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141 百合の花を咲かせましょう

※今回はリリィ視点の回想と言うか語りです。

 その日は、とても素敵な日々の始まりの日だったわ。

 まだ幼かった私は、天使のような素敵な女の子と、お互いの家族と一緒に川に遊びに来ていたの。


 素敵な女の子の名前はジャスミン。

 その女の子の白銀の髪は肩まで伸びていて、サラサラのその髪は吸い込まれそうな程に綺麗で、とてもこの世の物とは思えない程に人知を超えた素晴らしい髪。

 ルビーよりも美しい澄んだ瞳を持つ目は、まるでこの世の人々を虜に出来る程に丸くって可愛らしく、誰もがその瞳に引き込まれる。

 小さな顔は幼くも整っていて、可愛すぎて見た者は誰もが羨み、そして魅了されてしまう。


 そんな素敵な女の子と私は、当時はまだ三歳と幼かったわ。

 そして私は当時はまだ幼かった事もあって、ジャスミンの魅力に気が付いていない愚か者だったの。

 でも、そんな私も川に遊びに行った事で、ジャスミンの魅力に今まで気が付かなかった自分の愚かさに気がついたわ。


 川に到着すると、私はジャスミンと一緒に母親に抱っこされながら、川を眺めていたわ。

 日の光を浴びてキラキラと綺麗に煌めく川からは、心地の良い川のせせらぎが聞こえてくる。

 幼いながらも、私はそれを心地よく感じていたわ。


 それから、私達の両親は、これから川で遊ぶ為の準備を始めたの。

 両親達は川のほとりに荷物を置いて、父親がテントを張りだして、私とジャスミンはお互い母親から水着に着替えさせられたわ。

 そして、水着に着替えると、天使の様に可愛いジャスミンが大喜びで川に飛び込んだの。

 あの時のジャスミンの笑顔は、今思い出すと本当に可愛くて、可能であれば部屋に飾りたい位に素敵な笑顔だったわ。


「リリィちゃん。おいでー!」


「うん!」


 ジャスミンが私を呼んだから、私は返事をして父親の手を取って川まで走ったの。

 今思うと、二人きりで遊ばなかった当時の自分を叱ってやりたいわ。


 暫らく遊んでいると、私は履いてきたサンダルが、いつの間にか無くなっている事に気がついたの。

 まだ幼かった私は、酷く悲しくて泣いてしまったのを覚えているわ。

 そして母親に泣きながら、サンダルを無くしてしまった事を伝えたの。


 それから私のサンダルを探す為に、ジャスミンのご両親も一緒に探してくれる事になったのよ。

 もちろん、この世の可愛さと優しさの全てを超越したジャスミンも、一緒になって探してくれたわ。

 今思うと、私なんかの為に体中汚れてしまって、本当に申し訳なかったわ。

 本当、当時の愚かな私を、ジャスミンにそんな汚れ仕事をさせるなって叱ってやりたくなるわよね。


 それからサンダルを探し続けて、気が付いた時には、いつの間にか夕方になっていたわ。

 それで私の母親が私に話しかけてきたの。


「リリィ、残念だけど、もう諦めましょう? また、新しいのを買ってあげるわよ」


 私はそれが凄く悲しかったの。

 そのサンダルは、当時の私にはとても大切な物だったから、どうしても諦めたくなかったの。

 だから、私は涙を流しながら訴えたわ。


「やだ! ほかのなんていやなの!」


 私が訴えると母親は困り顔をして、小さくため息をして私を見たわ。

 それが私にはとても辛くって、私は更に酷く泣いてしまったのよ。

 そして、私は涙ながらに大声を上げたわ。


「ママとパパが、もうすぐでわたしのたんじょうびだから、かってくれたプレゼントなんだもん!」


 そこまで喋った私は、段々悲しさが更にこみ上げてきて、鼻をすすりながら俯いて言葉を続けたわ。


「あれじゃないとやだよ」


「リリィ……」


 私の頭を母親が優しく撫でるから、私はそのまま甘えて母親の胸に飛び込んで泣き続けたの。

 それから完全に日が沈んで、あたりが暗くなった頃、私は泣き疲れて寝てしまったわ。




 私はテントの中で眠らされていたようで、目を覚ましてから少しの間だけボーっと天井を見ていたわ。

 そしたら、テントの外からジャスミン達の話声が聞こえてきたの。

 それで私はテントから顔を出して、皆が何をしているのか確認をしたら、夜ご飯を食べていたの。


 その様子を見た私は、今の内にって、とても危ない事を考えてしまったのよ。


 私は皆から見つからないように、こっそりとテントを出て川まで走ったわ。

 そして、服を着たまま夜の川に飛び込んで、サンダルを探し始めたの。


「ない。ないよ……ぁっ」


 当然の結果よね。

 まだ三歳と幼い私が、夜の川に入って無事で済むはずがなかったわ。

 私は川の流れに足を取られてこけてしまい、足をくじいてしまったのよ。

 そして、私はそのまま深い所に流されて、溺れてしまったわ。


「た、たすけ……て。マ……マ、パパ……」


 その時、私は生まれて初めて怖いと思ったわ。

 母親と父親を必死に呼んだの。


 私は両親が助けに来てくれると信じて、祈りながら一生懸命もがき続けたわ。

 だけど、私の祈りは届かなかった。

 三歳の私に、どうにか出来るほど甘くないもの。

 ついに川の底へと沈んでいったわ。

 あの時の私は、幼いながらも自分が今から死んでしまう事がわかってしまって、自分の行いに酷く後悔をしたのを今でも覚えているわ。


 だけど、その時よ。

 私の目に、天使の姿が映ったのよ。

 意識が遠のいていく中で、私の天使、ジャスミンが目に映ったのよ。


 そして、私はジャスミンに腕を掴まれて、川の外へ引っ張りだしてもらえたの。

 私を川の外まで引っ張ってくれたジャスミンは、その可愛らしい目をうるうるとさせて、心配そうに私の顔を覗き込む様に見て言ったわ。


「リリィちゃん、だいじょうぶ?」


 私はジャスミンにそう言われて、目からいっぱい涙を流して、飛びついて思い切り抱きしめたの。

 そしたら、 ジャスミンが私を優しく抱きしめて、頭を優しく撫でてくれたわ。


「いいこ、いいこだよ」


 私がジャスミンの腕の中で泣き続けていたら、私の泣き声を聞きつけた大人達が、ようやくやって来たの。

 今思うと、ジャスミンのご両親は素晴らしい方達だけど、私の両親は糞ね。

 自分の娘のピンチに気がつかないなんて、ジャスミンの爪の垢を煎じて飲む私の姿を見て、反省してほしいわ。


 え? 爪の垢を煎じて飲ませてやりたいじゃないのかって?

 何言ってるのよ?

 そんなのもったいなくてあげられないわ。


 あらごめんなさい。

 脱線してしまったわね。


 それから、ジャスミンのお母様がジャスミンを見て驚いたの。


「じゃ、ジャスミン。それにリリィちゃんも、いったいどうしたの? 随分とビショビショに濡れてるじゃない。それに、そのお腹に巻き付いているのは何なの? ジャスミン」


 ジャスミンのお母様の言葉を聞いて、私は不思議に思って涙を拭ってジャスミンを見たの。

 そしたら、ジャスミンったら可愛いのよ。


 ジャスミンは、グルグルと植物のツルを体に巻きつけていたのよ。

 その時の私はそれの意味がわからなかったけれど、今思えば、きっとアレは川に流されない様に、ジャスミンなりに考えた事だったのでしょうね。

 でも、折角ツルを体にグルグル巻き付けていたのだけれど、ジャスミンは自分に巻き付けただけで、支える為の岩だとか、そういった支えになる物に巻き付けていなかったのよ。

 だから、結局はツルを体に巻いただけで、それは意味のない物だったの。


 一歩間違えれば、ジャスミンも私を助けようとして、溺れていたかもしれなかった。

 だからでしょうね。


「ロープをまいたから、かわのなかにはいっても、だいじょーぶだったよ」


 ジャスミンがロープと呼んだツルを持ち上げて、笑顔でご両親に話した時、ジャスミンのご両親が顔を真っ青にしてジャスミンを抱きしめたわ。

 それから、私の両親はジャスミンに何度も何度も「ありがとう」と、お礼を言っていたわね。


 そしてこの後、ジャスミンの魅力に気が付いていなかった私が、如何に今まで愚かだったかを気が付かされたわ。

 それはジャスミンの体に巻かれたツルをとってから、テントに戻る途中で、ジャスミンが私に笑顔を向けた事で始まったのよ。


「リリィちゃん」


 ジャスミンに名前を呼ばれて、私は何だろう? と不思議に思いながら顔を向けたの。

 そしたら、ジャスミンは立ち止まって、自分が履いていたサンダルを脱いだの。

 そして、脱いだサンダルを持ち上げると、私の目の前に出して言ってくれたわ。


「リリィちゃん、プエゼントだよ。おたんじょーびおめでとー」


 そう言ってジャスミンが私に向けてくれた笑顔は、とても温かくて、とても優しくて、私はまた涙が溢れだしたわ。

 そして、私は泣きながらジャスミンからサンダルを受け取ったの。


「ありがとう」


 受け取ったサンダルを力強く抱きしめながら、私が泣きながら感謝を伝えると、ジャスミンがとても素敵な笑顔を見せてくれたわ。


 その笑顔は、何よりも輝いていて、今が夜なのだとわからなくなる程に綺麗で眩しかった。

 まるで天使の様に綺麗に輝く素敵なその笑顔を見て、私は胸の鼓動がドキドキと高鳴るのを感じたわ。


 だからこそ私はその時に、直ぐに自分の気持ちに気がついたの。

 そしてこの時から、私にとってジャスミンは何ものにも代えがたい特別な存在になったのよ。

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