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151 幼女を食べようとしてはいけません

 ビフロンスがリリィに蹴られて吹っ飛んだ後、私達はスミレちゃんから、船が沈んでからの事を聞きながら溶岩から逃げる。

 ゾンビ達はビフロンスがいなくなった事で、私達を追わずに溶岩から逃げ出したので、邪魔をされる事なく話を聞く事が出来た。


 スミレちゃんの話をまとめるとこうだ。

 まず、船の操縦の件なのだけど、スミレちゃんが言うには、何も考えてなかったそうだ。

 プリュちゃんのおかげで、スミレちゃんは沈んでいく船を脱出したのだけど、船酔いで暫らくの間ぐったりしていたプリュちゃんを看病していたらしい。

 それからプリュちゃんも私と契約をした事で、私の居場所がだいたいだけどわかったので、この島に来た。

 驚く事に、スミレちゃん達が最初に出会ったのがビフロンスだったようだ。

 それで、人を捜しているからと、私達の捜索を始めた。

 もしかしたら、ビフロンスが火の精霊さん達に脅して連れて来いと言った人間は、スミレちゃんの事だったのかもしれないと私は思った。

 とまあ、それはともかく、その後はラテちゃんを見つけて、今に至るわけだそうだ。


 そうして、スミレちゃんから何があったか聞き終わる頃、私はもう一つの疑問をリリィを見て口に出す。


「ねえ? さっきから気になっていたんだけど、リリィ、そこ溶岩の上」


「え? そうね」


「そうねじゃないよ! なんで? なんでリリィは、溶岩の上を走れちゃってるの!?」


 そう。

 何故かリリィは、溶岩の上を走っていたのだ。

 沈むでも、溶けるでも、燃えるでもなく、溶岩の上の表面を駆け抜けていた。


「ほら。水の上も、走ろうと思えば走れるでしょう? それと一緒よ」


 いやいやいや。

 走れないよ!

 そんなの普通は出来ないよ!

 と言うか、そもそも、ここ水の上じゃないから!

 水と溶岩じゃ、全然違うんだから!


「流石ハニーッス」


「リリさん凄いんだぞ」


「がおー」


「バカは便利で羨ましいです」


 私にくっつく4人が、思い思いに呟く中、私は止まらぬ進化を見せる親友を見て微笑む。


 よーし。

 今回も気にしないでおこう。

 うん。

 それが良いよね。


 私がリリィの事で現実逃避していると、スミレちゃんが何かを思い出したかのように、ポンッと手を叩く。


「すっかり忘れていたなのですけど、ラヴちゃんの試験? は、合格って言われたなのですよ」


「え? そうなの?」


「仲間を助けに行く途中でキラープラントに襲われた時に、テストの評価が下がる事を恐れずに、人助けの為に火の玉を投げたのが高評価だったです」


 あ、あぁ……あれね。

 あれ、リリィが何も考えず投げただけなんだけど、黙っておこう。

 うん。

 それが良いよね。


 などと考えながら、私はニッコリとラヴちゃんに微笑む。


「良かったね。ラヴちゃん」


「がおー」


 ラヴちゃんは合格したのが嬉しかったようで、私に返事をすると笑顔でバンザイをした。


 うひゃぁっ。

 ラヴちゃん可愛い!


 私がラヴちゃんの可愛さに、顔を綻ばせていたその時だ。

 突然、ゴゴゴオォッっと、もの凄い轟音が聞こえてきた。

 私は驚いて、何事かと周囲を見る。

 すると、プリュちゃんが私の背後に指をさして叫ぶ。


「主様! 大変なんだぞ!」


「え?」


 プリュちゃんが指をさした背後に振り向くと、割れた地面から噴出した溶岩の中から、巨大な何かが飛び出した。


「な、なぁあーっ!?」


 私はその何かを見た時に、あまりにも驚きすぎてしまって、上手く言葉を言い表せずに叫んで後退った。


 それは見た目がトカゲのようなドラゴンのような、爬虫類を思わせる姿をしていて、頭から大きな角を生やしていた。

 大きさは2階建ての家と同じくらいの大きさで、体中が硬い鱗に覆われていて、鱗の隙間から時たま炎を噴出させていた。

 そして、ズシンッと大きな音を立てて地面に降り立ち、私達を見下げて吠える。


「グォオオオオォォッッ!」


 ひぃぃ!

 なんか出てきた!

 なんかすっごいのが出て来たよ!


「ぼうぢゅうイフリート、おきた」


「暴獣イフリート!? それって、かなりやばいやつじゃない!」


 ラヴちゃんが呟くと、リリィが驚いて顔を青くさせた。

 その様子に気づいたスミレちゃんが、リリィに向かって訊ねる。


「リリィ、知ってるなの!?」


「何言ってるのよ! 知っているに決まってるでしょう!」


 そう。

 この世界に住む住人であれば、誰でも知っている名前だ。

 私も姿を見たのは初めてで、ラヴちゃんから名前を聞くまで、ドラゴンか何かだと思ってしまった。

 スミレちゃんが知らなかったのは意外だったけど、暴獣イフリートは有名なのだ。


 暴獣イフリートは、この世界に生きる凶暴な生物だ。

 そもそも暴獣と言うのが、この世界で凶暴な生物を表す呼称なのだけど、その中でもイフリートは同じくくりで扱うべきか疑問に思う程に、かなり危険な生物なのだ。

 前世の世界でもイフリートと言う名の存在は、色んな作品で使われていたから、名前だけなら知っている人が殆どだろう。

 だから私も前世では、このイフリートと言う名前の生物を知っていた。

 そして、私の前世での認識では召喚獣と言うイメージが強かったのだけど、この世界のイフリートはそんなものではない。

 まず、この世界のイフリートは雑食だ。

 雑食でなんでも食べるイフリートは、その中でもとくに人肉を好み、人を見かけると食べる為に襲ってくる。

 そして、大人が何人かで束になって戦っても、簡単に食い殺されてしまう恐ろしい暴獣なのだ。


 と、そんなわけで、もちろん私も顔を青ざめさせていた。

 と言うか、ビビりすぎて足を止めてしまっている。


「たかが暴獣相手、私が追い払ってやるなのよ! 所詮イフリート、炎の属性を自在に操る私には――ぐきゅう」


 何も知らないスミレちゃんが、イフリートの前に立ち、見事に踏みつぶされる。


「スミレちゃん!」


「めちゃくちゃ……強いなの……よ」


 そう言って、がくり。と、スミレちゃんが気を失う。


 あ、なんだかやられ方がギャグっぽい。

 うーん……ギャグっぽいし、とりあえず大丈夫そう?

 て言うか、多分スミレちゃんの中でのイフリートも、前世の私と大差ないんだろうなぁ。


「スミレ、アンタのおかげで目が覚めたわ」


 え? リリィ?


「たかがトカゲ一匹に怯えて逃げてなんか、いられないわよね!」


 トカゲって、そんな可愛いもんじゃないよ!


 私は慌ててリリィの腕を引っ張る。


「リリィ、ダメだよ! 逃げなきゃ食べられちゃうよ!」


「ジャスミンを食べるのは、私の役目よ!」


「おバカな事言ってる場合じゃないよ!」


 あわわわわわわ。

 イフリートがこっちを見てるよ!

 絶対やばいよ!

 あの目、絶対ご飯見つけたって目だよ!


「ご主人、覚悟を決めるッスよ」


「トンペットの言う通りです。どっちにしても、逃げられそうにないです」


「う、うぅ……」


 こうして、なんの前ぶれも無く突然現れた暴獣イフリートと、生死をかけた戦いが始まってしまった。


 うぅ……怖すぎるよぅ。

 イフリートがさっきから、息を吐き出すたびに口から火とか吐いてるし、出来れば関わりたくないよぅ。

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