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167 幼女と牢獄井戸端会議

 薄暗くてジメジメする。

 それに、なんだか変な臭いがするなぁ。


 サガーチャちゃんと別れて、兵隊さんに連れられて来た場所は、お城の地下にある牢屋だった。

 私はこの牢屋に歩いて来る途中で、リリィ達の姿を捜したけれど、残念ながら見つからなかった。

 牢屋に入ると、私は丸くなって思考を巡らせる。


 サガーチャちゃんが教えてくれた通りなら、今日中に誰かが処刑されちゃう。

 絶対にそんな事させちゃ駄目だ。

 でも、この牢屋の中でも魔法は使えないだろうし、どうすれば良いんだろう?


 私はため息を吐き出して、牢屋のおりを眺める。

 そして、試しに重力の魔法で、檻が曲がるか確認をする。


 気が付かれないようにぃ……えいっ。


 私の魔法は檻に命中するも、思った通り檻に魔法は吸収されて消えてしまった。

 しかし、その時に私は気がついた。


 あれ?

 魔法自体は使えちゃうんだ?


 私が驚いて、自分の手のひらを見たその時だ。


「おい。今何かしたか?」


 と、突然、牢の看守兵から声をかけられた。

 私は驚いてビクッと体を震わせて、看守兵に視線を向ける。


「な、何もしてないよ」


「ふーん……。まあいいか。どうせ何も出来やしないんだ」


 看守兵は私の事を疑うような眼差しで見たけれど、そう言って持ち場に戻って行った。


 こ、怖かったよぅ。


 私は涙目で胸を抑えて、一度深呼吸をして冷静になる。


 でも、魔法が使えるなら、何か出来るかもしれないよね?

 考えろぉ。

 考えるんだ私ぃ……。

 うーん……。

 せめて皆が今どんな状況か分かればなぁ。

 だからって看守兵の人に、皆はどうしてますかって、お話なんて出来な…………あれ?

 そう言えば、以前ラテちゃんが、加護の力で話を聞いたって言ってたよね?


 私はラテちゃんの言葉を思い出す。


 ジャス、言っておくですけど、これは大地の加護の通信を受けて聞いた話です。


 そう。そう言っていたのだ。

 私はそれが出来るのならと、直ぐに目をつぶり、加護の力を全身で感じ取れるように集中する。


 出来る。

 絶対出来る筈だよ。

 これまでだって、私はトンちゃん達から加護を受け取って来たんだ。

 トンちゃん達がこの場にいなくても、やってやれないわけが無いんだもん!


 私は更に集中を高めていく。


 微かに流れる通り風。

 私達を支える温かな大地。

 大気に漂う目に見えない水分。

 太陽から注がれる温かな熱。

 全てが自然の加護の元に成り立っているんだ。

 だからそれを、私は感じるだけで良い。


 そして、私は心の声で呼びかける。


『トンちゃん。ラテちゃん。プリュちゃん。ラヴちゃん。皆、聞こえる?』


『え!? あれ? ご主人ッスか!?』


『ジャスです!? あれ? トンペットの声まで聞こえるです!』


『わっ! 主様に、皆の声も聞こえるんだぞ!』


『がお!?』


 私は皆の声が聞こえて、目を開けて声を出さずに、やったーとバンザイをする。

 すると、私の様子を見に来た看守兵と目が合った。


「怪しいと思って見に来たんだが……」


 私は恥ずかしさのあまり、真っ赤になった顔を手で押さえる。

 それを見た看守兵は、ため息を一つして、呆れた顔で私を見た。


「さっきまで眠っていたようだけど、急にバンザイしだしてどうした? 寝ぼけたのか?」


「は、はい」


 本当の事が言えるわけもなく、私が顔を押さえながらそう言うと、看守兵が持ち場に戻りながら呟いた。


「全く呑気なもんだぜ。怪しんでいた俺が馬鹿みたいだ」


 私は半泣きしながら、再び皆に話しかける。


『皆とお話出来たみたいで良かったよ』


『あれ? ご主人? ちょっと泣き声ッスけど、何かあったッスか?』


『ううん。なんでもないから心配しないで』


『そうッスか』


『そんな事よりジャス、これはどういう事です? 加護で通信を可能にしたのです?』


『うん。それに、加護に魔力を流して、皆で会話出来るようにしてみたんだよ。加護だけだと、属性別の加護同士でしか、お話が出来ないと思ったの』


『あ、主様、めちゃくちゃ凄いんだぞ』


『流石ご主人ッスね。ボク達と離れ離れになってから、結構時間が経ってるし、さぞ通信が出来るようになるまで苦労したんスね』


『え? 今さっきやってみて、集中して頑張ったら一回で出来たよ?』


『頑張ったらって、ご主人凄すぎッスよ』


『ジャスはたまにサラッと、とんでもない事を普通の事の様に言うです』


『主様、凄すぎだぞ!』


『がおー!』


『あっ! ラーヴが驚きすぎて、こてんって転がったんだぞ!』


 え? どういう事?

 ど、どうしよう?

 こてんって転がったラヴちゃんが凄く気になる。

 凄く見たいんだよ!


『ジャス。ラーヴはジャスだけじゃなく他の皆の事も心配だから、今はとても心が弱っているです。だから、そんな刺激的な事を言わないでほしいです』


『え? ご、ごめんね? って、あれ? 皆は一緒にいるの?』


『そうッスよ。ボク達は悪い人間に騙された可哀想な精霊って扱いで、一応自由には動けるッス』


『そうなの?』


『フェールのおかげです。今ここにフェールもいて、明日また王様を説得するって言ってるです』


『そうだったんだ……』


 私は皆とそこまで話すと、頭の中でサガーチャちゃんから教えて貰った話を整理した。

 そして、これから誰かが処刑されるかもしれない事を話した。


『あくまで、かもしれないって話に思えるかもしれないけれど、サガーチャちゃんは信頼出来る人だよ。だから、私はサガーチャちゃんを信じるし、処刑を阻止したいの』


『わかったです。ラテはジャスの言葉を信じるです。今からフェールにラテから話して、協力してもらうです』


『え? 良いの?』


『大丈夫です。とにかく、ジャスはトンペット達と作戦を考えるです』


『そうッスね。ご主人は何か良い案はあるんスか?』


『誰が処刑されるかわからない以上、別々に皆を助けに行った方が良いと思うの』


『それなら、アタシはアマンダさんを助けに行くんだぞ。同じ水属性だから、きっとお役に立てるはずだぞ』


『そういう事なら、ボクはハニーの所に行くッス。ラーヴはご主人の所に行くッスよ』


『がお』


『今の流れだと、普通はトンペットがあの姉妹の所に行く流れだったです』


 あはは。

 そうだよね。


 と、思いながら、私はラテちゃんに話を振る。


『あ、ラテちゃん。フェルちゃん、どうだった?』


『ばっちしです。今すぐ逃げやすい様に、色々と手回しするって部屋を出て行ったです』


 フェルちゃん、ありがとーだよ。

 今度会ったら、お礼を言わなきゃだよね。


『ボクがハニーを、それでラテは右っ子と左っ子で、プリュがメイドで、ラーヴがご主人で決まりッスね』


『え? ラテちゃんだけ2人? 大丈夫なの?』


『ジャス、何を言ってるです? ここは鉱山の地下です。ラテの手にかかれば、その気になればこの街ごと埋める事だって可能です』


『ダメだよ! 絶対そんな怖い事しないでね!?』


『心配しなくても、そこまでの事はしないです』


 私はホッと胸をなで下ろして、あっ。と気が付く。


『スミレちゃん、スミレちゃんは?』


『おっぱい女は逆恨み男のお気に入りだから、気にしなくて良いッスよ』


『あはは。たしかにそうかも』


『とにかく、反撃開始ッスよ! ボク達を敵に回した事を、後悔させてやるッス!』


『がおー!』


『ふ、二人とも、穏便に、穏便に行くんだぞ』


『ラテは別に構わないです』


 私は4人の会話をしている姿が、目に見えるように思い浮かんで苦笑する。


『皆、プリュちゃんの言う通りだよ。物騒な事は避けて、穏便にね?』


『わかってるッスよ~』


『残念です』


『がぉ』


『流石は主様だぞ』


 こうして、私達のドワーフ城からの脱出作戦が開始された。

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