137 幼女の所有物で争ってはいけません
私は前世の記憶を思い出してから、魔法は凄く便利で良いものだと思っていた。
そして、今も魔法の便利さをいつも以上に感じながら、涙目でその魔法を使用している。
水の魔法で色々と水洗いをして、風の魔法で洗った部分を乾かしていく。
何を洗って、何を乾かしているのかは、もちろん内緒だ。
そう。内緒なのだ!
「ジャスミン、パンツは乾いた?」
私は涙目のまま、リリィを恨めしそうに見る。
「…………まだだよ」
リリィは私の視線を全く気にした様子も無く、何かを取りだした。
「洗ったといっても、水で濯いだ程度でしょう? 良かったらこれを使って?」
「え?」
綺麗な純白に天使の羽。
間違いない。
これは私のパンツだ。
「流石ハニーッス。気が利くッスね」
「えっと、な……、ううん。ありがとー。リリィ」
私は、なんで私のパンツを持っているの? と、聞こうと思ったのだけど、止めてお礼を言った。
何故なら、答えは簡単。
いつもの事だからだ。
そんなわけで、私はリリィからパンツを受け取って、物陰に隠れてパンツを穿いた。
すると、リリィが手のひらを上に向けて、ニコッと笑う。
「そっちのパンツは、私が預かるわ」
「え? いいよ。洗剤を使って洗ったわけじゃないし、ばっちいよ」
「そんな事ないわ。それに、ほら。私、こんな事もあろうかと、袋を持っているのよ」
リリィがそう言って、袋を取り出す。
「そのまま持ち歩くより、袋に入れておいた方が良いです」
「うーん。確かにそうだね。それなら、預かってもらおうかな」
私がパンツをリリィに渡すと、リリィはパンツを袋に入れずに、スポッと胸元に入れた。
「え? リリィ? 袋……」
「心配しなくても大丈夫よ。ちゃんと乾いているわ」
「そうじゃなくて、って言うか、何処にいれてるの?」
「スミレがよくこうして胸の谷間に、物を挟んでいるでしょう? 私はまだ挟める程大きくはないけれど、ブラをつけているから、パンツ位なら収納が出来るのよ」
そう言う事が聞きたいわけではないんだけど、うーん……。
これ以上聞いても、きっと、また違う答えが返ってくるよね。
そう考えた私は、ニコッと笑って諦める事にした。
私の頭の上で、ラテちゃんがドン引きしているけど気にしない。
トンちゃんが羨ましそうに見ていたけど、見なかった事にする。
「なあ? ちょっといいか?」
「あ。ごめん。待たせちゃったね」
私がパンツを乾かしている間、ずっと待っていてくれたヒトデ太郎さんが話しかけてきたので、私は一言謝った。
ヒトデ太郎さんと言えば、さっきまで顔が腫れていたのだけど、今はすっかり治っていた。
ちなみに腫れていた理由は、私を1人で船内に行かせた事をリリィに説明して、怒ったリリィに殴られたからだそうだ。
そのおかげで、私はこんな恥ずかしい事になってしまったようだ。
「気にするな。それよりも、リリィ、だったか? 取引をしないか?」
「私?」
リリィが自分に指をさして確認すると、ヒトデ太郎さんがこくりと頷いた。
「そのパンツ、いくらなら売ってくれるんだ?」
ん?
今、なんて言ったこの人?
「どういう事?」
リリィが真剣な面持ちで聞き返すと、ヒトデ太郎さんも同じように真剣に答える。
「純白の天使さんの失禁パンツを、高額で買い取ってやると言っているんだ」
へ、変態だー!
ヒトデ太郎さんも、そっち系の人だったの!?
私がヒトデ太郎さんにドン引きして距離をとると、ヒトデ太郎さんが私の反応を見て鼻で笑う。
「勘違いするな。純白の天使さんの失禁パンツだ。俺の手にかかれば、高額で売買が出来ると考えただけだ」
どっちにしろ最低だよ!
完全にアウトだよ!
「なるほどッス。確かに、ご主人のパンツでいつも争いが起きている事を考慮すれば、頷ける取引ッス」
頷けないよ!
「悪いけど、ジャスミンのパンツは私の物よ。お金? 困ったものね。ジャスミンのパンツの前では、お金なんて、何の価値も無いわ。そんな無価値な物で、取引出来るとでも思ったの?」
リリィがヒトデ太郎さんを鼻で笑う。
いやいやいや。
色々と言いたい事はあるけど、とりあえずそのパンツ、私の物だよ?
リリィの物じゃないからね?
「ふっ。流石だぜ、リリィさんよ。だがな。俺も男だ。ここで引き下がるわけにはいかねえ」
「ふん。だったらどうするの? 無理矢理にでも、奪うつもり?」
2人が睨み合い、この場が緊迫した空気に包まれる。
しかし、この緊迫した空気は、長く続かなかった。
何故なら、恐ろしい事が起きてしまったからだ。
それは突然だった。
バン! と、もの凄い音がして、船室のドアが破られる。
そして、もの凄い数のゾンビやミイラが、私達がいるこの船室に入って来た。
「きゃああぁぁーっ!」
私は叫んで、リリィの背後に隠れる。
「丁度良い。リリィさんよ、勝負しねえか?」
「勝負?」
「どっちが多く、こいつ等を片付けるかの勝負さ」
「なるほどね。勝った方が、パンツの所有者ってわけね」
「その通りだ。どうだ? 受けるかい?」
「気にいった。その勝負、受けて立つわ!」
「そうこなくっちゃな!」
何これ?
何このノリ?
私ついていけない。
って、あれ?
「ヒトデ太郎さん? こういうのダメって、言ってたよね?」
「ふ。純白の天使って言っても、やっぱり子供だな」
「え?」
「わからないか? 男にはな、どんなに恐ろしい相手だろうと、命を懸けて戦わなきゃいけねえ時ってのがあるのさ」
ヒトデ太郎さん……。
私はヒトデ太郎さんの、その覚悟を決めた真剣な眼差しを、ジッと見つめる。
そして、ラテちゃんがヒトデ太郎さんを憐れみの目で見つめる中、私は柔らかく微笑んだ。
もう。
ヒトデ太郎さんってば、バカなんだから。
しっかりして?
今はその時じゃないよ。




