130 幼女も呆れる事件の真相
トンちゃんが笑いを堪える中、私は涙目でパンツと短パンを穿き直し、プリュちゃんに頭を撫でられる。
「ごめんなさいね。ジャスミン」
「いいよ。今のは、わざとじゃないんだし、手を離した私も悪いんだもん」
私はため息を一つする。
「あの、魔性の幼女さん」
「うん?」
「魔性の幼女さんが海を氷らせたから、段々と寒くなって来たんですけど……」
「あっ。忘れたてた。あはは。ごめんね」
加護のおかげかな?
ちっとも寒くないから、すっかり忘れてたよ。
普通はもの凄く寒くて当然だよね。
「手っ取り早く、こいつらごと粉々に砕いちゃいましょう」
リリィが拳を振り上げる。
「ま、待って? 流石にそれは、オークとクラーケンが可哀想だよ」
冬の早朝によく見かける水たまりの氷とは、わけが違う。
海が氷っているので、普通はそんな常人離れした事は出来ないだろう。
だけど、正直リリィならやりかねない。
だから、何を馬鹿な事をと笑い飛ばさずに、私はリリィをしっかりと止める。
「イカなら、焼けば美味しくいただけますかね?」
「マノンちゃんまで何を言ってるの!?」
美味しくいただかないよ!
と言うか、クラーケンなんて食べたくないよ!
「そうね。私はイカの食感は、あまり好きではないわ」
「そう言う話じゃ無いよ!」
「私は好きですよ。イカ美味しいじゃないですか」
「そうね。私も別に、味は嫌いじゃないわ。あくまでも、食感の話よ」
「それなら、食べる方向で、問題なさそうですね」
「仕方がないわね」
「仕方がなくないよ! 食べないよ!」
と、私が2人を必死で制止していると、遠くから声が聞こえてきた。
「待って下さーい!」
「オークさん達を殺さないで下さい!」
「これには、これには事情があるんです!」
私達は突然聞こえてきたその三つの声に振り向くと、こっちへ向かって泳いで来る3人の魚人の姿を見つけた。
「誰? 知り合い?」
リリィがそう言って、マノンちゃんを見る。
「見た事ない顔ですね。多分ですけど、町の人でも無さそうです」
町の人じゃないって、見てわかるんだ?
凄いなぁ。
マノンちゃんが顔を訝しめてそう答えている間に、あっという間に3人の魚人が、私達の所までやって来た。
やって来た魚人は3人共男の人で、大体20代後半に見える。
そして、そんな大の大人な3人の魚人が、目を見開いて私に詰め寄る。
正直怖い。
「魔性の幼女さん! 話を、話を聞いてください!」
「オークさんは、俺達の為に下着や水着を盗んでいたんです!」
「決して、私利私欲の為じゃないんです!」
え、えーと……。
って言うか、怖いから顔を近づけないで?
私が3人の魚人の勢いに、尻込みして後退ると、リリィが魚人を押し退けて私の前に出た。
「ちょっとアンタ達、私のジャスミンに、それ以上近づかないでもらえるかしら?」
「す、すみません」
3人の魚人が冷静になったようで、私とリリィから距離をおいた。
「リリィ、ありがとー。とりあえず、話を聞いてあげよう」
「仕方がないわね」
リリィがそう言いながら私と目を合わすと、直ぐに魚人達に顔を向けた。
「ジャスミンに感謝しなさいよ」
「そりゃあ、勿論ですとも」
「流石魔性の幼女さんだ」
「ありがとうございます」
突如現れた3人の魚人のお兄さん達から、お話を聞く事になったのだけど、そのお話はとんでもなくおバカな内容だった。
◇
場所は変わって、ラテちゃんとスミレちゃんが待っていた浜辺。
そして、オークとクラーケンは解放してあげて、魚人のお兄さん達と一緒に浜辺に連れて来た。
私達はラテちゃんとスミレちゃん2人に合流すると、オーク達に振り向いた。
オークと魚人のお兄さん達3人は暗い面持ちで正座をしていて、その後ろでは、クラーケンがしょんぼりとしているようだった。
しょんぼりしたクラーケン、ちょっと可愛いかも。
「俺達、海底に住んでいて、知っての通り、地上に住む種族をよく思っていない魚人なんです」
「だけど、俺達は知ってるんです。地上の女の子達が、素晴らしい子達なんだって!」
「でも、そんな俺達も周りの目が気になって、女の子をナンパなんて、怖くて出来ないじゃないですか?」
うーん。
出来ないじゃないですかって言われても……。
「それで、俺達がどうしようかと考えていた時に、見つけたんです」
「オークさんとクラーケンさんが、海水浴に来ていた女の子の水着を、波にさらわれた様に見せかけて、見事に盗んでいた所を!」
最低だなぁ。
お話の開始早々に、もうアウトだよ?
「あれを見た瞬間、俺達は心が躍るようでした!」
「ああ。胸が高鳴ったのを、今でも覚えてるよな!」
「おう。最高の瞬間だったぜ!」
ろくでもない大人の集まりだよ。
もう話を聞かなくても、良いんじゃないかな?
「そして、俺達は頼んだんです! 海水浴に遊びに来た女の子達から、水着を盗んで来てほしいって!」
「そしたら、オークさんが言ってくれたんです」
「下着もサービスで盗んで来てやるでござるって!」
本当に最低だ。
事情を聞いてわかった事は、完全に黒だって事だけだよ!
「あの時のオークさん、最高にかっこよかったよな!?」
「全くだぜ!」
「俺が女なら惚れてるね」
惚れないと思う。
もう、本当にない。
前世が男だった私だからこそ言わせてもらうと、本当にないよ。
ここまで黙って聞いていたリリィが、呆れた顔をして、オーク達の前に立った。
「事情はわかったわ。アンタ達、ただのクズじゃない」
うん。
私もその意見に同意だよ。
でもね? リリィ。
リリィは人の事、言えないと思うよ?
「本当ですよね。自分から女の子をナンパ出来ないからって、オークに頼んで水着と下着を盗んでもらっていたなんて!」
マノンちゃんが頭に血を登らせて、オーク達を睨む。
「同じ魚人として、恥ずかしい限りだ!」
と、いつの間にか私の横に立っていたライリーさんが、大きくため息を吐き出す。
あれ?
ライリーさん、いつの間に?
「ご主人、こいつ等、まとめて全員あの世行きで良いと思うッス」
良くないと思うよ?
「バカが集まると厄介です」
「全くなのよ。女の子の水着より、パンツの方が価値があるなのよ」
それはスミレちゃんの主観だし、そしてどうでも良いよ。
皆が思い思いに話していると、オークが大声を上げた。
「この者達は悪くないでござる! 拙者が全部悪いのでござる!」
「オークさん!」
「何言ってるんですか!?」
「罪を一人で背負おうなんて、許しませんよ!」
「お前達!」
ガバッと、オークと魚人のお兄さん達が4人で抱き合いながら、うおーんと涙を流す。
何これ?
なんで、オークとお兄さん達と後ろにいるクラーケンまでもが、泣いているの?
なんか泣き方が、男泣きっぽい感じだし。
そんな4人と1匹が涙を流し合う姿を、リリィ達が軽蔑の眼差しで見つめる。
私が呆れながら、腕にしがみつくプリュちゃんをなでなでしていると、オークが1人で私とプリュちゃんに近づいて来た。
「水の精霊氏、この度は数々の暴言、誠に申し訳なかったでござる」
「もう気にしてないから、良いんだぞ」
ちょっと意外だったかも。
私、このオークは、自分から謝らないタイプの人だと思っていたよ。
「拙者の目が節穴だったでござる。まさか、あれ程の魔法を契約者に使わせるとは、見事でござった」
プリュちゃんはその言葉が嬉しかったのか、少し頬を火照らせながら笑う。
「あれは主様のおかげなんだぞ」
照れてるプリュちゃん可愛い。
私が照れているプリュちゃんに癒されていると、リリィが近づいてきた。
「オーク、アンタに聞きたい事があるのだけど?」
そう言って、オークに話しかけたリリィの顔は、凄く深刻な表情をしていた。
リリィ?
どうしたんだろう?
私がリリィのその様子に心配していると、リリィがオークに真剣な眼差しを向けた。
「触手プレイって何よ?」
凄く顔が真剣だったから、何があったのかと思ったけど、凄くくだらない事だったよ。
て言うか、リリィ。
それは聞かなくてもいいと思うよ?
「その事でござったか、ならば、ここは実際に実践を――」
「そんなの、やらなくて良いから!」
私はオークを睨みつけ、全力で阻止する。
「え? ジャスミンは知っているの?」
「魔性の幼女たんに睨まれた! ありがとうございまする!」
「触手プレイ、私は好きじゃないなのよ」
「スミレも知っているの?」
「もちろん知って……」
私はスミレちゃんを睨む。
「る事もないなのよ」
「気になるわね」
気にならなくていいよ。
せっかく、何事も無く無事に事件が解決出来そうなのに、これ以上おバカにつきあってられないもんね!
と言うかだよ。
これ以上、リリィを変態にしないで!?




