148 幼女は懐かしみを感じる
トンちゃんが見つけた果物は、黄色くて丸い大きさが手のひらサイズの、メロンのような甘くて美味しい果物だった。
私は果物を風の魔法で上手に切って、大きな葉っぱをお皿代わりにして、果物を葉っぱに乗せて皆に配る。
甘くて美味しいなぁ。
お腹にも優しい感じするし、幸せだよぉ。
と、私が果物を美味しくいただいていると、トンちゃんが果物をもぐもぐしてから口を開く。
「ご主人、もういっその事、空を飛んで火山まで行かないッスか? 変な植物がいるみたいッスし、その方が絶対に楽ッスよ」
うーん……空かぁ。
確かに、そっちの方が楽かもだけど……。
「そんな事したら、魔族にばれちゃうよ」
「そうよ。ドゥーウィン。火の精霊が人質にとられているんだから、なるべく気がつかれないようにしないと」
「がお」
ラヴちゃんが果物を食べながら、こくりと頷いてそう呟く。
ほら。
ラヴちゃんも頷いてる。
やっぱり、空を飛んで行くのは、危険だよね。
「面倒だけど、仕方ないッスね」
と、トンちゃんが本当に面倒臭そうに言うと、ラヴちゃんが果物を空に掲げて目を輝かせる。
「がおー」
あ。これ、美味いって言ってる目だ。
人質の事を忘れて、果物に夢中になってるだけの目だよ。
私がラヴちゃんに苦笑していると、リリィが思い出したかのように、おバカな事を言い出す。
「そういえば私思ったのだけど、触手プレイって、さっきジャスミンが受けていた行為よね」
「え? あ。うん」
何? リリィ。
急にどうしたの?
「スミレが触手プレイを、あまり好きじゃないと言っていたわね」
「そうだったっけ?」
凄くどうでも良すぎて、覚えていないよ。
「私は触手プレイ、さっきはありだと思ったのだけど、流石にこれだけ数が多いとうんざりよね」
これだけ多いと?
「どういう事?」
私がそう訊ねると、リリィが果物をパクリと口に入れてから指をさす。
リリィが指をさした方を見ると、そこにはキラープラントの群れがいた。
私は驚きのあまり、手に持っていた果物を地面に落とす。
「ご主人、食べ物を粗末にしたら、罰が当たるッスよ」
「その通りだと思うけど、今はそんな事言ってる場合じゃないよ!」
私がそう言った瞬間だった。
それを合図にしたかのように、キラープラントの群れが私達に押し寄せる。
すると、リリィが残った果物をトンちゃんとラヴちゃんにあげて、キラープラントに飛びかかる。
リリィ、凄ぉい。
リリィはキラープラントのお口を蹴り飛ばし、次々と倒していく。
「ラヴ、この植物は食べられるのよね?」
ラヴちゃんを見ながらリリィがそう訊ねると、ラヴちゃんがこくりと頷いてボソボソと呟く。
「キラープラント、おちゃちみおいちい」
「再生するのにお刺身に出来るの?」
「ぢゃくてん、たおちゅとだいぢょうぶ」
「そっか。それなら……トンちゃん!」
「任せるッス」
集中して、キラープラントのお口に向けて、撃つ!
私は魔法で圧迫した空気の玉を大量に作りだし、キラープラントの群れに目掛けて連続で解き放つ。
魔法キラープラントのお口に全弾命中して、群れを一掃した。
その様子を見たラヴちゃんが、キラキラと目を輝かせながら私を見てボソボソと呟く。
「ちゅごい」
「ラヴちゃん、どうやって食べるのか教えて」
「がお」
そんなわけで、ラヴちゃんにキラープラントの調理方法を教えて貰って、私はキラープラントをお刺身にする。
気になるキラープラントのお味はと言うと……。
爽やかでサッパリとしていてみずみずしく、シュワーッと口の中で広がって……うん。
これは間違いなく、コーラだよ。
でも、凄く不思議だなぁ。
手で触る感触はグミみたいにプニプニなのに、口の中に入れただけで、一瞬で溶けちゃうんだもん。
食べると言うより、飲むって感じだよね。
それにしても……。
パクリと、キラープラントのお刺身を一口食べる。
この味、凄く懐かしいなぁ。
「がお」
うふふ。
ラヴちゃんが凄く美味しそうに食べてる。
可愛いなぁ。
「ご主人、ボクはとんでもなく恐ろしい事を、思いついてしまったッス」
「え?」
トンちゃんがもの凄く真剣な面持ちで、キラープラントのお刺身を手に取って見つめる。
それは、今までに見た事も無い顔で、初めて見るトンちゃんの顔だった。
私は突然のそのトンちゃんの様子に、何事かと真剣にトンちゃんを見つめる。
「もしかしたらこれは、ご主人の作るパンケーキと相性が抜群なのではッス」
あたりがシーンと静まりかえり、リリィがトンちゃんに微笑む。
「いいわね。折角だから、全部持って帰りましょう」
「流石ハニーッス! 話のわかる出来る女ッス!」
私、結構いつも思うんだけど、ノリについていけないなぁ。
まあ、パンケーキとコーラなら、確かに合うとは思うけどね。
って、それよりだよ。
「ねえ、そろそろ出発しようよ。早く捕まってる精霊さん達を助けなきゃ」
「がおー」
ラヴちゃんが右手を上げて、声を上げる。
その姿が、本当にもう可愛すぎて、頑張るぞって感じが伝わってくる。
本当、ラヴちゃん可愛すぎてやばいよぅ。
と、私がラヴちゃんに心を奪われていると、リリィが私に話しかけてきた。
「ねえ、ジャスミン」
「うん? って、何それ?」
いつの間に用意したのか、リリィの横に大きな鞄が置かれていた。
「キラープラントの蔓と葉っぱで作ったバッグよ。これがあれば、キラープラントの刺身を持って帰れるでしょう?」
「う、うん」
それにしても、一瞬で凄い物を作ったね。
流石だよ。リリィ。
「それよりも、これを使って? ジャスミン」
リリィがそう言って、葉っぱと蔓で作ったと思われるポーチのような物を、私に渡してきた。
「えっと、これは?」
「ジャスミンの腰に巻いてつけれる様に、ポーチを作ってみたの」
それを聞いて、私がなんでだろう? と、首を傾げると、リリィが苦笑して言葉を続ける。
「ほら。ジャスミンってば、ラヴを手で抱っこしていたでしょう?」
「うん」
「移動する時も、片手が使えなくて不便だと思ったの。それに、またさっきみたいに、キラープラントに襲われるかもしれないじゃない? だから、こういう物があると、便利かなって思ったのよ」
「ありがとー! リリィ」
私はリリィの優しさに嬉しくなって、リリィに抱き付く。
「うふふ。喜んでくれて嬉しいわ」
そんなわけで、私はリリィから受け取ったポーチを腰につけた。
それから、ラヴちゃんはポーチの中に入ると、顔だけぴょこっと出して目を輝かせる。
そんなラヴちゃんの姿を見て、リリィも嬉しそうに微笑む。
ラヴちゃんも気にいってくれたみたいだし、本当にリリィに感謝だよ。
よーし!
やる気が出て来たよ!
魔族から、精霊さんを助け出すぞー!




