135 幼女も心細いと震えます
「言い忘れていたが、俺の名前はヒトデ太郎だ。決してリリィなんて可愛らしい名前じゃないぜ」
「あ、うん」
私、別にヒトデ小僧さ、じゃなかった。
ヒトデ太郎さんの名前を、リリィだと勘違いしていたわけじゃないよ?
と思いつつ、なんとなく話を流して、周囲を確認する。
何処を見ても、リリィもプリュちゃんもスミレちゃんもライリーさんもいない。
そして私は考える。
ライリーさんは魚人だから心配いらない。
プリュちゃんは船から出たら、逆に調子を取り戻すかもしれない。
スミレちゃんはプリュちゃんの看病をしていたらしいので、プリュちゃんがなんとかしてくれるだろう。
うーん……リリィは大丈夫かなぁ?
やっぱり私が一番心配なのはリリィだった。
リリィは泳げないけど水中で息が出来るから、そこまで心配する必要はないかもしれないけど、私は心配なのだ。
それに、こんな時にリリィが側にいないのが、もの凄く心細い。
私は本当にお化けの類や暗い所が苦手で、リリィが側にいてくれないのが凄く心細いのだ。
私が不安で体を震わせると、ラテちゃんが私の頭を撫でてくれた。
「ジャス。心配しなくても大丈夫です」
「ラテちゃん」
「そうッスよ、ご主人。元気出すッス」
「トンちゃん。2人とも、ありがとー」
私は2人に励まされ、目を潤ませながら感謝をしていると、ヒトデ太郎さんが私に近づいてきた。
私はヒトデ太郎さんの姿に、思わずビクリと体を少し震わせる。
「しかし、これは不幸中の幸いだぜ。多分、俺の友達が見た船に違いねえ。まさか、船の方から、純白の天使さんの洗礼を受けに来るとはな」
び、びっくりしたぁ。
失礼だとは思うけど、この暗さでヒトデ太郎さんに近づかれると、もの凄く怖いんだよぉ。
と、私が心臓をバクバクさせていると、トンちゃんが私の目の前に飛んできた。
「もしかしたら、ハニーもこの船の中に乗り込んでるかもしれないし、船の中に入って探索するッスよ」
「え? た、探索なんて無理だよ。怖すぎるよ」
私がトンちゃんにそう言うと、ラテちゃんも私の目の前にやって来て、トンちゃんの横に並ぶ。
「でも、もし本当にこの船が原因で夜海化が進んでいたら、この船を調べないと脱出が出来ないかもしれないです」
「ご主人、それによく考えるッスよ。ハニーなら、ご主人が勇敢に立ち向かって、この船を調べるって考えるッス」
「そうかなぁ?」
「そうッスよ。だから、逃げ出したら、もうハ二ーと会えなくなっちゃうかもしれないッスよ?」
リリィと会えなくなる?
「そんなの嫌!」
「だったら、この船を徹底的に調べ上げるッスよ」
「ジャスなら大丈夫です。ラテとトンペットが全力で護るです」
「ラテちゃん」
私の目に、うるうると涙がたまる。
「ありがとー。私、怖いけど頑張るよ」
私が涙を拭って、2人に頑張って笑顔を作って向ける。
「よっしゃ! 頑張って来てくれよ! 純白の天使!」
「え?」
「俺はここで待たせてもらうぜ!」
「え? 一緒に来てくれるんじゃないの?」
「冗談はよしてくれよ。俺、こういうの駄目なんだよ」
「え、えぇぇ……」
私がヒトデ太郎さんの予想外の発言に、もの凄く残念そうな顔をすると、ヒトデ太郎さんがそれを見て苦笑した。
「いやあ、すまないな。ま、後の事は任せるんで、頼んだぜ」
いやいやいや。
嘘でしょう?
あ。でも、そうだよ。
よく考えてみたら、真っ暗になった時に、真っ先に私の腕を掴んだもんね。
あれって、ようするに怖かったって事かぁ。
うーん……気持ちはわかる。
私だって、本当は逃げ出したいくらい怖いんだもん。
でも、でもだよ?
私みたいな、こんな小さな女の子に全部任せて、自分だけ安全そうな所に普通残ろうとする?
普通は怖くても、大人として一緒に行動すると思うの。
私はそこまで考えると、大きなため息が出てしまった。
すると、それを聞いたトンちゃんとラテちゃんが、無言で私を撫でてくれた。
私は2人の優しさを感じながら、気持ちを切り替える。
仕方がない。
今はこんな時だもん。
やると決めた以上は、やってやるんだから!
こう見えても、私は立派なレディ。
体は子供でも、心は大人なんだからね!
私は握り拳を掲げて、意気込みを体で表現する。
すると、ヒトデ太郎さんが親指を立てた。
「流石は純白の天使さんだ。真っ白に輝いてるぜ!」
えへへ。
ちょっとだけ、イラッとしちゃった。
そんなわけで、私はトンちゃんとラテちゃんを連れて、幽霊船船内の探索を開始した。




