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172 幼女のこっそり裏口脱出

 スミレちゃんを助けてアマンダさんと合流した私は、ビフロンスの犠牲のおかげで、なんとかお城を出る事が出来た。

 私達は見張りの兵隊さんに見つからないように、こっそりと動く。


「流石に城門からは出られそうにないわね」


「うん」


「主様、こっちなんだぞ」


「あ、うん」


「がおー」


 プリュちゃんの案内で、私達は兵隊さんに見つからないように、こっそりと進んで行く。

 話によると、王族しか知らない裏口からフェルちゃんが私達を逃がしてくれるらしくて、今はプリュちゃんの先導でそこに向かっているのだ。

 そうして、暫らく経つと、先頭を進むプリュちゃんが私達に振り向く。


「主様、もうすぐで裏口に着くんだぞ」


「うん」


 私がプリュちゃんに返事をすると、その時、アマンダさんが私の肩をトントンと叩いた。


「ジャスミン、フウとランに連絡はとれないかしら?」


「フウさんとランさん?」


「ええ。少しだけど、嫌な予感がするのよ」


 嫌な予感!?

 ちょ、ちょっとアマンダさん。

 怖い事言わないでよぅ。


「ま、待っててね」


 私はフウさんとランさんと一緒に行動しているラテちゃんに、恐る恐る通信をする。


『ラテちゃん。ラテちゃん聞こえる?』


『ジャスです? 丁度良い所に連絡をくれたです』


『え?』


 丁度良い所?

 どういう事だろう?


『フウとランが潜入捜査するそうです。ラテもそれにつきあってあげるので、ラテ達の事は放っておいて先に脱出するです』


『えぇーっ!? 大丈夫なの!?』


『大丈夫です。では通信を切るですよ』


『え!? ラテちゃん!?』


 き、切られちゃった……。

 本当に大丈夫かなぁ?

 なんだか凄く心配だよぉ。


 私が肩を落としてアマンダさんに視線を向けると、アマンダさんが心配そうに私と目を合わす。


「何かあったの?」


「アマンダさぁん。フウさんとランさんが潜入捜査するらしくて、ラテちゃんがそれにつきあうって……」


 私が涙目でそう言うと、アマンダさんがおでこを片手で押さえて、大きくため息を吐き出した。


「嫌な予感が当たったわね」


「うん」


 ラテちゃん、大丈夫かなぁ……。


「幼女先輩、着いたみたいなのです」


 私がラテちゃん達の事を心配していると、裏口に到着したようで、スミレちゃんに声をかけられた。


 地下なんだ?


 裏口がある場所は、少しだけ地下にある場所のようで、私達はゆっくりと階段を下りていく。

 そうして裏口に到着して、私は周囲を見まわした。

 裏口は見まわす程に広くはないようで、六畳一間位の小さな場所だった。


「リリィはまだ来てないみたいなのですよ」


「うん。そうだね」


「フェールもいないようね。少し上の様子を見て来るわ。スミレ、ジャスミンをよろしく頼むわね?」


「任せておくなのよ」


 アマンダさんとスミレちゃんは2人で言葉を交わすと、アマンダさんは階段を上がって、上の様子を見に行った。

 私はアマンダさんを見送ると、プリュちゃんとラヴちゃんに話しかける。


「ねえ、2人とも。ここって、王族の人しか知らないんだよね?」


「そうだぞ。フェールが安全って言ってたんだぞ」


「がお」


「そっか。それなら良かったよ」


 フェルちゃんの姿が見えないから、少し心配になっちゃったけど、多分大丈夫だよね?


 と、私が考えていると、トンちゃんから「ご主人」と、加護の通信を使って呼びかけられる。


『もう裏口に着いたッスか?』


『あ、トンちゃん。うん。私とプリュちゃんとラヴちゃんとスミレちゃんとアマンダさんは、もう裏口まで来てるよ』


『ラテはまだなんスね』


『えっとね。ラテちゃんは、フウさんとランさんと一緒に、潜入捜査するから先に行っててほしいって』


『そうッスか』


『トンちゃんは今何処にいるの? まだ時間かかっちゃいそう?』


『あー、その事なんスけど……』


『え?』


『実は、ハニーの天敵が出て来ちゃったんスよ。おかげで、こっちは一歩も先に進めない状況ッス』


 り、リリィの天敵!?


『トンちゃん、それって本当なの!?』


『本当ッスよ。ボクもどうすれば良いか、正直さっきから困ってるッス』


『わかったよ。トンちゃん、場所を教えて? 今からそこに行くから!』


『やめとくッスよ。ご主人も、もしかしたら戦い辛い相手ッスから』


『で、でも……』


『心配しなくても、ハニーなら大丈夫ッスよ。だから、先に脱出してほしいッス。ボク等も脱出が出来たら、ちゃんと連絡入れるッスよ』


『……うん。絶対だよ』


 トンちゃんとの通信を終えると、スミレちゃんが私の顔を心配そうに覗き込んだ。


「幼女先輩、どうかしましたなのですか?」


「あ、うん。リリィもトンちゃんも来れないみたいなんだよ」


「何かあったなのですか!?」


 私は驚くスミレちゃんに、トンちゃんから聞いた話を教える。

 すると、スミレちゃんは顔を顰めて、声を唸らせた。


「リリィが苦戦する程の魔族なんて、いるとは思えないなのですよ。もしかしたら、ドワーフの扱う魔科学とか言うのが、相当厄介なのかもしれないなのです」


「うん。そうだよね」


 と言うか、天敵って言葉が凄く引っかかるんだよね。

 天敵って事は、別に強い敵が出たとか、そう言う感じじゃない気がする。

 って、考えても仕方ないよね。

 リリィとトンちゃんなら、多分心配するだけ損しちゃうし、とりあえず今は自分達の事を考えよう。


 私が気持ちを切り替えると、丁度その時、アマンダさんがフェルちゃんと一緒に戻って来た。


「お待たせしてしまって、申し訳ございませんわ」


「ジャスたん!」


「ううん。フェルちゃん気にしな――え? アモーレちゃん!?」


「ジャスたーん!」


 私にアモーレちゃんが勢いよく抱き付く。

 私はまさかのアモーレちゃんの登場に驚きすぎて反応が出来ず、アモーレちゃんに押し倒されるように地面に転がった。


 痛ぁっ!

 ちょっと頭打っちゃったよぉ。

 でもアモーレちゃん可愛いし、まあいっかぁ。

 って、なんでアモーレちゃんがここにいるの?


「ジャスたん! たすけにきたお!」


 え?

 助けに?


 私は目をパチクリとさせて驚く。

 そして私が驚いていると、プリュちゃんとラヴちゃんが転んだ時にぶつけた私の頭を、優しくなでなでしてくれた。


「主様、大丈夫か?」


「がお」


「うん。2人ともありがとー」


 私が2人にお礼を言った所で、フェルちゃんが申し訳なさそうな顔をして、私の目の前まで宙を浮かんでやって来る。


「この通り、ジャスミンに会いたいと言って、アモーレがついて行くって聞かなかったのですわ。騒がれてしまったら、それはそれで困りますし、仕方がないから連れて来ましたの」


「アモーレちゃんは可愛いから、全然オッケーなのよ~」


 と、スミレちゃんが横から顔を緩ませて答える。

 私ももちろん同じ気持ちなので、うんうんと頷いた。


「そう言って頂けると助かりますわ。ところで……」


 フェルちゃんがキョロキョロと周囲を見る。


「他の方達は?」


「えっと……」


 私はリリィ達が来れなくなった事を伝える。

 すると、リリィの件を知らなかったアマンダさんが何かを考える素振りをしてから、フェルちゃんに視線を向けた。

 そして、フェルちゃんも同じように考える素振りをしてから、アマンダさんに視線を向けた。

 2人は視線が合うと頷き合い、私に視線を向ける。


「リリィ達の事はフェールに任せて、私達は別で行動しましょう」


「そうですわね。わたくしもあなた方に協力して差し上げるつもりでしたし、その方が何かと動きやすいかもしれませんわ」


「う、うん。でも、今更かもだけど、アモーレちゃんとフェルちゃんは私達に協力なんかしちゃって大丈夫なの?」


「上手に協力するので、心配ご無用ですわ。それに、あなた方に協力する者は、もう一人いますのよ」


「え? もう1人?」


「はい」


 それって、もしかして王様に捕まったビフロンスなんじゃ?

 どうしよう?

 確かめた方が良いのかな?


「もう1人、それは、この国の一番の博士ですわ」


 博士?

 ビフロンスじゃないんだね。

 うーん……博士かぁ。

 博士博士、どっかで聞いたような……あっ!

 サガーチャちゃんの事だ!

 絶対そうだよ!

 サガーチャちゃんだ!


「そうでしたわ。その博士から、ジャスミンに届け物がありましたわ」


「届け物?」


 私が首を傾げると、アモーレちゃんが小瓶を取り出して「こえだお」と、私は小瓶を差し出される。


「ありがとー」


 私はお礼を言って小瓶を受け取ると、小瓶の中身を確認する。


 なんだろう? これ。

 正露丸みたいなのがいっぱい入ってる。

 臭いは……臭くない。


「わたくしにもよくわからないのですけど、ジャスミンが興味を示した特効薬と言っていましたわ。一日三錠食後にどうぞと、言っていましたわ」


 風邪薬か何かみたい……あっ。

 これって、もしかして!?

 ありがとー! サガーチャちゃん!


 なんだか嬉しくなって私は顔をほころばせる。

 すると、それを見たスミレちゃんとアマンダさんが首を傾げた。

 プリュちゃんとラヴちゃんも私を見て、頭に?を浮かべて目を丸くしている。


 ここを出たら、皆に説明しなきゃだよね。


 と、私がニコニコと考えていると、アモーレちゃんとフェルちゃんが裏口のドアを開けた。


「さあ。早く行きますわよ」


「うん」

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