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173 精霊は闇夜にさえずる

※今回はトンペットがメインの三人称視点です。

 当分終わりそうにないッスね~。

 ハニーを置いて逃げるわけにもいかないし、どうするッスかね。


 ジャスミン達がドワーフの城を脱出した日の晩、トンペットは目の前で未だに繰り広げられるリリィの戦いを眺めていた。

 そうして、暫らく戦いを眺めていたトンペットは、加護の力を使って他の精霊達に通信を入れて、話をしようと考えた。


 えーっと、ご主人が繋げてくれた加護の流れを利用して……。


 トンペットは他の三人の精霊達に、加護の力を使って呼びかける。


『みんな聞こえるッスか?』


『トンペット? どうしたです?』


『ドゥーウィンか? 連絡がこないって、主様が心配してるんだぞ』


『がお』


 トンペットは暫らく間をおいて考える。

 素直に今の状況を言って良いものかどうか、判断に迷ったからだ。

 連絡をいれないのは、まだ城の中だと言うのもあるが、何より入れる必要性を感じなかったからでもあった。

 そんなわけで、素直に今の状況を説明するのも、必要ないと考えて、トンペットは質問には適当に答えておこうと考えた。


『便りが無いのは元気な証拠ッス。ご主人には、ボクから連絡があったって言わなくて良いッスよ』


『そうなのか?』


『そうッスよ。ご主人の前世の世界のことわざみたいなものッス』


『がお?』


『正確には、便りのないのは良い便りです。使いどころが間違っている気もするですが、それならラテの事も黙っておくです』


『言われてみたら、そんな言葉があった様な気がするんだぞ』


『がおー』


『それより、プリュとラーヴはご主人と一緒にいるッスよね? そっちはどうなったッスか?』


『お姫様とフェールが助けてくれて、今は街でお泊り中なんだぞ』


『がお』


『明日は、アマンダさんが朝早くから、調べ物をするって言ってたんだぞ』


『調べものッスか?』


『そうだぞ。サーカスの公演の日に向けて、主様の友達を助ける為に準備をするんだぞ』


『そうッスか。そっちも大変そうッスね。ところで、ちび姫も助けてくれたッスか?』


『そうだぞ。お姫様、可愛かったんだぞ』


『アモ、あとぶやくとくちた』


『あとぶ役得ちたって何スか?』


『アモ、あとぶやくとく』


『遊ぶ約束だぞ』


『ああ。遊ぶ約束ッスか……。思っていたより呑気ッスね~。少し羨ましいッス』


『何言ってるです。こんな時間に呼びかけて来るなんて、トンペットも呑気です』


『ハニーが目の前で戦ってるけど、残念ながらボクが手を貸せる感じでもないッスからね~。って、それより、ラテは何してるんスか?』


『ラテはフウとランと一緒に、潜入捜査中です』


『その潜入捜査って、何の潜入捜査をしてるんスか?』


『ジャスをびっくりさせて、パンケーキをいっぱい作ってもらう予定だから、今は内緒です』


『ラテは策士なんだぞ! 凄いんだぞ!』


『バカッスね』


『トンペットには言われたくないです』


『バカって言っちゃ、駄目なんだぞ』


『がお』


『はいはいッス』


『それにしても、主様って本当に凄いんだぞ』


『急にどうしたです?』


『だって、普通はアタシ達がこうやって加護の力でお話が出来るなんて、ありえない事なんだぞ』


『がお』


『確かに、それはボクも思ったッス。同じ属性の精霊同士でも、加護の力で通信を行う事自体が、そもそも難易度が高くて難しいッスからね~』


 加護を利用して遠い場所にいる誰かと話をするのは、本来もの凄く難しく、加護を受けている精霊と言えど容易な事では無い。

 一度繋いでしまえば、それに参加した精霊は気軽に繋ぐ事が可能となるが、その最初の繋ぐ事こそが難易度の高く最も難しい事なのだ。

 しかもそれが、別属性を含めたものだから、精霊達が驚くのも無理ない程に凄い事だった。

 同じ属性同士のものであるならば、難しいとは言え、まだ理解出来るものでもあった。

 だが、四属性全てを繋げるというのは、容易であるない以前に本来はありえないのだ。

 その為、トンペットを含めジャスミンと契約を交わしている四人の精霊達にとって、これは前代未聞の驚愕の行為だった。


『そうなんだぞ。アタシなんて、主様がきっかけをくれなかったら、こんなに凄い事なんて絶対に出来ないんだぞ』


『ラテも通信は凄く神経を使うから苦手です。この四人だと、同属性相手でも、きっかけ無しで通信が出来るのなんて、器用なトンペットくらいです』


『まあ、ボクは天才で優秀な精霊ッスからね~。加護の力ではラテには負けてるッスけど、センスはボクの方が上ッスよ』


『バカと天才は紙一重です』


『宝の持ち腐れに言われたくないッス』


『こらっ。喧嘩はやめるんだぞ』


『ドーイ、テーウ、けんかだめ』


『仕方がないッスね~。ラーヴに免じて許してあげるッス』


『ラテもラーヴに免じて許してあげるです』


『ラーヴ、偉いんだぞ』


『がおー』


『あっ。フウとランについて行くから、通信を切るです』


『アタシもラーヴと一緒に、主様とお風呂に入るんだぞ』


『おふおー』


『そうッスか。それじゃあ、話はここまでッスね。みんな健闘を祈るッスよ~』


『期待しててほしいです』


『またなんだぞ』


『がおー』


 トンペットは通信を切って、リリィの戦いの行方がどうなったか確認する為に視線を向ける。


 まだ決着はつきそうにないッスね。

 こうなったら、ボクも出来るだけ邪魔にならないように加勢するッス。


 トンペットは自分の頬を両手でペチリと叩き、気合を入れる。

 そして、目の前で激しく繰り広げられている戦いに、身を投じるのであった。

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