153 幼女は祭りで盛り上がる
「があっはっはっはっ! すまなんだな、精霊使いよ!」
イフリートが目を覚まして、私を見て出た開幕一番の言葉がこれだった。
「う、うん」
私がぎこちなく返事をすると、私の周りで火の精霊さん達が飛び跳ねる。
「今日は無礼講ですよ!」
「ささっ。どうぞどうぞ」
「お姉さんいける口ですね」
火の精霊さん達がフルーツジュースを片手に舞い踊る。
さて、私が無人島を満面雪景色に変えてしまってから、既に1日が経っていた。
あれから何があったのか簡単に説明すると、私はリリィに慰められながら島をどうにかしようと提案されて、プリュちゃんとラヴちゃんに手伝って貰って島を元に戻した。
島を元に戻した後、イフリートが生きていたので殺さずに看病してあげていると、ビフロンスに捕まっていた火の精霊さん達がやって来た。
それから火の精霊さん達と一緒に、何故かお祭りをする事になってしまった。
火の精霊さん達は木の実や果物を御馳走してくれて、木の枝や小石を使って音楽を奏でて歌い踊り出す。
私は果物を食べながら、楽しく歌って踊る火の精霊さん達を見ながら、イフリートの看病を続けた。
すると、お祭りの騒ぎでイフリートが目を覚まして、火の精霊さん達の姿を見た途端に、大笑いして私に謝罪をしたのだ。
と言うか、イフリートって言葉が通じるんだね。
加護とか関係なしで、普通に喋ってるんだもん。
私は目を覚ましたイフリートに、この島に来た経緯や魔族と戦っていた事などを話すと、イフリートは大笑いしてから口を開く。
「静まっていた火山を活性化させて噴火させた不届き者が現れたと思っていたが、とんだ儂の勘違いだったようだ」
「あ、あはは」
ごめんなさい。
勘違いじゃないです。
火山が噴火したきっかけを作ったのは、私が出した魔法が原因です。
と、後ろめたさいっぱいで、私が本当の事を言えるわけも無いでいると、トンちゃんが私の顔を見て肩の上に座って笑いを堪える。
「それにしても、まさか暴獣イフリートが、こんなに話がわかる奴だとは思わなかったわ」
リリィがキラープラントのお刺身をパクリと口に入れて、うふふと笑う。
「なあに、不思議な事は無い。儂等イフリートは、人間共から身を護る為に、人食いなんて噂を利用させてもらってるんだ」
どうやら、暴獣と呼ばれるイフリート達は、本来人間を食べないらしい。
話を聞くと、自分達の身を護る手段の一つとして、そういう噂を世界に流して、自分達の周りに人が近づかないようにしているのだとか。
「しかし、精霊四匹を従えるとは、幼子とは思えん才能を秘めているな。儂の倅の嫁にしたい位だ」
イフリートはそう言った瞬間、もの凄い速度で地面に叩きつけられる。
地面に叩きつけたのは、もちろんリリィ。
リリィはイフリートの頭に足を乗せて、イフリートを見下げてゴミを見るような目で睨みつけた。
あわわわわわわ。
何やってるのーっ!?
「殺すわよ?」
と、リリィが言うと、それを見ていた火の精霊さん達が盛り上がる。
「いいぞー! やれやれー!」
「お姉さんかっこいいー!」
「あはははは」
やめて!
リリィを煽らないで!
リリィがイフリートの頭を、足でぐりぐりと地面に押さえつける。
「誰を誰の嫁にしたいってぇえっ?」
ドスの利いた声で話すリリィを見た私は、慌ててリリィに飛びついた。
「リリィ落ち着いて!? それ、ただの社交辞令みたいなものだから! イフリートさんも本気じゃないから!」
「がっはっはっ……がはっ。随分威勢の良い娘だ。それと社交辞令では無いぞ。勿論本気だ」
リリィの眼光がキラリと光る。
私は必死にリリィに抱き付いて抑える。
イフリートさんも口から血を吐きながら、何言ってるの!?
って言うかだよ。
「お嫁になんて行かないからね!」
「何? それは残念だ」
リリィはようやく落ち着いて、ふんっと鼻息を荒げてイフリートから足をどけた。
う、うーん……幽霊船でも感じた事だけど、最近リリィがどんどん直ぐに手を上げてる気がする。
これは何とかしないとだよね?
「所詮イフリートと言っても、ただの獣なのよ。リリィが相手では、この程度なのよ」
「一撃で気絶してたくせに、ドヤ顔で偉そうな事言ってるッス」
「流石スミレ、調子が良いです」
「スミレさん、かっこいいんだぞ」
「がお」
え?
今のかっこよかったの?
「そんな事より、さあさあ皆で祭りを楽しみましょう!」
「ほらほらお姉さん達も一緒に踊りましょうよ!」
私がプリュちゃんの発言に首を傾げていると、助けた火の精霊さん達が私を囲って踊り出す。
やーん、可愛い。
「よーし。踊っちゃおう」
私も火の精霊さん達と一緒に、歌に合わせて見よう見まねで踊り出す。
そうして、暫らくの間祭りを楽しんでいると、座って私達を見ていたイフリートが「さて」と言って、立ち上がった。
「儂はそろそろ戻るとしよう」
「イフリートさん、もう帰っちゃうんだね」
「ああ。くれぐれも、儂の事は内密に……おー、そうそう。忘れておったわ」
イフリートが何かを思い出したようにそう言うと、突然自分の鱗を一枚ベリッと剥がす。
ひぃっ。
何? なんで?
結構凄い音したよ!?
私がそれを見て若干引いていると、イフリートが鱗を私の目の前に置いた。
その鱗は、直径1メートルはある大きな鱗で、目の前に置かれた私は少し身構える。
「精霊使いよ、これを使うがよい」
私は言っている意味がよくわからなくて、首を傾げて頭に?を浮かべると、イフリートが大笑いして説明する。
「儂の鱗だ。こいつで、その火の精霊の鞄を作ってやってくれ。燃やしてしまって、すまなんだ」
鞄?
鞄って……あっ。
リリィが作ってくれた腰につけてたポーチの事かな?
気にしてくれてたんだ。
「ありがとー。イフリートさん」
「がおー」
私とラヴちゃんが笑顔でお礼を言うと、イフリートは豪快に笑いながら話し出す。
「があっはっはっはっ! 気にするでない。儂の鱗は固い。加工は大変だろうが、その分、かなり丈夫な物が出来るぞ」
イフリートはそう言うと、最後に「ではな」と言って、その場を去って行った。
一時はどうなる事かと思ったけど、イフリートさんが良い人でよかったよ。
素敵な物までくれるなんて、今度会えたらお礼しよう。
イフリートを見送ると、リリィが私に振り向く。
「私達もそろそろ戻りましょう?」
「あっ、うん。そうだね」
私は返事をして、イフリートから貰った大きな鱗を魔法で持ち上げる。
そして、私達は火の精霊さん達と一緒に、火の精霊さん達が住む集落へと向かった。




