146 幼女に滴るやな雫
「思っていたより、結構進むのが大変だね」
「そうね。いくらなんでも、これは酷いわよね」
私達は魔族を倒す為に火山の火口へ向かって歩いているのだけど、火山へ向かうにはジャングルを抜ける必要があり、私達は今ジャングルの中を歩いている。
ただ、このジャングルの生い茂る草木は尋常じゃなかった。
背丈より伸びた草や、行く手を阻む変な形の木々。
底なしかどうかはわからないけど、汚れたくないから入りたくない沼。
おかげで、私もリリィも足元に注意しながら、草をかき分けて進んでいた。
しかも、中には棘がついていたり、葉っぱ自体がもの凄く切れ味がよかったりで本当に大変だ。
「ご主人、ボク等の後ろについて来る火の玉で、このジャングル燃やせば楽に進めないッスか?」
「いいわね。それでいきましょう」
「よくないよ! 自然破壊なんてしたらダメだよ」
「うふふ。冗談よ。そんな事、本当にするわけないでしょう?」
「ボクはわりと本気ッスよ? ご主人は真面目ッスね~」
「そこがジャスミンの良い所よ」
いやいや。
真面目だとか良い所だとか関係なく、燃やしちゃダメだよ。
まあ、リリィは冗談だったみたいだけど。
と、私が心の中で呟いていると、何かに肩を叩かれる。
「どうしたの? トンちゃん」
「へ? 何がッスか?」
「え? じゃあ、ラヴちゃん?」
私はそう言って、手で抱っこしているラヴちゃんを見る。
ラヴちゃんは、私に抱っこされているので当然首を横に振る。
「何かあったの?」
「誰かに肩を叩かれた気がしたんだけど……」
私がそう言って首を傾げると、リリィが私の背後に指をさす。
「あれじゃない?」
「あれ?」
もしかして、監視の火の玉が私の肩を叩いたのかな?
なんて呑気な事を考えながら、リリィが指をさした方を向いて、私は血の気が引くのを感じて硬直した。
「な、何スかこいつ!?」
「動く植物だなんて、初めて見たわ」
そう。
振り向いた先にいたのは、うねうねと動く植物だったのだ。
それも結構大きくて、2階建てのお家くらいの大きさがある。
しかも、前世でアニメや漫画やゲームで見た事のある、いかにもな感じの人食い花のような見た目をしていた。
茎から延びる葉は鋭く、蔓のような触手の先からは、何やら謎の液体が地面に滴り落ちている。
私は硬直しながらも、直ぐにハッとなって思いつく。
そうだ!
こんな時こそ、大地の加護の恩恵を使って、生物の言葉を理解する時だよ!
開け、心の扉!
「ギシャァァアァーッ!」
うん。
大成功。
流石私、見事に声を聞けるようになったよ。
でもね、でもだよ。
「シャアーッ!」
何言ってるかわかんないよ!
これ、絶対意思疎通出来ないタイプのやつだよ!
「ご主人、来るッスよ!」
「ふえ?」
トンちゃんに言われて、動く植物を見る。
すると同時に、動く植物が葉をブーメランのように、私に向かって飛ばして来た。
「ジャスミン!」
私に向かって飛んできた葉っぱのブーメランを、リリィが私の前に出て蹴り飛ばす。
「大丈夫? ジャスミン」
「う、うん。ありがとう。リリィ」
や、やばい。
ボーっとしてたよ。
「ご主人しっかりするッスよ! 相手は言葉が通じない植物ッスよ! ボケッとしていたら、殺されちゃうッス!」
「うん」
私は返事をして、直ぐに風の加護を魔力に変換させる。
だけど私が魔法を使うより先に、私は植物の蔓に右足を捕まれて、持ち上げられてしまった。
私の視界は逆さまになり、更に他の蔓が私の体に巻き付いて、身動きがとれなくなってしまった。
「きゃあっ!」
私は必死に蔓を解こうともがくけど、蔓の先端から出る液体のせいか、ニュルッと滑って上手く掴む事すら出来ない。
「やだぁっ。何これぇ? ニュルニュルするよぉ」
私が気持ちの悪さのあまり顔を青ざめさせていると、私が手で抱っこしていたラヴちゃんが、私の耳元まで降りてきた。
そして、もの凄く小さな声で、私にボソボソと話しかけてきた。
「キラープラント、おくちがぢゃくてん」
「キラープラント、お口が弱点!?」
「がお」
「ありがとー、ラヴちゃん」
私は微笑んでラヴちゃんにお礼を言うと、植物、キラープラントの花に向かって手をかざす。
あのお花の所が口みたいになってるから、多分あれが弱点の口だよね?
「トンちゃん!」
「はいッスー!」
トンちゃんが私の所まで飛んできて、直ぐに風の加護の恩恵を私に与える。
私はその瞬間に風の加護を魔力に変換して、空気を圧縮した砲弾を一気に解き放つ。
そして、もの凄い勢いでそれはキラープラントの口の中に命中し、風穴を空けた。
「やったッスか!?」
トンちゃん!?
それフラグだから!
言っちゃダメなやつだから!
私がトンちゃんの発言に顔を青ざめさせていると、思った通りで見事にフラグが立ってしまった。
キラープラントはみるみると再生して、元の姿に戻ってしまったのだ。
当然、元の姿に戻ってしまった為、私は逆さ吊りされた状態のままだ。
しかも最悪な事に、今度は魔法を封じるかのように、私の腕にまで蔓が伸びてきた。
「ジャスミン! 今助け――そんな!?」
その時、私を助けに来ようとしたリリィが動揺し、動きを止めてしまった。
「リ……リィ? え?」
なんと、リリィは逆さ吊りになっている私を見上げて、鼻血を垂らしていた。
それはもう、幸せそうな顔をして。
「そんな! これじゃあ魅入ってしまって、助けに行けなくて困ってしまうわ」
あの、え? リリィ?
何言ってるの?
そして私は不思議に思い、自分の今の状況を確認すべく、自分の体を見る。
「きゃー! ちょっと、嘘でしょう!? いやーっ!」
私は何故か、いつの間にかに、パンツだけの姿になっていたのだ。
そして悲惨な事に、私は蔓に腕まで巻き付かれているせいで、丸見えになってしまっている胸を隠す事が出来ない。
私がそんな自分の状況に顔を真っ赤にして、きゃーきゃーと混乱していると、耳元でラヴちゃんがボソボソと呟く。
「キラープラント、ちょくちゅのえきたい、ぬのだけとける」
触手の液体で布だけ溶けるって、何そのエロゲー?
って言うか、こんな所に来て触手プレイだなんて、そんなマニアックな展開になるなんて聞いてないよ!
ニュルニュルして気持ち悪いし、もうやだお家帰りたい。




