162 幼女はドワーフに歓迎される
でかでかとそびえるもの凄く高い鉱山に辿り着くと、私達はそのまま馬車で鉱山の坑道に入った。
坑道を暫らく進むと、今度は隠し通路のような所に入って、そこを通って進んで行く。
「隠し通路ッスか。これで外部から入れない場所に、鉱山街を作ったんスね」
「その通りですわ。この先は加護……と言うより、魔力ですわね。魔力を遮断する装置が所々に仕掛けてありますのよ」
「もしかして、それのせいでフェールと連絡がとれなかったです?」
「あら? そうでしたの? ラテールから連絡がきていたなんて、全然気が付きませんでしたわ」
フェルちゃんが目をパチクリとさせながら話す。
すると、ラテちゃんが眠そうな目をジト目にしてフェルちゃんを見た。
少しして、進路の先を見ていたリリィが口を開く。
「それにしても、結構長い事進むわね」
「仕方ありませんわよ。鉱山街は地下深くにありますの。到着するまでは、この辺りですと……そうですわね。後一時間程かかりますわ」
「い、1時間……」
私はフェルちゃんの言葉に言葉を詰まらせた。
すると、アマンダさんがフェルちゃんに微笑みながら話しかける。
「時間もあるようですし、一つお訊ねさせて頂いてもよろしいですか?」
「ええ。何かしら?」
「ありがとうございます。では、先程から気になっていたのですが、お忍びで港町まで来ていたとお聞きしたのですが、何をされていたのでしょうか?」
あぁ。
そう言えば、そんな事言っていたっけ?
たしかに、少し気になっちゃうよね。
「その事ですの。それは」
と、フェルちゃんが答えようとすると、アモーレちゃんが元気いっぱいに横から答える。
「ジャスたんのおようふくを、かいにいってたんだよ!」
アモーレちゃんが積んであった荷物の袋を開けて、シャツを取り出した。
そして、両手で広げて、シャツにプリントされたジャスたんをアマンダさんに笑顔で見せる。
「ジャスたんだよ!」
か、可愛い!
可愛すぎて反則だよ!
私がアモーレちゃんに悶えている中、アマンダさんが微笑んで、アモーレちゃんを優しく撫でる。
アモーレちゃんは撫でられながら、「ジャスたん」と言って私と目を合わせる。
「ジャスたんも、おしおにきてくえうの?」
「え? 行く行く! 行きたい!」
「ほんと?」
「うん。本当だよ」
「やったー!」
アモーレちゃんが体全部を使って大きく万歳をする。
その姿がとっても可愛くて、私が顔をほころばせていると、トンちゃんが呆れた顔をして私の目の前に飛んで来る。
「ご主人、良いんスか?」
「良いんだよぉ」
「まあ、良いじゃない。お城に行った方が、案外情報が集まるかもしれないわ」
リリィがそう言うと、トンちゃんは馬車の進行方向を見ながら顔を顰める。
「ボクはどーも、嫌な予感がするんスよね~」
◇
暫らく馬車を乗り続けて約1時間、トンちゃんが声を上げる。
「あっ、ご主人」
「うん?」
「街が見えてきたッスよ」
私は馬車の客室から顔を出して、進行方向を覗き見る。
すると、私の瞳に鉱山街の素敵な景色が飛び込んできた。
フェルちゃんの言っていた通り、鉱山街は地下に作られた街のようで、私達が移動しているこの場所より更に下に大きな街があった。
私はまるで高い山の上から街を眺めるように、鉱山街を見た。
街は沢山の明かりに照らされていて、まるで夜景を眺めているようでとても美しい。
そしてその美しい街の中心に、大きなお城が建っていた。
「きれーい」
私がそう呟くと、フェルちゃんが私の側に来て、街に指をさした。
「街は四つの区画に別れていて、お城の北側が魔科学研究地区ですわ」
「魔科学研究地区?」
「魔法と科学を合わせた魔科学を研究している場所ですのよ」
「ご主人の前世の世界にあった文化とかも、あるんスかね?」
「どうなんだろ?」
「続いて、向かって南側が民が暮らす居住地区ですわ。居住地区のお城の近くで、二日後にサーカスが開かれますのよ」
あっ、あった。
あれって、サーカスのテントだよね?
あそこにニクスちゃんが……。
「そして、西側が農園地区ですわ。もやし栽培が盛んですのよ」
「もやし!?」
「ええ。そうですわ。とっても、美味しいんですのよ」
うん。
私ももやし好きだよ?
でも、なんでもやし?
確かに栄養価は高いけども。
「そして最後、東側が商店街のある商い地区ですわ。普段はそうでも無いのですけど、今は観光客で賑わっていますわ」
と、フェルちゃんの説明が終わると同時に、私達は居住地区の出入口に到着した。
出入口にはドワーフの兵隊さんが数名立っていて、検問をしているようだ。
もちろん私達が乗っているのは、お姫様の乗る馬車なので、なんの問題も無くクリア。
私達はそのまま居住地区に入り、街の中を進んで行く。
「おかしいですわ」
私が馬車の客室から、ラヴちゃんを抱き上げて一緒に街を見ていると、深刻な表情を浮かべてフェルちゃんが喋った。
「え?」
「いえ。いつもより検問に時間がかかったので、そう思っただけですの。きっと気のせいですわ」
「そっか」
と、私は納得したのだけど、アマンダさんとフウさんとランさんは真面目な顔をして、何やら3人でこそこそと話し出す。
私がそれを首を傾げて見ていると、リリィが私の肩をトントンと叩く。
なんだろう? と、リリィに振り向くと、リリィが私の耳元で囁く。
「ドゥーウィンの言う通り、私も嫌な予感がするわ。注意しておいて」
「え? うん」
リリィもなんだ。
多分、アマンダさん達もだよね?
でも……。
私はプリュちゃんと仲良くお話しているアモーレちゃんと、ラテちゃんと楽しそうにお話しているフェルちゃんを見る。
うーん……もしかして、お姫様のアモーレちゃんが誰かに狙われるとか?
よくあるお姫様を誘拐的な……。
私が頭を悩ませていると、街を抜けてお城の城門まで辿り着く。
そして、城門を抜けて広い庭園に出ると、馬車が止まった。
「着きましたわ」
フェルちゃんが客室のドアを開けてくれて、私達は順番に馬車を降りる。
私は馬車を降りてから、大きく背伸びをしてお城を見上げた。
「凄ーい」
お城はとても大きくて、私はおもいっきり見上げて感嘆と声を上げた。
しかしその時、リリィとトンちゃんの言う通り、嫌な予感があたってしまった。
「動くな!」
私はその声に視線を下ろして気がついた。
いつの間にか、私達はドワーフの兵隊さん達に囲まれていたのだ。
兵隊さん達が私達に槍斧、ハルバードの切っ先を向ける。
そして、王冠を被った身の丈が3メートルはあるんじゃないかと思う程の大きな男が、兵隊さん達の合間から現れる。
「賊め。我が愛しき娘アモーレを誑かし、城に侵入するとはな。その見事な手口には恐れ入る。歓迎しようではないか。だが、それもここまでだ」
アモーレちゃんのお父さん?
って事は、ドワーフの王様!?
王様が、自身と同じ大きさもある両刃の斧を持ち上げて、その反動で地面が揺れる。
「貴様等に逃げ道はないぞ。ここで始末してくれるわ!」
どどどどど、どうしよう!?
なんだか、凄く勘違いしてるみたいだよね?
本当に大変な事になってきたよ!
これ、本当にやばいやつなんじゃないのー!?




