154 幼女も納得する便利な加護
火の精霊さん達が暮らす集落に辿り着くと、私はヒトデ太郎さんとライリーさんの姿を見つけて、2人を見つめる。
あ。ライリーさんだ。
良かったぁ。
無事だったんだね。
ヒトデ太郎さんも目を覚ましたみたいだし、良かったよ。
って、なんだか楽しそう。
2人の周りには、火の精霊さん達が集まっていて、何やら楽しそうにお話をしていた。
その様子を見ていると、ライリーさんが私に気がついて小走りで近づいてきた。
「お久しぶりですね、魔性の幼女さん。ご無事で何よりです」
「うん。ライリーさんも無事みたいで良かったよ」
「突然あのでかい船が沈んだ時は驚いたものですが、急に夜海が晴れたもんだから、魔性の幼女さんが解決してくれたんだって直ぐにわかりました」
あー。
そう言えば、元々そういう話だったっけ。
私、すっかり忘れちゃってたよ。
「ライリーさん、よくここがわかったんだぞ」
「周辺を捜していたら、この島を見つけて、もしやと思って来てみたんです。いやあ、船が沈んじまった時は、一時はどうなる事かと思いましたけど、ターウオ様も皆さんも無事で良かったです」
「お前等、心配かけたな」
と、ヒトデ太郎さんも私達に近づいて微笑んだ。
「やっと目を覚ましたのね。投げて悪かったわね」
「ああ、気にするな。操られていたんだ。仕方がないさ」
実は操られてるフリだったけど、黙っておこう。
「操られてたわけないでしょう? うふふ。馬鹿ね」
り、リリィ!?
馬鹿ねじゃないよ!
正直に言うのは好感もてるけど、その後の馬鹿ねで台無しだよ!
「はっはっはっ。こいつは一本取られたぜ。投げられただけにな」
何上手い事言ってるの?
と言うか、それで良いの? ヒトデ太郎さん。
「ヒトデが馬鹿で良かったッスね~」
こら。
トンちゃん、あまり失礼な事言わないの。
「そうだわ。それよりライリー、この鱗を加工してほしいのだけれど、出来ないかしら? 造船作業なんかもやってるのでしょう?」
リリィがイフリートから貰った鱗を見せながら、ライリーさんに訊ねる。
ライリーさんはそれを見て、難しい顔をして唸り声をあげた。
「こいつは凄いな。かなり硬度な材質の鱗じゃないか。これはどこで?」
ライリーさんが鱗に触れながら、リリィに目を合わす。
「ジャスミンがイフリートから貰ったのよ」
リリィがそう言うと、ライリーさんとヒトデ太郎さんが驚く。
「ぼ、暴獣イフリートから貰った!?」
「おいおい、どうしたらそんな凄い事になるんだよ?」
ヒトデ太郎さんが目を見開きながらリリィに質問すると、リリィが私を見たので、私は苦笑する。
「ジャスミンがイフリートを負かして、すっかり気に入られちゃったのよ。それで貰ったの。それだけの事よ」
「暴獣イフリートを負かした……? それだけの事って……」
ヒトデ太郎さんが言葉を失って、私を見る。
私はその視線を受けて、再び苦笑した。
「幼女先輩にかかれば、暴獣イフリート如き朝飯前なのよ」
「主様、凄くかっこよかったんだぞ」
「ジャチュ、ちゅごい」
「でも、やりすぎて島が氷河期になったです」
「ご主人はバカッスからね~」
「す、すげえ。俺が眠っている間に、そんな事があったのかよ。流石は純白の天使の二つ名は、伊達じゃねえぜ!」
「流石は魔性の幼女さんです。こりゃあ、山を三つ破壊した魔族を倒したって噂も、あながち間違っちゃいないのでは?」
「あ、あはは」
その話はぶり返さないで?
本当にお願いします。
「まあ、それはそうと、結局加工は出来るの? 出来ないの?」
「あ、ああ。すまない。そうだったな」
ライリーさんはそう言うと、気を取り直して鱗に触れて頷いた。
「こいつは俺には無理だな。長年やってる造船作業でも、鱗を使った船を何度か扱ってはきたが、これ程硬度の高い鱗は初めて見た。これで何を作る予定なんだ?」
「腰かけポーチよ」
リリィがそう言うと、ライリーさんが困り顔で頭を掻いた。
「腰かけポーチって、そりゃあ、そもそも俺の専門外だ」
たしかにそうだよね。
一応黙って聞いてはいたけど、なんとなくそれは思ったよ。
「船を作るよりは簡単でしょう?」
「いやあ、しかしだなぁ。そうは言うけど、そういうのは専門の人間にやらせた方が良い」
「そういうものかしら?」
「しかし、こんなに素材が固いんじゃ、加工できるのはドワーフ族位だろうな」
ドワーフ族!?
この世界にもドワーフっているんだ?
「聞いた事の無い種族ね。何処に行けば会えるの?」
リリィがそう訊ねると、ライリーさんの代わりにラテちゃんが答える。
「ドワーフ族は鉱山地帯で暮らしている種族です。でも、他種族との関わりを持たない種族だから、何処に住んでいるかはわからないです」
「そうなの?」
「精霊様の仰る通りです。残念だが、俺にはわからん」
「ラテ、土の加護を使って、ドワーフの居場所を探れないッスか?」
「出来ないです。ジャスの前世の世界で言う、科学っていうのがあるですよね? ドワーフは魔法とその科学を使って、外界から身を護っている種族です。だから、加護の力を使った所で、捜すなんて無理です」
か、科学!?
まさかのまさかだよ。
この世界にも、科学なんてあったんだ?
「科学? 何それ?」
と、リリィが訝しげな顔をする。
「ハニーは知らなくても、無理はないッス。科学なんて単語、ご主人と契約するまで、ボクだって知らなかったッスからね」
「です。この世界では、科学はドワーフだけの文化です」
「なるほどね……あら?」
リリィはそう言うと、少し何かを考える素振りを見せて、ラテちゃんに顔を向けた。
「思ったのだけど、ラテは何故ドワーフの事に、そこまで詳しいの?」
あっ。
確かにだよ。
なんでだろう?
私が頭を傾げると、ラテちゃんが相変わらずの眠そうな顔のまま、口角を少し上げた。
「土の精霊の大地の加護の情報網は、ドワーフ族が抑えきれるものではないと言う事です」
ラテちゃんはそう言うと、ライリーさんに顔を向けた。
「ライリー、今から直ぐに港町に向かうです。そこなら、ドワーフ族の情報が得られるはずです」
「え、ええ。それは構いませんが、何処の港町に向かえばいいのですか?」
「当初の目的通りの港町で良いです。運が良い事に、そこでドワーフ族がお買い物をしている可能性が高いです」
「え? そうなの? ラテちゃん。でも、なんでそんな事がわかるの? それも大地の加護の力なの?」
「です。その港町にある居酒屋で働く、ラテのお友達が昔言ってたです」
え? 大地の加護は?
「よく来るドワーフが絡み酒でウザいと、言っていたです!」
う、うわぁ。
大地の加護関係無いし、なんかいらない情報入って来たよ。
などと私が考えていると、ラテちゃんが察したのか、私の頭をペチリと叩く。
「ジャス、言っておくですけど、これは大地の加護の通信を受けて聞いた話です。直接会ってお話して聞いたわけじゃないです」
「あ。そうなんだね」
加護って、そんな感じな事も出来るんだ?
直接お話したわけじゃないんだね。
離れた所から加護を使ってお話だなんて、凄く便利だね。
まるで電話みたい。
そんなわけで、私達はヒトデ太郎さんと火の精霊さん達にバイバイをして、ライリーさんの船に乗って出発する事になった。
ちなみにヒトデ太郎さんは、この島が気にいったらしくて、残る事にしたそうだ。
目的地は当初予定していた港町。
港町に着いたら、エルフの里の場所とドワーフの住む鉱山の聞き込み調査だ。
私はまだ見ぬエルフやドワーフとの出会いを、楽しみだなぁと思いつつ、甲板から海を眺めた。




