016 幼女と導かれし者達
リリィとブーゲンビリアお姉さんとのお話をしていたら、パパとママも健康診断を終えたので、家族3人で一緒にお家に帰る事になった。
そうして、家に帰ると、家の前に村長の孫で私と同い年のラークスパーくんが待ち構えていた。
ラークスパーくんは、皆からラークと呼ばれている男の子。
紫色のぼさぼさの髪の毛と、つり目で紫色の瞳をしている。
私も何度かラークと遊んだことはあるけれど、いつも何も考えてない馬鹿な少年って感じ。
でも、ラークが私の家に来るなんて珍しいかも。
健康診断の時も、とくに話す事も無かったし、最近は男の子同士でつるんでるのにな~。
「遅かったな!」
偉そうに話すラークの態度に、私は若干苛立ちを覚える。
「何か用?」
「無ければ来ない!」
5メートルも離れてない距離なのに、ラークは遠くにいる人に話すように、大声で喋る。
そして、何か偉そう。
「煩いなー。一々怒鳴らないでよ」
ラークは本当に煩い。
しかも、毎度毎度、喋る時に語尾を強めるから耳が痛くなる。
私がラークと話し出すと、ママが「夕ご飯までには帰って来るのよ」なんて言って、パパと一緒に先に家の中に入っていってしまった。
「それで、用って何?」
若干の苛立ちから、少し素っ気なく話しても、ラークはまったく気にした様子も無い。
そして、ラークは目をつぶって腕を組むと、うむと言って頷いた。
ホント、何か偉そうでムカつくなぁ。
「実は、俺達の秘密基地に、魔族が住みついていたんだ!」
「ふーん。それじゃ、私はこれで」
私はバイバイと手を振り立ち去る。
「待て! ジャスミン! お前は俺の話を聞いていたのか!?」
私はその場を立ち去ろうとしたが、ラークに腕を強く掴まれてしまった。
その力は強く、全く手加減していない。
「もー。痛い。痛いってば。何なのよー」
「何なのじゃないだろ! 秘密基地が一大事なんだぞ!?」
今は、私の腕が一大事だ。
本当に痛い。
これ、絶対に痕が残っちゃうよ!
「そんなの、私には関係ないじゃない。それに秘密基地って、村の外に作ったやつでしょ? 村の外に、子供だけで出たら駄目なんだよ」
「今は、そんな事言ってる場合じゃないだろ!?」
「言ってる場合だよ!」
もうやだこの馬鹿。
そもそも、何でそれを私に言うのよ。
関わりたくない―!
そして腕を離してー!
「なあ、これは子供である俺達にしか、解決できないんだ!ジャスミンも力を貸してくれよ!? 一緒に魔族と戦おうぜ!?」
「嫌だよ! だいたい何で魔族と――」
そこで私はハッとなる。
もしかして、ラークの秘密基地に住み着いた魔族って、パンツ泥棒のオークなんじゃ?
もし、もしも本当にオークだったら、これは千載一遇のチャンスだよね!?
「良いよ。一緒にその魔族を、秘密基地から追い出してあげる」
「本当か!?」
「うん」
「それでこそジャスミンだぜ!」
ようやく私の腕を離したラークが、大喜びで私の背中を何度も叩く。
私は背中からくる僅かな痛みに耐えながら、深いため息を吐いた。
そして、掴まれていた腕を見る。
うわぁ。
やっぱり、痕ついちゃってるよ。
ホント嫌だ。
もう何なのー!?
それから聞いたラークの話だと、他に何人かと話をしているらしく、2人で集合場所へ向かう事になった。
そうして、集合場所まで辿り着く。
するとそこには、ラークの友達の男の子が1人と、リリィとルピナスちゃんとブーゲンビリアお姉さんがいた。
ラークがブーゲンビリアお姉さんを見て、驚きを全身で表現して叫び出す。
「げー! 何で大人がいるんだよ!?」
リリィが、可哀想な人を見る目でラークを見た。
「私が連れて来たからよ」
「ばっかお前! 子供だけでって言っただろ!?」
「魔族がいるかもしれないのに、子供だけで行けるわけないでしょう?」
リリィったら、オークで自分がとった行動を棚に上げて、正論言ってるなー。
リリィとラークが喧嘩を始める。
そんな2人を見て、私は呆れて他の3人の所へ駆け寄って、挨拶を交わす事にした。
「ルピナスちゃんとビリアお姉さまは、健康診断ぶりだね」
「うん」
「ジャスミンちゃんも大変ね。リリィちゃんに話を聞いて、来て良かったわ」
「あはは」
私が乾いた笑いをしていると、ラークの友達が話しかけてきた。
「ジャスミンも来てくれたんだね。ごめんね。つきあわせちゃってさ」
「うん。いいよ。リリオペも無理やり連れてこられたんでしょ?」
「まあね」
ラークの友達の名前はリリオペ。
健康診断で、お世話になった看護師さんの息子さんだ。
歳は同い年の9歳で、ラークより拳一つ分身長が高く少し細めな子だ。
髪の毛の色はラークより明るい紫色で、七三分けにしていて綺麗に整っている。
躾が行き届いたお子さんって感じの、そんな雰囲気をした男の子。
だからだろうか?
一見、頭ぼさぼさのラークと友達に見えないんだよね。
ラークと比べると、性格がすごく落ち着いているし。
それはそうと、リリィとラークはいつまで喧嘩してる気だろう?
あーあー。ついに取っ組み合い始まっちゃってるよ。
私はため息を一つついて、2人の間に割って入る。
「はいはい。やめやめ。早く秘密基地に行こうよ」
「ん? それもそうだな! 行こうぜ皆!」
「ちょっとー。耳元で怒鳴らないでよ。本当うざい」
リリィが悪態をついてラークを睨み、それを見た私は「まあまあ」と、リリィを宥めるのだった。




