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174 幼女の休息と作戦会議

 お城を脱出した日の翌日、私達は身を隠して、街の様子をうかがっていた。

 と言っても、私とスミレちゃんは宿でお留守番をしている。

 アマンダさんが私とスミレちゃんに、お昼になる前に戻ると言って早朝から街に情報を集めに出かけて行ってくれていて、帰って来るのを待っているのだ。


 ちなみに、フェルちゃんが私達用にドワーフの民族衣装を準備してくれていて、お城を脱出した時に渡してくれた。

 ドワーフの民族衣装はとても可愛くて、フード付きのワンピースのような服だ。

 私はピンクと白の縞々のボーダーで、今はそれに合わせて同色のボーダーの靴下を履いていた。

 そして、スミレちゃんは赤色でアマンダさんは水色の、2人ともボーダーでは無いドワーフの民族衣装を着ている。


 そう言うわけで昨日お城を脱出した後も、私達は街で目立つ事なく行動する事が出来て、宿を取る事も出来たのだ。

 正直に私は野宿を覚悟していたので、フェルちゃんのおかげでもの凄く助かったので、本当に感謝している。


「んーっ」


 私はアマンダさんを待ちながら、ベッドの上で仰向けになって背伸びをする。


 やっぱり、私もついて行けば良かったかな?

 まだお昼までには時間があるのに、ここだとやる事が何もないんだもん。


 ボーっとしながらそんな事を考えていると、プリュちゃんとラヴちゃんが私のお腹の上に寝転がった。

 私はお腹の上に寝転がる2人をなでなでする。


 トンちゃんとラテちゃんからの連絡があれから全くこないし、2人の事が心配だよ。

 だけど、だからと言ってお城に乗り込むわけにもいかないし……。

 やっぱり、ニクスちゃんを助けるのが先だよね。

 よぉし!

 アマンダさんに任せっきりにしてないで、私も様子を見に行こう!


 私が意気込んで起き上がると、お腹で寝転がっていたプリュちゃんとラヴちゃんがコロコロと私の股下に転がる。


「がおー」


 ラヴちゃんがぐるぐると目を回してフラフラと立ち上がる。

 そして、プリュちゃんは頭を横に振って立ち上がると、ラヴちゃんを支えた。


「ご、ごめんね」


 と、私が2人に謝った時、それを見ていたスミレちゃんが「幼女先輩」と話しかけてきた。


「おかしいなのです。リリィの近くから、幼女の匂いがしないなのですよ」


 どうしよう?

 何を言いたいのかわかんない。


「私の予想では、リリィの天敵は幼女だと思っていたなのです。だけど、リリィの近くには幼女がいないなのです。つまりこれは……」


 スミレちゃんが深刻な顔をして、ごくり。と、唾を飲み込む。


「リリィの天敵は幼女以外の何かなのよ!」


「スミレさん、凄いんだぞ!」


「がおー!」


 え? どこが?

 って言うかだよ。

 サガーチャちゃんがくれた薬のおかげで、スミレちゃんの嗅覚がすっかり元に戻って良かったけど、やっぱりこれはこれでドン引きだよね?

 

「あっ。そう言えば幼女先輩」


「うん?」


「商店街の方から、ブーゲンビリアの匂いがするなのですよ」


「え!? ビリアお姉さまの!?」


 もしかして、私達を追って来たのかな?

 もしそうだったら、ちょっとだけ嬉しいなぁ。

 会いに行ったら、喜んでくれるかな?


「はいなのです。サーカスでも見に来たなのですかね?」


 あぁ、そっか。

 たしかにそうなのかも。


「ビリアお姉さまは今回の事を知らないだろうし、サーカスを見に来たのかもね」


 それなら、巻き込みたくないし、わざわざ会いに行かない方が良いかもだよね。

 ちょっと残念だけど、仕方がないよ。


 私が少しがっかりしていると、部屋のドアが開かれて、アマンダさんが部屋に入って来た。


「あ、アマンダさん。おかえり。早かったね」


「ええ。ただいま」


「調べ物は終わったなの?」


「そうね。思っていたより早めに情報が手に入ったわ。早速、作戦会議にしましょう」


 アマンダさんはそう言うと、備え付けの椅子に腰かけて、私達に向き合った。


「まず、先に言っておかなければならない事があるわ」


 そう言うと、アマンダさんは私とスミレちゃんを交互に見てから、言葉を続ける。


「この鉱山街の中では、魔力を探知して、誰かを見つける事が出来なくなっているわ。恐らく魔科学によるものだから、この鉱山街にいる限り、これをどうにかする事は出来ないでしょうね」


「そうなっちゃうと、スミレちゃんの鼻が頼りになるね」


「そうね。この鉱山街で動くのには、スミレが重要な立ち位置に今後なっていくでしょうね」


 私とアマンダさんがそう言ってスミレちゃんを見ると、スミレちゃんはドヤ顔で胸を叩く。


「任せて下さいなのですよ!」


「うん。期待してるからね」


 私がスミレちゃんに笑顔を向けると、スミレちゃんはニヘラと、だらしがない笑みを見せる。


「それでは、本題に入るわね」


 と、アマンダさんは真剣な面持ちで話しだすと、一度大きく息を吐き出してから言葉を続ける。


「サルガタナスの企みはわからないけど、サーカスの公演は予定通り明日となっているわ。そして私が調べた限りでは、当日は魔法を無効化出来る武器を装備した兵達で、厳重に警備される事がわかったわ」


「じゃあ、サーカスの公演中は下手な事が出来ないね」


「困りましたなのですね。リリィがいれば魔法とか関係ないし、問題なかったなのですけど」


 うーん。

 やっぱり、あの時リリィを助けに行った方が良かったのかなぁ。


 私とスミレちゃんが頭を悩ませていると、アマンダさんが人差し指を立てて口を開く。


「そこで一つ提案なのだけど、今から魔科学研究地区に侵入して、魔法を無効化する武器に対抗出来る方法がないか調べに行こうと思うの」


「がおー」


「そんな物もあるのか?」


 ラヴちゃんとプリュちゃんがアマンダさんに、目をキラキラとさせて訊ねた。

 すると、アマンダさんは微笑んで、こくりと頷く。


「どうやら、そのおかげで魔族達は魔法を使えるみたいよ」


「あっ。そっか。言われてみれば不思議だったもんね」


 オライは魔法を使いながら、あの魔法を無効化出来る矢を使っていた。

 あの時は私も必死で、全く疑問にも思っていなかったが、よく考えてみればおかしかったのだ。

 大量に上に向かって放たれた矢には、間違いなく風の魔法がかかっていた。

 確かにあれは、不思議でおかしな現象だった。


「そういう事なら、魔科学研究地区に行って、謎を解き明かすなのよ!」


 スミレちゃんが意気込んで、片手を上げて立ち上がる。

 すると、プリュちゃんとラヴちゃんもスミレちゃんを真似して片手を上げた。

 私がそんな2人の姿を見て、可愛いなぁと顔をほころばせていると、アマンダさんが苦笑して話を再開する。


「出来れば、サルガタナスが行うサーカスの公演中に、私は仕掛けたいと思っているわ。だから、この作戦は今日中でないと意味がないの」


「うん。私もそれが一番だと思う。兵隊さんの警備が一番あつくなるかもだけど、サルガタナスの隙を見つけてニクスちゃんを助けるには、一番良いタイミングだと思う」


「ジャスミン。貴女の様にまだ小さな子供に、こんな事を言うなんて大人として良くないと思うけど、それでも言わせてもらうわ」


 アマンダさんが私の目を真っ直ぐに見て、真剣な面持ちで言葉を続ける。


「貴女の力を、私に貸してほしい。お願い出来るかしら?」


「うん。もちろんだよ。アマンダさん」


 私は笑顔で答えて、こくりと頷いた。


「アタシも頑張るんだぞ!」


「がおー!」


「うふふ。期待しているわ」


「私もなのよ!」


「うん。皆の力を合わせて、頑張ろー!」


 こうして、私達は魔法の無効化に対抗する手段を見つける為に、魔科学研究地区に向かう事になった。

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