふぇっ。ごめんなさい」
私は後ろに振り向いて頭を下げる。
私が頭を下げた相手はツルツルの禿げ頭で、もじゃもじゃの白い髭を生やした、眼鏡をかけた強面で顔の大きな4頭身の小さなお爺さんだった。
うぅ。
なんだか怖そうなお爺さんに絡まれちゃったよぅ。
ここは穏便に、頭を下げるのが一番だよね。
お爺さんは私が頭を下げると、ふんっと気分悪そうに、私に向かってどけっと言うかのように、無言でくいっと顎を振る。
私はそれを見て怖いなぁと思いながら、道を譲ろうとしたその時、スミレちゃんがお爺さんに向かって睨んで口応えを始めてしまう。
「お爺さん。道端って言っても、道はこんなに広いなのよ。お爺さんが私達を避けて歩けば、何も問題ないなのよ」
スミレちゃんの言う通り、田舎町の大通り位に道は広い。
だけども、こういう人と関わると厄介事が増えるだけなので、私としてはスミレちゃんの発言に焦ってしまう。
「ちょ、ちょっとスミレちゃん」
「何だと? 姉ちゃんや。よそ者の癖に、随分と偉そうな事を言うじゃねーか!」
「そっちこそ、幼女先輩に向かって失礼な事を言って何様なのよ!」
「スミレちゃん落ち着いて? 私達も道で立ち話して、邪魔しちゃってたんだから」
「ふん。そっちの子供は姉ちゃんより、ちったあマシな様だな。おい、嬢ちゃん」
「う、うん?」
「わかってんなら、この世間知らずの姉ちゃんの面倒くらい、しっかり見ておけ」
「幼女先輩に向かって、一度ならず二度までも、何て口のきき方してるなのよ!」
「ああ? 何だい姉ちゃんよ? やるってのかい?」
スミレちゃんとお爺さんが睨み合い、今にも取っ組み合いが始まりそうな勢いになってしまった。
あわわわわ。
どうしよう?
私が焦ってオロオロしていると、またもや背後から声が聞こえてくる。
「おいおいおいおい! 教授ぅっ! 何をやってーるんだあ!? そうやって、直ぐに誰彼構わず絡む癖はーよぉ。直せってえ、いつも言ってーるだろーがよお?」
あれ?
この声、どっかで聞いた事があるような?
私は後ろに振り向いて、声の主を見て驚いた。
「エリゴスさん!?」
エリゴスさんは、相変わらずガラの悪そうな雰囲気をしていた。
上着は着ていなくて、ズボンと下駄だけ穿いて、全身がピアスだらけ。
そして、スキンヘッドの頭からは、血管が少し浮いている。
私とエリゴスさんは、お互いに驚き合って目を合わす。
「な、なんでこんな所に純白の天使が、いるってんだーよおっ!? まさか!? オレッチは夢を見ているんじゃーねえのかぁっ!?」
え? うん。
私も驚いたけど、エリゴスさん驚きすぎじゃない?
と言うか、純白の天使はやめて?
「ああ? 何だってんだ? お前の知り合いか? エリゴス」
「あ、ああ。いつも話してーるだろ? オレッチの人生を、変えてくれた純白の天使だぜ」
え?
人生を変えたって、私何かしたっけ?
私が首を傾げていると、お爺さんが私の顔を覗き込む。
そして、頭から足まで品定めをするかのようにじっくり見だす。
すると、スミレちゃんが私とお爺さんの間に割って入って、お爺さんを睨んだ。
何々?
なんなの?
「へえ。嬢ちゃんが、エリゴスの馬鹿が毎日くどくど言ってる子だったのか」
そう呟くと、お爺さんは豪快に笑って言葉を続ける。
「はっはっはっはっ! 悪かったな嬢ちゃん! そう言う事なら、大歓迎だ!」
え、えぇ……。
って、痛っ!
痛いよ!
私がお爺さんの反応に戸惑っていると、お爺さんはスミレちゃんの横をするりと通って、豪快に私の背中を叩きだした。
「こらーっ! 幼女先輩を叩くななのよ!」
「いいじゃねーか。姉ちゃん、そう怒るな」
と言って、今度はスミレちゃんの背中を豪快に叩き出す。
「やめるなのよ!」
な、なんなの? このお爺さん。
すっごいパワフルだよ。
と言うか、私みたいな子供相手だとあまり感じないけど、スミレちゃん相手だとセクハラにしか見えないよ。




