145 幼女と半人前な精霊さん
私達が流れ着いた島は、活火山がある、名も無き無人島だった。
この島は、人に知られていない島のようで、火の精霊さん達が集落を作って暮らしているらしい。
そして火の精霊さん達は、突然この島にやって来た魔族に襲われて、仲間の精霊さん達を人質にとられてしまっていた。
人質を解放する条件が人間の女の子、おっぱいがある女の子を連れて来るという、なんとも酷い条件だった。
そんなわけで事情を聞いた私は、ラテちゃんの提案はともかくとして、火の精霊さん達の為に魔族退治に出かける事を決意する。
そして、私は火の精霊さん達に魔族退治を提案する事で、自由の身になった。
私は解放されてから、少し気になっていた事を確認するべく、くんくんと自分の体のにおいを確認する。
臭くない……?
うーん……でも、3日、3日だもんね。
自分の臭いって分かり辛いから、本当に臭くないのかわかんないなぁ。
と、私が考えていると、リリィが察して私に笑顔で話す。
「心配しなくても大丈夫よ。ジャスミンが気絶している間は、しっかり私が体を拭いていたもの」
「へ、へぇ……」
鎖で縛られていたのに、どうやって?
とか、なんか色々聞きたいんだけど、聞いちゃダメかな?
などと、私が考えていると、リリィが鼻息を荒くして言葉を続ける。
「拭き残しが無いように、ジャスミンを裸にして、隅々まで毎日三回は拭いていたのよ」
……うん。
聞かなかった事にしよう。
もう、鎖でとかなんだとか、どうでもいいや。
聞いてない。
そう。私は何も聞いてない。
全ては過ぎ去ってしまった私の記憶にない過去。
知っても知らなくても、どうする事も出来ないんだもん。
それならせめて、精神的に楽な方が良いもんね。
だから何も聞かなかったんだ。
うんうん。
それがいいよね。
「ソッカ。アリガトー。リリィ」
「うふふ。良いのよ」
私がリリィに無心でお礼を言うと、リリィは思い出したかのように鼻血を流しながら、ニッコリと私に微笑んだ。
私はリリィの鼻血を拭こうと、ティッシュを取り出そうとポケットに手を入れると、残念ながらティッシュは無くなってしまっていた。
あ、そっか。
ティッシュ、と言うか、荷物とかも無くなっちゃったんだ。
仕方がないよね。
とりあえず、今は火の精霊さん達の為に、魔族をこらしめる事を優先しよう。
と、私は気持ちを切り替えて、魔族退治に向かう事にした。
だけど、魔族退治に行く直前に、ちょっとした問題が発生してしまった。
「え? ラテちゃんはついて来てくれないの?」
「はいです。一緒にこの島に流れ着いたヒトデを、放っておくのも可哀想です」
一緒に流れ着いたヒトデ……?
「あっ」
そうだよ!
すっかり忘れていたけど、ヒトデ太郎さんも、私達と一緒に巻き込まれてたんだっけ?
「ヒトデ太郎さんは何処にいるの?」
「あっちに木で作ったお家があるです。そこで今は療養中です」
「療養中!? 何かあったの?」
「リリィに投げ飛ばされた傷が、まだ癒えてないだけです」
あ、あぁ……。
私が横目でリリィを見ると、リリィは私に気がついてニッコリと微笑む。
「どうしたの?」
どうしたのって……もう。
「リリィ、ヒトデ太郎さんが目を覚ましたら、ちゃんと謝るんだよ?」
「それもそうね。今度からは、ちゃんと手加減して投げるわ」
「投げちゃダメだよ!」
私は一つため息をして、ラテちゃんに振り向く。
「ラテちゃん。ヒトデ太郎さんの事、よろしくね」
「任せておくです。のんびり寝転がりながら、しっかり見てるです」
……ラテちゃん?
あえて聞かないようにしておくけど、ただ移動するのがめんどくさいから、ここに残りたいだけじゃないよね?
信じてるからね? ラテちゃん。
「それはそうと、ご主人」
「うん?」
「さっきから、ご主人の事をジーッと見てる子がいるッスよ」
トンちゃんが私の背後に指をさす。
「え?」
私はトンちゃんが指をさす方に振り向いて、目を向けると、そこには先程見つけた着ぐるみパジャマの精霊さんがいた。
着ぐるみパジャマの精霊さんは、私と目が合うと、慌てて顔を引っ込める。
か、可愛い。
今すぐ抱きしめたい可愛さだよ!
「どうしたのかしら? あの子」
「う、うん。そうだね」
私は冷静を保つために、一度目を閉じて、深く深呼吸をした。
そして、着ぐるみパジャマの精霊さんに、その場でしゃがんでから優しく声をかける。
「どうしたの? 精霊さん」
私がそう声をかけると、精霊さんが少しづつ顔を出す。
「がお」
がお?
精霊さんが口にした言葉に私が頭に?を浮かべていると、トンちゃんが精霊さんの背中を押して、私の目の前に連れて来た。
「……がぉ」
ど、どうしよう?
凄く何を言いたいのかわからない。
わからないんだけど、凄く可愛い!
ううん。
ダメダメ!
ダメだよ私!
落ち着くんだよ!
私はニヤケそうな顔をなんとか耐えながら、精霊さんに笑顔を向ける。
「私はジャスミンだよ」
「わたち、ラーヴ」
「ラーヴちゃんって言うの? 可愛いお名前だね。ラヴちゃんって、呼んで良いかな?」
私がそう訊ねると、ラヴちゃんがこくりと頷く。
「ラーヴ=イアファ。ラーヴは、まだ生まれたばかりの火の精霊で、ジャスの監視役にされたみたいです」
「そうなの?」
ラテちゃんの言葉に、私がラヴちゃんを見て聞くと、ラヴちゃんがこくりと頷いた。
「と言っても、監視は他にも、ついてまわるみたいッスけどね」
「え? どういう事?」
「さっきから、私達の周りをうろうろしている火の玉があるでしょう? それみたいよ」
私の質問に、呆れ顔のリリィが火の玉を指さして答えてくれた。
それで私は火の玉を見てから、ラヴちゃんを見る。
すると、トンちゃんが私の肩の上に座って、めんどくさそうに話す。
「ラーヴがちゃんと火の精霊として、一人前になれるかのテストも兼ねてるらしいッスよ。火の精霊の社会は、めんどくさそうで嫌ッスね~」
「そうなんだ」
ていう事は、ラヴちゃんが私達の監視がちゃんと出来ているかの監視を、この火の玉がしてるのかぁ。
たしかに、トンちゃんの言う通り、火の精霊さんって結構大変かも。
なんだかラヴちゃんの着ている着ぐるみパジャマの尻尾が、心なしか項垂れてるように見えるよ。
「ラヴちゃん、おいで」
私はそう言って、両手を広げて柔らかく微笑む。
すると、ラヴちゃんが躊躇いながらも、私の目の前に来てくれた。
私は両手でラヴちゃんを抱えて、顔の前まで持ち上げる。
「短い間だけど、よろしくね。ラヴちゃん」
私がそう言うと、ラヴちゃんは少しだけ微笑んで、こくりと頷いた。
「それじゃあ、そろそろ行くッスよ。ご主人」
「うん。そうだね。……あ。そう言えば、魔族って何処にいるの?」
「活火山の火口です」
「え?」
「ここ最近、噴火が起きそうな気配があるそうッスから、気をつけて行くッスよ」
「えぇえぇぇぇっっ!?」
聞いておいてなんだけど、フラグにしか聞こえないよ!
絶対噴火待ったなしのやつだよっ!




