163 幼女の親友は真面目で律儀
ドワーフの兵隊さん達が、ハルバードの切っ先を私達に向けながら、じりじりと距離を詰めて来る。
私がこの状況に慌ててオロオロしていると、アモーレちゃんとフェルちゃんがいつの間にかドワーフの王様の許へ移動していた。
そして、アモーレちゃんは王様の足を掴んで、涙目で必死に訴える。
「おとさま、ジャスたんはわういひとじゃないよ!」
「そうですわよ。あの方達は、アモーレを――」
フェルちゃんの話を最後まで聞かずに、王様は2人を手で押し退ける。
「騙されるでない。奴等は、あの容姿を利用して、我等カザドの民を滅ぼしに来た人間だ」
「そんな、そんな筈はありませんわ! あそこには私の友人だっていますのよ!」
「ビフロンス、連れて行け!」
ビフロンス?
「はい。ただいま」
あっ!
目を向けて私は驚いた。
いつの間にか、スミレちゃんがビフロンスに捕まっていたのだ。
そして、そのビフロンスが王様の横に立っていた。
「コラッジオ、聞いてくださいませ! あの方達は、貴方の考えているような方々ではありませんわ!」
「おとさま! ジャスたんをイジメないで!」
「聞き分けなさい!」
アモーレちゃんとフェルちゃんの訴えは、王様には届かない。
そして、ビフロンスがスミレちゃんを捕まえたまま、アモーレちゃんとフェルちゃんを強引に連れて行ってしまった。
「幼女先輩ー!」
「スミレちゃん! アモーレちゃん! フェルちゃん!」
私が3人の名を叫ぶと、王様が私をもの凄く怖い形相で睨みつけてきた。
「我が娘の名を、気安く呼ぶでない! この賊めが!」
王様が私に怒鳴り、ズシンっと、両刃の斧を地面に突き立てる。
「我が誇り高きコラッジオの名に懸けて、貴様をこの私自らが葬ってくれようぞ!」
どどど、どうしよう!?
本当の本当に結構やばいのでは!?
「スミレさんの救出は後にして、この場は逃げた方が賢明ね」
私が頭の中でパニックを起こしていると、アマンダさんがそう言って冷静に周囲を見まわす。
そして、何処からともなくライフルのような物を取り出した。
な、なにそれ!?
この前会った時は、そんな物騒な物持ってなかったよね!?
「フウ、ラン。今後の事もあります。なるべく被害を最小限にして、ここから脱出しますよ!」
「「は~い。任せたまへ~」」
フウさんとランさんは返事をして、左右対称に剣を構えて、魔法で風を起こして兵隊さん達目掛けて飛びかかる。
あわわわわ。
えらいこっちゃだよぉ。
私の目の前で、戦闘が繰り広げられ――ない。
フウさんとランさんが兵隊さん達に飛びかかった直後の事だった。
兵隊さんの何人かが、どこかで見た事があるような四角い石のような物を取りだして、それをフウさんとランさんに向けた途端に魔法が消えてしまったのだ。
「フウッ! ランッ!」
フウさんとランさんが兵隊さん達に取り押さえられ、アマンダさんが2人の名前を呼ぶ。
「「アマンダさん! 私達の事は構わず逃げて下さい!」」
「させん!」
王様がそう言いながら、その大きな体からは想像も出来ないような速さで、アマンダさんに襲い掛かる。
アマンダさんは咄嗟に背後に跳躍して、王様の振り回す両刃の斧の斬撃を避けた。
「ご主人、ボーっと見てる場合じゃないッスよ!」
トンちゃんに話しかけられてハッとなり、私は目の前に迫って来ていた兵隊さんに気が付く。
重力の魔法で――
私は重力の魔法で、兵隊さんを押さえようとしたが、寸ででやめて重力の魔法で後方に勢いよく下がった。
思い出したよ。
あの四角い石みたいなの、幽霊船で見たやつだ。
幽霊船で、ビフロンスがゾンビに使わせた魔法を抑える物だったよね。
「ジャス、不味いです! アマンダも捕まったです!」
「え!?」
目を向けると、アマンダさんが兵隊さん達に取り押さえられてしまっていた。
そんな!
アマンダさんまで!?
そうだ! リリィは!?
リリィは無事なの!?
私は焦りながらリリィの姿を捜す。
そして、リリィの姿を見て、私は驚きのあまり動きを止めてしまった。
「リリさん凄いんだぞ!」
「リリ、ちゅごい」
プリュちゃんとラヴちゃんがリリィを絶賛する。
え? リリィ、え?
アマンダさん達を捕まえちゃうような兵隊さん10人相手に、なんでそんなに余裕で攻撃を全回避してるの?
あっ、でもそうだよね。
リリィだもん。
リリィには10人程度の手練れ相手は役不足だよね。
うんうん。
知ってた。
そして、私はそこでハッとなる。
いやいやいや。
今はそんな事を考えてる場合じゃないよ!
「リリィ! アマンダさん達が捕まっちゃってる! 助けないと!」
私がリリィに向かって叫ぶと、リリィが私の顔を困り顔で見つめ返してきた。
「ジャスミン、私もそうしたいのだけど、出来ないのよ」
「え? なんで?」
もしかして、余裕に見えてるけど、結構ギリギリなのかな?
「だって、約束したでしょう? 暴力はしないって。だから、そんな野蛮な事は出来ないわ」
「ええぇぇぇぇっっ!?」
今はそんなのどうでも良いよ!
なんか大人しいと思ったら、その約束を守ってたの!?
私、リリィのそういう真面目で律儀な所好きだけど、今はそれいらない!
お願い!
空気読んで!?
と、私が絶句していると、突然私の背後に誰かが現れる。
そして、その誰かに私は捕まってしまった。
え? 何?
誰ーっ!?
「久しぶりだね。今は魔性の幼女って名乗ってるそうだね?」
名乗ってない!
それ勝手に言われてるだけだもん!
って、そんな事よりだよ。
「その声、もしかしてサルガタナス!?」
私は捕まりながらも姿を確認する為に、首を回す。
そして私の目に映ったその人物は、全身ピエロの格好をした魔族、間違いなくサルガタナスだった。
「有名人に覚えていてもらえて嬉しいねー。そうさ。オイラはサルガタナスだよ」
サルガタナスはそう答えると、リリィに目を向けてニヤリと笑う。
「おいお前。この娘の命が惜しかったら、言う事を聞くんだね」
「ジャスミン! ……仕方ないわね」
そう言って、リリィは兵隊さん達に取り押さえられてしまった。
「リリィ!」
私がリリィの名前を叫ぶと、リリィは私に目を合わせて微笑み、それを見て私は涙が溢れる。
するとそこで目の前に王様がやって来て、私を見下げた後に、サルガタナスに目を合わせた。
「余計な事を」
「まあまあ良いではないですか。コラッジオ様。博士も他種族の人体実験が出来ると、お喜びになられますよ?」
サルガタナスが笑みを浮かべながらそう話すと、王様がため息を一つ吐き出して、首を横に振った。
「アレか。アレには困ったものだが、我等の発展に一番の貢献をもたらしているのも事実。仕方があるまいか」
「そうでしょうそうでしょう」
王様がまた一つため息を吐き出して、背を向けて歩き出す。
「皆の者、捕えた賊を牢に入れておけ! 例の腕輪を付けるのを忘れるなよ!」
王様はそう声を上げると、私に振り返り目が合った。
「その娘はアレに渡しておけ。但し、精霊共は別だ。何かされては厄介だからな」
「ご主人」
「ジャス」
「主様」
「ジャチュ」
と、トンちゃん達4人の声が重なる。
「皆……」
私はサルガタナスから、兵隊さんに渡されると、銀色の腕輪を付けられる。
こうして私は皆と引き離されて、博士と呼ばれる人物の所まで、兵隊さんに連れられて行く事になってしまった。




