131 幼女と帰ってきたヌルヌル事件簿
私がリリィのさらなる変態化を必死で阻止すると、トンちゃんがボソリと呟く。
「そう言えば、何でオークは、クラーケンにヌルヌルオイルを吐き出させてたんスかね?」
「そんな事、どうでもいいです」
トンちゃんの疑問に、ラテちゃんが本当にどうでも良さそうに答えた。
「えー。ラテは気にならないッスかー?」
トンちゃんが私の腕の所まで飛んで、プリュちゃんと目を合わせて同意を求める。
「プリュは気になるッスよね?」
「気にならないんだぞ」
と、プリュちゃんも本当に興味無さそうに答えた。
「同じ精霊同士だっていうのに、二人ともつれないッスね~」
トンちゃんが、ラテちゃんとプリュちゃんをつまらなそうに見て、ちょっとだけ拗ねた顔になった。
拗ね顔トンちゃん可愛い。
などと私が顔を綻ばせていると、何処かから突然声が聞こえてきた。
「趣味なんだな」
「え?」
私は突然の声に驚いて、声の主を捜す。
「オークはヌルヌルの女の子を見るのが好きだから、ヌルヌルにしていただけなんだな」
「うそ!」
私は声の主を見つけて驚いた。
「嘘じゃないんだな」
「う、ううん。そっちじゃなくて、クラーケンが喋ったの?」
そう。
声の主は、今まで全く喋らなかったクラーケンだった。
「そうなんだな」
クラーケンって喋れたんだ。
「趣味ッスか。ただの変態ッスね」
「オーク。良い趣味を持ってたなのよ」
スミレちゃんが、うんうんと頷く。
私がおバカだなぁ。と、内心呆れていると、ライリーさんが私に「魔性の幼女さん」と声をかけてきた。
「報告が遅くなりましたけど、船の準備が出来ました」
「え、本当? ありがとー」
私が笑顔でお礼を言うと、ライリーさんもニコッと微笑む。
「喜んでもらえて何よりです。早速船に乗りますか?」
うーん。
どうしようかなぁ。
特に問題ない気はするけど……あ、そうだ。
昨日の夜、結局プリュちゃんにパンケーキ食べてもらえなかったんだよね。
よし。
「お昼ご飯食べてからが良いかな」
船に乗ったら、暫らくはパンケーキ作れないかもだもんね。
「そうですか。それなら、また家に来て下さい。たっぷりご馳走しますよ」
「うん。ありがとー」
「魔性の幼女さん、今日は泊まっていかないんですか? 泊っていって良いんですよ?」
私とライリーさんの話を聞いていたマノンちゃんが、寂しそうな表情を見せる。
「うん。でも、出来るだけ早く行かなきゃダメな場所があるから」
ニクスちゃんとたっくんを、早く助けないとだもん。
「そうなんですね。それなら、せめてお昼は一緒にお喋りしたいです」
「うん。いっぱいお喋りしよ」
私は笑顔でそう言ってから、オーク達に顔を向ける。
「オークさんもクラーケンさんもお兄さん達も、もう、悪い事しちゃダメなんだからね?」
私が一人一人の目を見ながら話すと、オーク達は頷いた。
「もうしないと、約束するでござる」
「しないんだな」
「これからは、正々堂々と直接頼む事にします」
「そうさ。俺達ならやれる」
「俺も頑張って、脱いで貰える様に頼むんだ」
こらこら。
確かにそれなら盗みではないけど、それもそれでアウトだよ。
「おぬし等、馬鹿でござるな」
意外かも。
オークさんは、一応わかってるみたいだね。
「これからは、オイルマッサージの時代でござる!」
「オイル」
「マッサージ」
「!?」
「そうでござる! クラーケン氏のヌルヌルオイルで、ヌルヌルになったエロ肌な女子達を、マッサージしてあげるのでござる!」
気持ち悪いなぁ。
いやぁ、本当無い。
「すげえ!」
「流石オークさん!」
「俺が女だったら間違いなく惚れる!」
無いと思うなぁ。
って言うか、懲りないなぁ。
うーん。
このおバカな人達、放っておいて良いのかなぁ?
また、何かやらかしそうで怖いんだけど?
私がそんな風に頭を悩ましていると、リリィが鼻血を出しながら口を開く。
「ヌルヌルのジャスミンにマッサージ。良いわね」
「よ――」
私がよくないと言おうとしたまさにその時、バシャリッと、私にクラーケン製のオイルがヌルッとかかる。
「え? 何!? なんで!?」
私が驚いてクラーケンを見ると、クラーケンが頭を掻きながら、ニコニコと喋る。
「リリィさんがご所望だったんだな」
クラーケンさん、今のは所望したんじゃなくて、ただの願望だよ?
もう。ほら。
おかげでラテちゃんとプリュちゃんまでヌルヌルに……って、あれ?
2人ともオイルまみれになってないよ!?
なんで?
私が頭に?を浮かべると、それを察してラテちゃんが答える。
「重力の力場を操作すれば、こんなもの食らわないです。プリュイもサービスで護ってあげたです」
わぁ。凄ぉい。
プリュちゃんも一緒に守ってくれるなんて、ラテちゃん優しい。
でも、でもね。ラテちゃん。
私は?
私も一緒に護ってほしかったかなぁ。
私がそう若干落ち込んでいると、リリィが気分良さげにクラーケンをペチペチ叩いた。
「クラーケン。アンタ、気が利くじゃない」
何言ってるの? リリィ。
最悪だよ?
ご飯の前に、またお風呂借りないとな感じになっちゃったんだよ?
「ジャスミン。せっかくだから、お言葉に甘えて、マッサージをしてあげるわ」
「え、遠慮するよ」
「うふふ。遠慮しなくても良いのよ?」
目が怖い。
目が怖いよリリィ!
私は後退り若干半泣きになりながら、近くにいたスミレちゃんの背後に隠れると、スミレちゃんが「そう言えば」と言って、言葉を続ける。
「幼女先輩。盗まれた水着や下着は、返してもらわなくても良いなのですか?」
「そう言えばそうよね。忘れていたわ。こんな事をしている場合でもないわよね」
よ、良かったぁ。
リリィが正気に戻ったよ。
ナイスだよスミレちゃん。
って、それはそうと、盗まれた水着と下着かぁ。
「どうしよっか? 少なくとも私はいらないし……」
そう言って、私はマノンちゃんを見る。
すると、マノンちゃんは、凄く嫌そうな顔をした。
「こんな人達に渡った下着なんて、もういらないです」
「そうだよね。たぶん、他の盗まれた人も、もういらないんじゃないかな?」
「それもそうよね」
「たしかになのですよ」
リリィとスミレちゃんも、マノンちゃんと私の意見に同意して、オーク達をゴミを見るような目で見た。
「でも、ジャスミンは本当に良いの?」
「え? なんで?」
「盗まれたのって、いつも穿いているお気に入りのパンツじゃない。今までだって、結構な数が無くなってしまったでしょう? また無くなる事になるわよ」
「うん。そうだけど、でも、まだストックはあるから大丈夫だよ。旅に出る時に、ちゃんといっぱい持って来たの」
私はリリィに笑顔で答える。
「そう。それなら良かったわ」
リリィも私の笑顔を見て、ニコッと微笑んだ。
すると、そこでライリーさんが私に話しかける。
「一応、俺の方で盗まれた人に、必要かどうか聞いておきます」
「ありがとー。ライリーさん」
「いえいえ。ささ。そんな事より、早く行きましょう。お風呂も準備しますよ」
「う、うん。本当にありがとー」
ライリーさんの気遣いに、私は涙目で返事をした。
こうして、港町で起きていた事件は解決し、平和が戻ったのでした。
ちなみに、ライリーさんが被害にあった人達に確認をして、皆からいらないと言われたそうです。




