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152 幼女も本気で戦います

 暴獣イフリートが咆哮し、更に火山活動が活発になる。

 火山の火口から溶岩を帯びた岩や黒い火山灰が周囲に飛び散り、地面に亀裂が走って、そこから溶岩が次々と私達を取り囲むように溢れ出す。


「グオォォッ!」


 と、イフリートが雄叫びを上げて、私とリリィに飛びかかってきた。

 2階建ての一軒家と同じくらいの大きさのイフリートは、その巨体とは思えない程のスピードで私とリリィに迫り、私とリリィを食べようと大口を開ける。

 すると、すかさずリリィが私をお姫様だっこして、背後に跳躍してイフリートを避けて溶岩の上に立った。


「ジャスミン。暴獣イフリートがあの程度なら、ジャスミンの魔法で簡単に勝てると思うのよね」


「え?」


 ど、どうだろう?

 イフリートって、見た目からして凄く怖いんだもん。

 それに、大人が何人で束になってかかっても、敵わない程強いんだよ?

 いくら私でも……。


 と、考えていると、イフリートが口から炎を吐き出して私達を襲う。

 リリィはそのまま溶岩の上を走ってそれを避けると、イフリートが吐き出した炎が溶岩に当たり、溶岩が激しく爆ぜる。


 ひぃぃっ!

 無理無理!

 絶対に無理だよ!


 私が爆ぜる溶岩を見て顔を青ざめさせていると、リリィが真剣な面持ちで呟く。


「それにしても、溶岩のせいで動き辛いわね。これから、ちょっとだけ荒っぽくなるけど許してね? ジャスミン。反撃するわ」


「え?」


 リリィが私をお姫様だっこしたまま、イフリートに向かって走り出す。

 そして、リリィは溶岩を蹴り飛ばして、それをイフリートにぶつけた。


 溶岩を蹴っちゃった!

 リリィってば凄すぎだよ!


 しかし、そこは流石の暴獣イフリートである。

 リリィが蹴り飛ばした溶岩に当たっても溶ける事も燃え上がる事も無く、それどころか、かすり傷一つしていない。


「グオォォッ!」


 溶岩を当てられたイフリートが、雄叫びを上げて飛びかかってきた。

 リリィは私をお姫様だっこしたまま、イフリートの攻撃を次々と避けていく。


「ジャスミン、しっかり捕まっていてね」


「う、うん!」


 リリィがイフリートの猛攻を避けながら、反撃に出る。

 私をお姫様抱っこしているとは思えない程の速度と正確さで、イフリートのお腹を連続で蹴り上げる。


「オォォッ!」


 お腹を連続で蹴り上げられたイフリートは後ろに飛び退いて、鱗の合間から炎を大量に吐き出して、私達に向けて口を大きく開けた。


「あれは不味いわね」


 と、リリィが言った瞬間だった。

 イフリートが口から、私達に目掛けて、炎の光線を吐き出した。

 リリィはそれを咄嗟に避けて、なんとかギリギリでかわす。


 ひえぇぇっ!

 な、なんなのあれーっ!?


 イフリートが口から放った炎の光線は、私達の背後にあった森林を焼き払い、触れた物を全て一瞬で炭にしてしまった。


 本当の本当にガチなやつだよ!

 絶対やばいよ死んじゃうよ!


「危なかったわね。ジャスミン、大丈夫だった?」


「う、うん」


 でも、こんなのと、このまま戦ってなんかいられないよね。

 逃げなきゃ絶対殺されちゃう。

 早くスミレちゃんを起こして、逃げないとだよ!


 イフリートの攻撃はまだ続く、一瞬で私達との間合いを詰めて、次々に攻撃を繰り出してくる。

 だけど、リリィも負けていない。

 イフリートの攻撃を余裕で全てかわして、たまに反撃をしていた。

 でも、私の心情はちっとも余裕が無かった。


 イフリートってば、本当にやばいよ。

 一番何がやばいかって、さっきからリリィの攻撃を食らって、全然怯まないんだもん。


 私が顔を青ざめさせてそんな事を考えていると、ラテちゃんが私の頭をペチリと叩いた。


「ジャス、さっきから何してるです?」


「え?」


「ジャスは今、ラテを含めた四人の精霊と、契約を結んでるです。リリィのお荷物になってる場合じゃないです!」


「で、でも……」


 私は言い淀む。

 リリィの攻撃を受けても全く怯まないイフリートが怖すぎて、私は怖気づいてしまっていた。

 リリィがいなかったら、私は今頃イフリートに美味しく頂かれて、胃の中にいたかもしれないと恐怖していたのだ。

 そのくらいに、私は今もの凄くビビッていた。


「ボクはご主人のビビりな所が見ていて面白いから、あえて言わないようにしていたッスけど、そろそろそれもお終いにした方がいいかもッスね」


「主様、主様はイフリートなんかに、絶対負けないんだぞ」


「がお」


 私は4人に真剣な眼差しで見つめられる。

 そして私をお姫様だっこしていたリリィが、イフリートの攻撃を避けながら、私の顔を見てクスッと笑った。


「ほら、私の言った通りでしょう? ジャスミンなら、きっと出来るわ」


「リリィ……」


 私がリリィの目をジッと見つめると、リリィは凄く優しい顔をして私に微笑んでくれた。

 私は、そのリリィの微笑みを見て決心する。


「うん。私、頑張るよ」


 私はリリィに地面に下ろしてもらって、イフリートと向き合う。


「ジャス」


「うん。ラテちゃん」


 私は重力の魔法を使って、イフリートに何万倍もの重力を与える。

 だけど、イフリートはそんな凄まじい重力を浴びながらも立ち上がり、私の目の前まで接近した。

 そして目の前まで来たイフリートが、前足を振り上げて襲い掛かってきたけれど、私は風の魔法を使って空を飛びイフリートの攻撃をかわす。


「トンちゃん、プリュちゃん、お願い!」


「任せるッス!」

「頑張るんだぞ!」


 私がトンちゃんとプリュちゃんを呼ぶと、2人は同時に返事をして加護を魔力に変換する。

 そして、私は風と水の魔力を両手に集中して、魔法陣を空中に作り出した。


 イフリートが私を見上げて跳躍し、炎を吐き出しながら接近して来た。

 その姿は、見るだけで恐ろしく、目をつぶりたくなる程に怖い。

 だけど、私はもう怯まない。


 イフリートの炎が私をかすめて、腰のポーチを燃やし、ラヴちゃんは私にしがみついて難を逃れる。


 頑張れ私!

 怖くたって立ち向かうんだ!


 私はしっかりとイフリートに狙いを定めて、詠唱を唱え始める。


「我が名はジャスミン。ジャスミン=イベリス……」


 イフリートが私に迫り、私を爪で切り裂こうと襲い掛かって来た。

 だけど、その爪は私には届かない。

 私の目の前にリリィが跳躍して現れて、イフリートの爪を片手で受け止める。


「慈悲を抱かず、全てを吹き飛ばす風の神々よ……」


 私は詠唱を続けて魔力を集束していく。

 そんな中、リリィがイフリートを掴んで地面に投げ飛ばす。


「悪いけど、もう手加減は無しよ」


 イフリートが雄叫びを上げて、再度跳躍して迫りくる。


「生物に死を与え、全てを凍らす水の神々よ」


 私は詠唱を続けながら、リリィの発言に若干心を乱される。


 え?

 リリィ、今手加減って言った?

 ねえ?

 手加減って言ったよね?

 って、ダメダメ!

 集中、集中しろ私ぃ!


 私は気持ちを落ち着かせて、詠唱を続ける。


「今こそ我が命に従い、燃え盛る獄炎を消し飛ばせ!」


 リリィが迫りくるイフリートを蹴り上げて、イフリートが悲鳴をあげながら、私の目の前に飛ばされてきた。


炎封氷嵐ブリザードエンペラー!」


 詠唱を終えたその瞬間、魔法陣から凄まじい勢いで氷と風の集合体が、私の目の前に蹴り飛ばされたイフリートに向かって放たれる。

 それは、周囲を巻き込み突き進み、この島全体がもの凄い猛吹雪に包まれた。

 その凄まじいまでの吹雪で、島全体の気温も一気に下がって溶岩は凍り付き、まるでここが雪国なのかと錯覚する程の雪で島が真っ白に覆いつくされた。

 そして私の魔法の直撃を食らったイフリートは、真っ逆さまに地面に落下して、ズシンッと、鈍く大きな音を周囲に響かせて地面に落ちた。


「流石ご主人ッス」


「主様かっこいいんだぞ」


「この位、ジャスなら出来て当然です」


「がおー」


 トンちゃん達が思い思いに話す中、私は一瞬で変わってしまった猛吹雪が吹き続ける島の雪景色を眺めながら、ゆっくりと地面に降り立つ。

 すると、リリィが私に駆け寄って来たので、私は顔を青ざめさせて微笑んだ。


「リリィ、どうしよう? 手加減するの忘れちゃったよ」


 この時の私は微笑みながらも顔を青ざめさせていたけれど、この顔の青ざめは冷えきったこの気温のせいでは無くて、間違いなくやりすぎてしまった自分の行いが原因だった。

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