150 幼女もジト目で呆れます
物理も魔法も効かないビフロンスに、リリィが何度も飛びかかる。
だけど、やっぱり攻撃が当たらずに、全てすり抜けてしまっていた。
そんな中、私はどうすればいいのか考えていたのだけど、更に厄介な事が起こってしまう。
突然、地面が揺れ始めたのだ。
「じ、地震!?」
「違うッスよご主人! あそこを見るッス」
トンちゃんが指をさす。
「え!?」
トンちゃんが指をさした方を見ると、そこは、さっき私の魔法が地面を切った場所だった。
そしてその場所から、何やら赤い物が、溶岩が少しだけ噴き出してきていた。
「あわわわわわわ……」
「あわあわ言ってる場合じゃないッスよ! ご主人、ここはやばいッス!」
トンちゃんがそう言った瞬間だった。
溶岩が勢いよく噴き出して、地面が崩れる。
そして崩れた地面の隙間から、これでもかと言う程に溶岩が次々と噴き出した。
「ジャスミン!」
リリィが私の名前を呼んで近づいて、私を担いでその場を離れた。
「捕まった火の精霊さん達が!」
私がそう叫ぶと、ラヴちゃんがボソボソと呟く。
「わたちたち、ようがんでとけない」
「え? じゃあ、大丈夫なの?」
「がお」
「そっか。良かったぁ」
「むしろ、あの檻が溶岩で溶けて、逃げ出せるんじゃないッスか?」
「がお」
と、ラヴちゃんがこくりと頷く。
おお。
そう言う事なら、本当に良かったよ。
「私達の方は、良くないわよ!」
「え?」
リリィが後ろを気にしながら走るので、私は後ろを確認する。
すると、もの凄い速度で迫りくる溶岩と一緒に、ビフロンスが私達を追って来ている姿が見えた。
「逃がすか!」
「アイツ、本当にしつこいわね!」
「でも、どうしよう? 攻撃が効かないから、逃げるしか出来ないよ? 火山が噴火しちゃって、もたもたなんて出来ないし」
私がそう言った時、前方の地面に亀裂が走り、そこから溶岩が勢いよく飛び出した。
「嘘でしょう!?」
リリィが急ブレーキして、その場で止まる。
すると、どこに隠れていたのか、ゾンビ達が私達を囲むように現れる。
そしてそんな中、色んな場所の地面に亀裂が走って、次々と溶岩が噴出されていく。
「追い詰めたぞ! 火山噴火なんて予定外な事が起きちまったけど、おかげでやっと恨みが晴らせそうだ」
ビフロンスがニヤリと笑う。
私はリリィから降ろされて、ラヴちゃんを見て考える。
火の精霊さんは溶岩に触れても大丈夫。
それなら契約をして炎の加護を受ければ、もしかしたら、溶岩に対応できるかもしれないよね。
それなら!
「ラヴちゃん。お願いがあるの」
私はラヴちゃんを、目の高さまで持ち上げて、真剣な眼差しで見つめる。
「私と契約してほしいんだ」
「ジャスミン!? 何言ってるのよ! これ以上、精霊と契約したら寿命が!」
「大丈夫」
「大丈夫って、そんな事……」
リリィは何か言いたげな表情を見せたけど、私の真剣な目を見て言い淀んだ。
そして、どこか悲しげな顔で私に微笑む。
私はリリィの微笑みを見てから、ラヴちゃんに振り返り、真剣にジッと見つめ続ける。
すると、ラヴちゃんがこくりと頷いた。
「がお」
「ありがとー。ラヴちゃん」
私は嬉しくてラヴちゃんに頬ずりをしてから、顔を離してニコッと微笑んで名乗る。
「私はジャスミン=イベリス。これからよろしくね」
「わたち、ラーヴ=イアファ。ジャチュ、よろちく」
ラヴちゃんが名乗り終わると、私とラヴちゃんが炎に包まれた。
「はっはっはー! 俺が手を下すまでもない! 勝手に溶岩に焼かれて死にやがったぜ!」
ビフロンスが愉快そうに笑いだす。
するとそこで、ゾンビの1人がビフロンスに近づいた。
「ビフロンス様、あれ、溶岩じゃないですよ」
「はあ? 何言ってんだ? そんなわけ……何ぃぃっ!?」
ビフロンスが私とラヴちゃんを見て驚き叫ぶ。
私とラヴちゃんは、温かで優しい炎に包まれながら、赤く淡い光に包まれる。
ラヴちゃんが私の手から地面に跳び降りて、私の周囲を舞い始める。
「おいゾンビ共! ボケっと見てないで、アレをやめさせろ!」
「やめさせろ? アンタ、こういう時は、黙って終わるのを見守るものよ」
「うるせー! ゾンビ共、早くし……いや! 俺がやる!」
ビフロンスがそう言って、私とラヴちゃんに向かってくる。
「本当に最低ねコイツ!」
リリィが私達の前に立つが、ビフロンスはリリィをすり抜けて、私とラヴちゃんの目の前まで来た。
だけど、もう遅い。
私はラヴちゃんとの契約を終えて、既に私を包んでいた炎も光も消えていた。
わかる。
凄いよラヴちゃん。
これが、火の属性の力なんだね!
私は目の前に迫ってきたビフロンスに手をかざし、目の前に魔法陣を生成して、早口で詠唱する。
「我が名はジャスミン。聖なる炎の神々よ。怨霊と成り果てた愚かなる死者を、我が命に従い聖なる炎で焼き尽くせ! 聖炎霊滅」
私が詠唱を終えると、魔法陣から蒼い炎が解き放たれ、それは一瞬でビフロンスを包み込む。
「何ぃぃいぃっ! な、何なんだこれは!? ぐわぁあっ!」
ビフロンスが蒼い炎から逃れようと、もがき続ける。
それを見たリリィが、驚きながら私に近づいて訊ねる。
「ど、どうなってるの?」
「ラヴちゃんと契約をしてわかったんだけど、火の属性には、霊を浄化させる効力を持つ蒼い炎があるみたい」
「へえ……え? 私も火属性の魔法なら使えるけれど、そんなの知らないわよ?」
リリィが驚いてそう口にすると、ラヴちゃんがポーチの中に入って、ボソボソと呟く。
「あおいほのお、ぢょういのまほう」
「そういう事ね。それなら納得だわ」
と、その時、ビフロンスが蒼い炎から逃れて、雄叫びを上げる。
「くそがあぁぁっ! ふざけるなよ!」
ビフロンスが私に殺気を向けて、鋭い眼光で睨みつけてきた。
「もう容赦はしないぞ! クソガキ共!」
「本当にしつこいわね。コイツ」
「こうなったら仕方がねえ! このままだと、せっかくこの島で再会したバティンさんに会えなくなっちまう! 俺の最強の魔法を――」
え? バティンさん?
それって、スミレちゃんの事!?
ビフロンスの言葉に、私が動揺して油断してしまったその時だった。
まるでタイミングを見計らったかのように、突然背後から「幼女先輩」と、懐かしい声が聞こえてきた。
「スミレちゃん!?」
私は驚いて、声の聞こえた背後に振り向く。
するとそこには、手を振って近づくスミレちゃんと、スミレちゃんのおっぱいの間に挟まってるプリュちゃんと、宙を浮いているラテちゃんの姿があった。
「ば、バティンさん!? え? 幼女先輩? って事は、こいつ等と知り合いなのか?」
え?
ビフロンスの声を聞いて振り返ると、さっきまで私を殺す勢いで怒り狂っていたとは思えない程、ビフロンスが間抜けな顔でスミレちゃんを見ていた。
あれあれ?
これはまさかのまさかなのかな?
スミレちゃんは流石は炎属性を扱う魔族と言うべきか、行く手を阻む溶岩を気にする事なく突き進み、私達の所まであっさりとやって来た。
「スミレ、よくここがわかったわね」
「プリュちゃんと一緒に幼女先輩を探していたら、ラテちゃんに会えて、火山を目指して出て行ったって聞いたなのよ」
「向かってる途中で、火山が噴火しだしたから、急いで来たです」
そう言って、ラテちゃんが私の頭の上に座る。
「主様、怪我はないか? 心配だったんだぞ」
プリュちゃんが勢いよく、私の腕にしがみつく。
私は腕にしがみついたプリュちゃんを、優しく撫でる。
「プリュちゃん、私も心配してたんだよ。無事で良かった。それにスミレちゃんも、無事で良かったよ」
「やっと幼女先輩に会えて、嬉しいなのですよ」
「プリュがご主人の居場所を、もっとちゃんとサーチ出来れば、こんなに時間がかからなかったんじゃないッスか?」
「そ、それはその通りだけど、アタシだって頑張ったんだぞ」
「こらこら、トンちゃん。せっかく会えたんだから、プリュちゃんをイジメないの」
「はいッス~」
トンちゃんが口笛を吹いて私の肩の上に座る。
「ところで幼女先輩。あそこにいるのは、もしかしてビフロンスなのですか?」
「え? うん。そうだけど」
「ビフロンスは、以前お話した事がある、知り合いの魔族なのですよ。一緒にいたなのですね」
「あぁ、そうなんだ」
横目でビフロンスを見ると、ビフロンスは何か焦ったように、顔を青くさせて間抜けな顔をしていた。
「いつも困った時に助けてくれる、良い奴なのですよ」
「へえ、良い奴なんだ」
ビフロンスがとても凄く大量に、汗を流し出す。
霊体でも、汗って流れるんだね。
凄く不思議だなぁ。
と、私がジト目でビフロンスを見て考えていると、ビフロンスが私達にゆっくり近づいてきた。
そして、へらへらと笑って頭を掻きながら、私とスミレちゃんを交互に見て口を開く。
「ははは。急に火山が爆発しちゃったんだよ。それで、この子達がバティンさんの大事なご友人だと俺にはすぐに分かったんで、ここまで連れて来てあげたんだ」
うわぁ。
最低だよ。
と、私がビフロンスを呆れてジト目で見ていると、リリィがビフロンスに近づいた。
そして……。
「嘘ついてんじゃないわよ!」
ズドンッと、本来なら霊体で食らわない筈のビフロンスの顔面に、リリィの蹴りがクリティカルヒットする。
「ぐべぇーっ!」
そして、ビフロンスは変な声を上げながら、どこか遠くへ吹っ飛んで行った。
私はそれを、リリィはまた一つ常人の壁を越えたんだなぁと、微笑みながら思いました。




