159 幼女は友人思いなので話さない
「幼女先輩~!」
ランジェリーショップを出ると、私を呼ぶ声が背後から聞こえてきた。
「あっ。スミレちゃんとアマンダさん」
振り返るとスミレちゃんとアマンダさんがいたので、私は笑顔で手を上げる。
のだけど、スミレちゃんの横を並んで歩いていた人物を見て、顔を引きつらせた。
え?
スミレちゃんの横にいるのって……。
「あいつ、ビフロンスとか言う奴じゃない。何でスミレと仲良く歩いてるのよ?」
「早く成仏しろって感じッスね」
「ストーカーです」
スミレちゃんは私達の所まで来ると、ニッコニコの素敵な笑顔で話し出す。
「さっきそこで、ビフロンスに会ったなのですよ」
「へ、へぇ」
ビフロンスが髪をかき上げてニッと笑う。
「久しぶりだな。相棒」
「はあん? 誰が相棒ですって?」
気安く私に話しかけるビフロンスに、リリィがもの凄く恐ろしい形相をして睨む。
凄い。
リリィが暴力せずに頑張ってる。
その調子だよ!
「お、お前には言ってないだろ?」
「驚いたわ。ジャスミンって、色んな魔族の知り合いがいるのね?」
「え? あぁ……うん。そうだね」
アマンダさんに私が苦笑して答えると、アマンダさんが不思議そう首を傾げた。
多分だけど、アマンダさんに本当の事を教えてあげたら、今すぐにでもビフロンスに襲い掛かりそうだよね?
私としては別に構わないのだけど……。
私はスミレちゃんをチラッと見る。
うん。
凄く良い笑顔だもん。
スミレちゃんとビフロンスは仲が良いみたいだし、そんな事出来ないよ。
私がスミレちゃんの笑顔を見て、黙っていようと心に誓っていると、スミレちゃんが私の手を取った。
「ビフロンスがドワーフの鉱山街に、招待してくれるらしいなのですよ」
「え?」
私は驚いてビフロンスに顔を向ける。
「ありがたく思えよ? 俺は今や、ドワーフ王の一人娘のアモーレ姫の護衛だ。俺が頼めば、その位は容易いさ。丁度お忍びで来ていてな。直ぐに話は通せるぜ」
ええぇぇーっ!?
どういう事ーっ!?
「はあ? アンタ、スミレと仲良くしたくて、適当な事を言ってるんじゃないでしょうね?」
「ば、馬鹿野郎! んなわけねーだろ! 誰もバティンさんとお付き合いしたいなんて思ってねーし!」
言ってる。
言っちゃってるよ。
「そうなのよ。リリィ、ビフロンスはただの友達なのよ」
「そ、そうだ。俺達はただの……」
ビフロンスが、魂が抜けた抜け殻のように項垂れる。
「おっぱい女は意外と罪深い女だったッスね」
「人は見かけによらないです」
「がお?」
「あはは」
と、私が苦笑していると、プリュちゃんが私の腕をトントンと叩く。
「それより主様、詳しく話を聞くんだぞ」
「あ、うん。そうだよね」
いけないいけない。
ビフロンスが思いの外不憫で、うっかりボーっと見ちゃったよ。
私は気を改めて、抜け殻のようになっているビフロンスに話しかける。
「ねえ、ビフロンス。お姫様の護衛をしてるって本当なの? お姫様の姿は見えないみたいだけど?」
「はあ? 本当だけど、だからなんだ? お前には関係ないだろ」
ビフロンスがやる気なさそうに答えると、それを見たスミレちゃんがビフロンスをムッとした顔で見た。
「いくら知り合いでも、幼女先輩にその態度は失礼なのよ」
スミレちゃんがそう言うと、ビフロンスが焦って、慌ててシャキッと姿勢を正す。
「アモーレ姫は今お食事中だ。俺は暇なんで散歩してたのさ」
え?
それって、職務放棄なんじゃ?
大丈夫なの?
「なるほどね。アンタは護衛をサボってるわけね」
「人聞き悪い事言うんじゃねーよ。休憩してるだけだ。それに、俺の他にも護衛はいるんだ。問題ねーよ」
「他にも護衛がいるなの?」
「ああ、そうさ。フェールって名前の土の精霊で、ドワーフ王と契約している生意気な……じゃなかった。可愛い精霊さ」
ビフロンスってば、本音がダダ漏れだよ。
私がビフロンスを呆れて見ていると、ラテちゃんが私の頭をペチペチと叩きだした。
「ジャス、フェールです。ラテのお友達のフェールです」
「え? じゃあ昔居酒屋で働いていたラテちゃんのお友達が、今はドワーフの王様と契約して、お姫様の護衛をしてるんだ?」
「みたいです。ちょっと驚きです」
「そう。なら、ビフロンスが使い物にならなくても、ラテに頼めば鉱山街に入れるかもしれないわね」
「おいこら。どういう意味だこの野郎」
「ビフロンス、リリィは野郎じゃないなのよ」
「じゃあ、どういう意味だこの尼」
「尼とか、女の子に言うなんて最低なのよ」
「違うんだバティンさん。どういう意味だこの雨と言ったんだよ」
いやいやいや。
無理があるよ。
だいたい今は雨降ってないし、しかも先に同じような意味で野郎って言っちゃってるし。
って、よく見たら、アマンダさんがビフロンスを凄く怪しんでない?
でも、仕方ないかも。
だって、流石に態度悪すぎるもんね。ビフロンス。
と、私が考えていると、ラヴちゃんが私をちょんちょんと突いた。
「ジャチュ、がおー」
「あ、うん。そうだね。早くお姫様にお願いしに行こう」
「え? ご主人、ラーヴの言ってる事が、今のでわかったッスか?」
「うん。お姫様に早く会いに行こうって言ってるよ」
「がお」
「凄いッスね。これも大地の加護の力ッスか?」
「そんな力は無いです」
「そうッスか」
「流石幼女先輩なのですよ!」
トンちゃんが何かを言いたげに私を見る。
うん?
どうしたんだろう?
と、私が首を傾げていると、アマンダさんが話し出す。
「フウとランを呼んで来ないといけないわね。私が連れて来るから、ジャスミン達は先に行っていて?」
「うん。って、場所がわかるの?」
「ええ。フウとラン、それにスミレから出ている魔力は目立つもの。集中して魔力の元を辿れば、何処にいるか位はわかるわ」
「おお。流石アマンダさんなのよ」
「魔力を探知出来るのは便利ッスね~」
「そうね。私には難しくて、距離があると無理だわ」
「アタシも出来ないんだぞ」
「がお」
「ふふ。でも、覚えてしまえば簡単よ」
へぇ。簡単なんだ?
私には全然出来ないけどなぁ。
「フウとランを呼びに行って来るわ」
「うん。いってらっしゃい」
私はアマンダさんに手を振って別れる。
それから、ビフロンスの案内で、ドワーフのお姫様がお食事中のレストランへと向かった。




