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160 幼女と幼女のお姫様

 私達はビフロンスについて行き、ドワーフのお姫様がお食事中のレストランに到着した。

 そこは、流石はお姫様がお食事をしているレストランと言うだけあって、外観からしてもの凄く高級そうなレストランだった。

 私はレストランの前に立つと、緊張しながら手櫛てぐしで髪を整える。

 すると、リリィがクスクスと笑いながら、櫛を取り出して私の髪の毛を整えてくれた。


「リリィ、ありがとー」


「うふふ。いいのよ」


 私達が笑い合うと、スミレちゃんとビフロンスが対照的な表情で私達に視線を向ける。


「幼女先輩可愛いなのですよ~」


「ちっ。さっさとしろよ」


「ビフロンス。今、何か言ったなの?」


「いいや。なんでもないさバティンさん」


 私の髪をリリィがかし終わったので、私はお姫様との出会いに心を躍らせながら、レストランへ入った。

 しかし、レストランに入ると、ドン引きしたくなるような事案が発生していた。

 2歳か3歳くらいの小さな女の子が、縦にも横にも大きな大男に襲われていたのだ。


 その大男は大量に汗を流していて、ボロボロな服を着ていて、その服も汗で黄ばんで汚らしい。

 更には、髪の毛がボサボサで脂っぽく、ここからでも異臭が少しだけ臭ってきていた。

 そして大男は、もの凄くいやらしい目つきで、ハアハアと息を荒げながら女の子を見ていた。


 女の子はおめ目をうるうるとさせて、穿いているスカートをギュッと握りしめていた。

 でも女の子は大男に負けじと、眉毛の端っこを可愛らしく上げながら、口をへの字に曲げて大男を睨んでいる。


 大男は息を荒くしながら女の子にじりじりと迫り、女の子を壁まで追い詰める。

 私は静かに魔力を集中して、魔法で空気を圧縮させた玉を作りだし、大男に狙いを定める。


「どうしてくれんだい? お嬢ちゃん。おじちゃん面目丸つぶれで、このお店もう入れねえよ」


「わたし、わうくないもん。おじさんが、ちゃんとおふおにはいあないのが、わういんだもん」


「何だと? 俺が風呂に入ろうが入るまいが、俺の勝手だろ!」


 そう言って、大男が女の子に掴みかかろうと手を伸ばす。

 それを見て、私は直ぐに大男に向かって魔法を放った。


「大人の怖さってもんを教えてやら――ぐべぁっ!」


 私の放った魔法は大男に直撃して、圧縮された空気が爆発して大男が吹っ飛ぶ。

 そして、大男は吹っ飛んだ勢いでレストランの窓ガラスを突き破り、外まで吹っ飛んで転がった。


「ご主人、容赦ないッスね」


「いいの。女の子を助ける為なんだから」


 私はトンちゃんにそう話すと、女の子の所まで駆け寄った。

 そして、私はしゃがんで目を合わす。


「大丈夫? 怪我はしなかった?」


 私が優しく微笑んでそう訊ねると、女の子がおめ目をキラキラとさせて私の顔を見た。


 え? 何?

 可愛い。


「ジャスたんだー!」


「え?」


 じゃ、ジャスたん?


「まじょっこジャスたん、あいがとー」


 魔女っ娘ジャスたん!?


 この時、私の脳裏に電流が走り思い出す。

 思い出すのは、今まで散々私を苦しめてきたオークの作品。

 ツルっとパイけつ魔女っ娘ジャスたんだ。

 そして私は、少女のキラッキラの眼差しを向けられて、心の底から思ったのだ。


 オークさん、ありがとーっ!

 ツルっとパイけつ魔女っ娘ジャスたんは最高の作品だよ!


 と。


「ったく、アモーレ姫。そうやって直ぐに、思いのまま口にする癖は直して下さいよ? だから、あんな気持ち悪い奴に絡まれるんですよ。さっきの奴、まるで前世のお前だな」


 ビフロンスが私を見て鼻で笑う。


 確かに前世の私も、あんな感じに太ってたし汗っかきだったけど、ちゃんとお風呂は毎日入ってたもん。

 だから、多分臭くはないはずだもん。

 もしかしたら臭かったかもしれないけど……ううん。

 きっと大丈夫!

 それに髪の毛だって、あんなにベッタベタじゃなかったもん。

 失礼しちゃうなぁ……って、あれ?


「アモーレ姫?」


 私は背後に立ったビフロンスと女の子のお姫様を交互に見る。


 この子、お姫様だったんだ。

 でも確かに言われてみると、凄く可愛くて綺麗で高そうなお洋服着てるもんね。

 ドレスじゃないのは、お忍びで来てるからなのかな?


 ビフロンスがキョロキョロと周りを見てから、お姫様に顔を向ける。


「ところで、フェールは何処に行ったんですか? 一緒にご飯食ってた筈ですけど?」


「ヘーウはおトイエ」


「使えねー」


「アンタが言うな」


「ハニーの言う通りッス。使えないのはビフロンスッスよ」


「どっちもどっちです」


「あまり人を馬鹿にしたら、駄目なんだぞ」


「がお」


 トンちゃん達が話に交ざると、お姫様がトンちゃん達を見ておめ目を更にキラキラと輝かせる。


「せいえいさんが、いっぱいいう」


 か、可愛い!

 これはお持ち帰りしたくなる可愛さだよ!

 いやいやいや。

 待て待て私!

 自重しようと心に決めたあの日から、頑張ってきたんだもん!

 治まれ! 治まれ私の煩悩!

 今こそ冷静になる時だよ!


 私は一度、目を閉じて深呼吸をする。

 そして、深呼吸を終えると、お姫様に微笑む。


「皆私のお友達なんだよ」


「すごーい!」


 きゃーっ!

 やーん可愛いーっ!


 お姫様の可愛さに私がメロメロになっていると、スミレちゃんが私の横にしゃがんで、真剣な面持ちになる。


「幼女先輩、大変なのよ」


「え? どうしたの?」


「アモーレちゃんのパンツに、幼女先輩の姿が……違うなのよ! これは、魔女っ娘ジャスたんがプリントされたプリントパンツなのよ!」


 えーと……うん。


「スミレちゃん。ちょっと黙ってて?」


 私はニコッとスミレちゃんに微笑む。

 私が微笑むと、スミレちゃんは何を思ったのか顔を真っ青にして、こくりと無言で頷いた。

 すると、私とスミレちゃんの会話を聞いていたお姫様が、パアッと顔を明るくさせて、自分のスカートを捲ってパンツを見せてきた。


「うん! ジャスたんのパンツなの!」


「あ、本当だ。でもね」


 私は、スカートを捲っていたお姫様の手を、そっと優しく取って微笑む。


「女の子が、自分のスカートを捲っちゃダメだよ」


「うん!」


 私はお姫様が元気よく素直に返事をするので、可愛いなぁと思いながら、優しく頭を撫でた。

 するとその時、大男が起き上がり、外から大声を上げながら歩いて来た。


「おいガキ! どうしてくれんだ!? 落とし前は体で払って貰うぞ!」


 リリィがそれを、イライラとしながら横目で睨みつける。


 どうしよう?

 正直、暴力はダメって言っておいてなんだけど、凄くリリィに頼りたい。

 だってあのおじさん、本当に最低なんだもん。

 うーん……。


 と、私が悩んでいると、私の横を見た事が無い精霊さんが勢いよく通り過ぎて、大男の目の前で止まった。


 精霊さん?

 鎧を着た精霊さんだ!

 もしかして、あの子がフェールちゃん?

 

「何だおめえ?」


「アモーレに悪さする奴は、このわたくしが許しませんわ」


 精霊さんがそう言ったその瞬間に、突然地面がせり上がって、それは勢いよく大男を襲った。

 大男は直撃を受けて、悲鳴を上げながら何処かへ吹っ飛んでいく。


「凄ーい」


 と、私は手をパチパチと叩き拍手する。

 その時、精霊さんの横を綺麗な顔立ちをしている金髪で耳の尖ったお兄さん達が、慌てた様子で上を見上げながら「ぼっちゃーん!」と言いながら通り過ぎて行った。


 ぼっちゃんって、あの大男が?

 うーん……気のせいだよね?

 って、それより今のお兄さん達って、もしかしてエルフなんじゃ?


 と、私が考えていると、お姫様が私の横で大声を出す。


「ヘーウ!」


 お姫様が精霊さんに向かってそう呼ぶと、精霊さんが振り向いて、ニコッと笑顔を見せる。

 そして、精霊さんはお姫様に近づいて、眉尻を上げてちょんっとお姫様のおでこをつついた。


「アモーレ、駄目ですわよ。一人でいる時は、知らない人には声をかけないって、約束しましたわよね?」


「うん」


 お姫様がしょんぼりして俯くと、精霊さんはお姫様の頭を優しく撫でた。

 そして、お姫様の頭を撫でながら、精霊さんが私に視線を向ける。


「アモーレを助けてくれたのですわよね? 感謝しますわ。おかげで助かりましたの。って、あら? ラテールじゃありませんの」


 精霊さんがラテちゃんに気がついて、不思議そうにラテちゃんを見た。


「フェール、久しぶりです」


「何故、年中家でゴロゴロしてるあなたがここに? どういう事ですの?」


 精霊さんは眉を顰めて首を傾げる。


「よ、幼女先輩」


「ん? どうしたの? スミレちゃ――ひっ」


 振り返ると、スミレちゃんの横には、若干怒気のこもった顔をした店員さんが立っていた。


 こ、これは……。


 私は改めて周囲を見まわす。

 店の中は私が放った魔法の影響でぐちゃぐちゃで、そして大きく割れた窓ガラスだけじゃなく、壁も見事にえぐれてしまっていた。


 私の顔からみるみると血の気が引いていき、私は勢いよく頭を下げた。


「ごめんなさいーっ!」


 もうやだぁ。

 私、いっつもこんなのばっかだよぅ。

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