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013 幼女と始まる健康診断

 健康診断当日の朝。村にある唯一の病院に、村中の人が集まっていた。


 この村の健康診断は男女関係なく一緒に行われていて、先着順で見て貰うのだけど、希望者は一番最後に男女別で見て貰う事も出来たりする。

 そんなわけで、パパとママは一番最後に見て貰うらしいので、私は1人で先に健康診断を終わらせに行く事にした。


 診察室の前で並んで待っていると、背後から私を呼ぶ声がした。


「ジャスミーン!」


 呼ばれて振り返ると、リリィが駆け足で私の所に走って来ていた。

 よく見ると、腰まで届く綺麗な長髪は、今日は後ろに纏められてお団子になっていた。


「リリィ。その髪どうしたの?」


「どうしたのって、今日は健康診断だから、髪の毛が邪魔にならない様にしただけよ」


「ふーん……」


 あ。

 すっかり忘れていたけど、この村の健康診断って身体測定みたいな事もするんだっけ?


「それより、ジャスミンこそどうしたの?いつもは小父様と小母様と一緒に、最後に受けているじゃない」


「え? そうだっけ?」


「えぇっと……ジャスミンは、ほら。自分の身長にコンプレックスを持っているじゃない?」


「あー」


 すっかり忘れていたけど、私は元々自分の身長の低さを気にしていたのだ。

 だから、皆に知られたくなくて、健康診断をパパとママと一緒に受けていた。


 今は、前世の私がロリコンだったからか、むしろ身長低いのウェルカムな感じなんだよね。

 やっぱり女の子は、身長低い方が可愛いもん。


 などと考えていた時だった。

 不意に頭を背後から撫でられる。


「ジャスミンおはよう。珍しいね。今日は最後に受けなくていいの?」


 振り返ると、昨日3人組のお姉さん達が話していた噂のたっくんだった。 


「たっくんおはよー。もう身長の事は気にしないから良いの」


「あはは。そっかそっか」


 実は噂のたっくんと私は仲が良い。

 私が5歳の頃に、当時16歳のたっくんが、1人で村に引っ越して来た。

 その時、大変だからと言って、私のパパが色々と手伝いに行っていたのだ。

 1人で引っ越して来た理由を聞いたら、両親を事故で亡くして1人暮らしをする事になった時に、この村は皆優しく雰囲気も長閑のどかで良いとお勧めされて来たとの事だった。

 そして、それを聞いたパパは親ばかを発揮して、私を連れて行けばたっくんも私で癒されて元気が出るだろうと考えたのだ。

 そんなわけで、私はパパに連れられてたっくんに面倒を見て貰い、仲良くなったのでした。


「でもジャスミン、気にしないって言うけ――」


「――ちょっと、ジャスミンの頭撫でないでもらえます?」


 私とたっくんが会話していると、リリィがたっくんの手をパチンと叩いて振り払い、たっくんを睨みつけた。


「リリィは可愛げが無いなぁ」


「うふふ。可愛げが無い? 貴方は何様なのかしら?」


「おーこわ」


 たっくんは苦笑して去って行った。


 そんな2人のやり取りを見ていた私は、ふと気が付いた。

 実は前世の記憶が甦る前から、リリィとたっくんは仲が悪かったのだけど、今の私だからこそ、その理由に気が付いた。

 理由は簡単。

 皆さんお気付きの簡単な理由。

 私の事が好きなリリィが、私と仲が良い男であるたっくんを、敵視してるからだ。


 私は罪な女だなぁ。


 などと、お馬鹿な事を考えていると、今度は背後からブーゲンビリアお姉さんと、そのお友達2人が現れる。


「また色気使ってるよ」


「ガキの癖に、色気づいてんじゃねえよって感じよね」


 またわざと聞こえる様に喋ってるよ。

 あーやだやだ。


 思わずため息が出そうになったが、私のため息は出る事が無かった。

 何故ならそれは、私の目の前にいるリリィの顔の形相が、今まで見た事もない位に恐ろしかったからだ。

 いつも綺麗な細長の目が、開眼と言うに相応しい程見開いていて、その綺麗で美しい瞳からは殺気が放たれていた。

 リリィは見た目が綺麗系な顔立ちの美少女なので、逆にその美しさが、今では恐ろしく見える。


「リ、リリィ?」


「ジャスミン、私ちょっとお話してくるわね」


 お話って顔じゃないよリリィ!

 これ絶対止めなきゃダメな奴だ!


「ま、待ってリリィ!」


 今にも走り出しそうなリリィの腕をガシッと掴んで、ギュッと強く抱きしめる。


「私、リリィと一緒に健康診断受けたい! 一緒に行こうよ!」


 急に腕を強く抱きしめられたリリィは、突然の事に動揺して答える。


「え? そ、そうね。一緒に行きましょう」


 良かった。

 心からそう思う。

 さっきのリリィは、マジでヤバい雰囲気だった。

 私の為に怒ってくれるのは、とても嬉しいけど、あんな顔をしたリリィは見たくないもん。

 いつもの優しい、ニコニコ顔のリリィでいてほしいな。


 こうして事無きを得て、健康診断の診察室へ着くと、そこにはルピナスちゃんがいた。


「ルピナスちゃん!」


 私が呼びかけると、ルピナスちゃんは私を見て、尻尾をふりふり振って笑顔で駆け寄ってきた。


 癒される~。


「ジャスミンお姉ちゃんとリリィお姉ちゃんおはよう!」


「うん。おはよー」


「おはようルピナスちゃん。今日も可愛いわね」


 私とリリィは一緒になって、ルピナスちゃんの頭を撫でる。

 すると、そこで違和感を覚えた。


「あれ? ルピナスちゃん、身長伸びた?」


「まだ測ってないからわかんない」


「そ、そう」


 何故だろう?

 心なしか、ルピナスちゃんが大きくなったように感じる。

 昨日までは、私と身長があまり変わらなかったはずなのに、今は私より拳一個分大きいような。


「もしかして、いつも厚底の靴を履いているのを忘れていたの?ジャスミン」


「え? 厚底の靴?」


 そう言えば、前世の記憶が頭に入ってから忘れていたけど、私の履く靴は全部厚底だった。

 ルピナスちゃんと会う時は、いつもその靴を履いている時に会っていたから、気が付かなかった。

 今は診察室の中なので、靴を脱いでるから、その差が出てしまったのだ。


「じゃあ、私ってルピナスちゃんより身長低かったんだね」


「気付いてなかったの?」


「うん」


 私は何だか複雑な気分になり、一瞬しょんぼりするが、ふとある事に思い至った。


 このまま大人になれば、合法ロリになれない!?


「ジャスミン? 顔がにやけてるわよ?」


「へ? ……あはは」


 危ない危ない。

 妄想してニヤケ顔は、ただの変質者に見えるから気をつけないと!


「次の方どうぞー」


 あ。

 ルピナスちゃんが呼ばれたから、次は私だ。

 まずは身長と体重を測ってもらうんだよね。


 リリィやルピナスちゃんと話しているうちに、どうやら順番が回ってきたようだ。

 私はすぐに測って貰えるように、上着を脱ぎスカートを下ろす。


「ジャ、ジャスミン!?」

「え? どうしたのリリィ? 大声なんか出して」

「どうしたのはこっちのセリフよ! 何で服全部脱いでパンツだけに!?」

「え?」


 ルピナスちゃんを見ると、服を着たまま測ってもらっていた。


 あ。

 そうか。

 私、前世が男だったから、子供の頃に受けた健康診断の流れで、全部脱いじゃったのか。


 私は前世の事を思い出して、あははと苦笑していると、目の前にブーゲンビリアお姉さんが怖い顔で現れた。


 げー!

 絶対何か言われるよ!

 私の馬鹿!

 これは自業自得すぎて何も言い返せないよ!


「もう! 女の子なんだから、人前でそんな格好したらダメでしょ!」


「ごめんなさ――」


 謝ろうとしたその時、私はガバッと服を着させられた。


「全く、世話が焼ける子ね」


 そう言って、まるで慈愛に満ちた優しい瞳で、ブーゲンビリアお姉さんが私を見た。


 え?

 どういう事?


 私はあまりにも予想外な行動をとられてしまったせいで、その場で呆けてしまった。

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