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149 幼女はまた騙される

 ジャングルを暫らく進んで火山に近づく頃、私達は妙な気配に気がついた。

 最初に、それに気がついたのはリリィだった。

 リリィが何か怪しげな気配を感じ取って、それから静かに慎重に進みだす。

 そして、慎重に進んで行き、気配の正体を見つけたのだ。


 私とリリィは、こっそりと隠れながら、ヒソヒソと話す。


「あれって、幽霊船で見たゾンビよね?」


「うん。多分そうだと思う。でも、なんでこんな所にいるんだろう?」


「ジャスミン。もしかしたら、ラヴの仲間を捕まえた魔族って、ビフロンスの事ではないかしら?」


「え? でも、成仏したんじゃ……」


 ビフロンスが成仏したから、幽霊船があんな事になっちゃったわけだし……。


 私はそう考えながらも、ラヴちゃんを見て確認する。


「ラヴちゃん、そうなの?」


 私がそう訊ねると、ラヴちゃんはこくりと小さく頷いた。


「ビフロンス……なんだ」


 まさか成仏してなかったなんて。

 また騙されたのかぁ。


「あの男、まだ懲りてないのね」


 うぅ。

 なんだか急に、気が重くなってきたよ。


 私達は念の為、ゾンビにばれないように、隠れて慎重に火山を目指す事にした。

 そうして、慎重に進み続けて火山の麓に辿り着くと、ラヴちゃんが私の腰をちょんちょんと叩く。


「がお」


 ラヴちゃんがボソボソと呟いて、火山の頂上へと続くと思われる道を指でさす。


「リリィ、あそこから登れるみたいだよ」


「そうみたいね」


 私はリリィと一緒に、ゾンビ達に見つからないように、こっそりと火山の道まで移動する。

 そして、急いで火山を登り始めた。


 結構でこぼこしてて歩き辛いなぁ……あっ。

 そうだ!

 良い事思いついちゃった。


「トンちゃん、良い事思いついたよ」


「え? 何スか?」


 私はトンちゃんにコソコソと、耳元でお話をする。


「空高くまで飛ぶのはダメだけど、この道を沿って、低めに飛んで行けば良いと思うの」


「低空飛行ッスか? 良い案だと思うッスよ」


「うん」


 そんなわけで、私は風の魔法を使って、道の上を低空飛行する。


 これなら、歩いてる時と高さはあまり変わらないし、慎重に道の上を進んで行けば見つからないよね。


 それから私は目の前を歩くリリィの肩を叩いて、振り向いたリリィにコソコソとお話をしてから、魔法でリリィも一緒に低空飛行させる。

 そうして快適に火山を登って行き、火山の頂上の火口まで辿り着いて、火口の中心にいるビフロンスを見つけた。

 ビフロンスの姿を見つけると、私達は隠れながら様子を窺う。


「アイツ一人だけみたいね。仲間はいないみたい」


「うん。捕まってる精霊さん達は……いた。あそこだ」


 火の精霊さん達は、小さな檻の中に捕らわれているようだ。


「アイツ一人なら、さっさとぶん殴った方が早そうね」


 リリィはそう言うと、ビフロンスに向かって走り出した。


「え? リリィ!?」


 隠れてここまで来た意味が……。


 私が呆気にとられてその場で固まっている間に、リリィがビフロンスに近づいたせいで、ビフロンスがリリィに気がついてしまった。

 リリィを見たビフロンスは一瞬だけ驚いた顔を見せたけど、その驚いた顔は本当に一瞬で、すぐに余裕の笑みを浮かべ始めた。


「精霊達を返してもらうわよ!」


 リリィがビフロンスに向かって跳躍し、凄まじい勢いでビフロンスに向かって飛び蹴りをする。

 しかし、リリィの飛び蹴りはビフロンスの体をすり抜けてしまい、リリィは地面にそのまま着地してしまった。

 地面に着地すると、リリィは驚いた顔をしてビフロンスを見た。


「あの時の子供か。お前もこの島に着ていたのか。だが、丁度良い。あの時の借りを返させてもらうぜ!」


 そう言い終わると、ビフロンスはリリィの驚いた顔に気がついて、嘲笑うかのような笑みを浮かべて髪をかき上げた。


「どうした? 俺に攻撃が効かなくて、驚いているのか?」


 ビフロンスが両手を広げて叫び出す。


「俺は既に死んで霊体となっているんだ! お前の様な、たかが人間風情の攻撃が効くわけが無いだろ!」


「そう言えば、そうだったわね。でも、だったら何故あの船の中では、攻撃が効いていたのかしら?」


 リリィがそう訊ねると、ビフロンスが一瞬だけ顔をしかめて、リリィから目線を逸らしてボソッと呟く。


「実体化を解くのを忘れていただけだ」


 え、えぇ……。

 おバカなの?


「とにかくだ! もう、お前に一方的にボコボコにされるあの時の俺では無い!」


 な、なんだか凄くかっこ悪いよ。

 こんなのに、私は前世で殺されちゃったんだ。

 うぅ。

 なんだか恥ずかしくなってきたよ。


 と、私が若干落ち込んでいる時だった。

 突然私の体が宙に浮いて、私はビフロンスに見つかってしまった。


「え? なんで!?」


 私が突然の出来事に慌てていると、ビフロンスが私を見て愉快に笑う。


「やっぱりそこにいたのか! 再会出来て嬉しいぜ! 今度こそ、前世の恨みを晴らさせてもらうぞ!」


 ビフロンスがそう言って、くいっと手招きを私にすると、私はもの凄い勢いでビフロンスに引き寄せられる。


「きゃー!」


「ジャスミン!」


 ビフロンスに引き寄せられる私を、リリィがジャンプして受け止める。

 私はリリィのおかげで、その謎の現象から逃れる事が出来た。


「ちっ。邪魔をしやがって」


「ジャスミン、大丈夫?」


「う、うん。ありがとー。リリィ」


「ご主人。今のは多分、重力の魔法ッス。逆恨み男から、強力な土と闇の魔力を感じたッス」


「重力の魔法……そっか。それなら納得だよ」


 あれ?

 でも、幽霊船でヒトデ太郎さんが、魔力を感じないみたいな事を言ってなかったっけ?

 って、今はそんな事は、どうでもいいよね。


「火の精霊がいるじゃないか」


 ビフロンスがラヴちゃんを見ながら、顔を顰めて言葉を続ける。


「おい。これはいったい、どういう事だよ?」


 ラヴちゃんがうるうると涙を目に溜める。


「俺はおっぱいのある女を連れて来いと言ったはずだ! こんなお子様なんて、連れてきてんじゃねーぞ!」


「がぉ」


「ちょっとアンタ! ラヴが怯えてるでしょう!」


「うっせーよクソガキ! 子供が大人の言う事に口出しするな!」


 うわぁ。

 もの凄く大人気ないよ。

 ビフロンスって、本当に悪い大人の見本だよね。

 って、それはともかくだよ。


 私はトンちゃんと目を合わせて、こくりと頷く。

 トンちゃんも察してくれたようで、頷いてから私の肩の上に乗って、風の加護を魔力に変換し始めた。


 物理が効かないなら、魔法が効くはずだよね。

 ゲームとかだと、そういう感じだもん。


 私は手を前にかざして、ビフロンスにばれないように無言で魔法を放った。

 私の放った魔法は、風の刃。

 もの凄い速度でビフロンス目掛けて飛んで行き、ビフロンスを襲う。


 幽霊相手だから、手加減はいらないよね。


「馬鹿が!」


「うそ!?」


 私が放った魔法は、ビフロンスにダメージを与える事は出来なかった。

 リリィの時と同じようにビフロンスをすり抜けて、そのまま地面に到達して、地面を切断しながら儚く消えてしまった。


「俺は霊体なんだ。魔法だって効きやしねーのさ」


 ごくり。と、私は唾を飲みこむ。


「ご主人、これって結構やばくないッスか?」


「う、うん」


 どどど、どうしよう?

 物理も魔法も効かないなんて、いったいどうすれば良いの!?

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