128 幼女の親友は斜め上に進化する
まるで物語の主人公のようにかっこよく現れたリリィに、私が目を奪われていると、私達を呼ぶ声が聞こえてきた。
「魔性の幼女さーん! 無事ですかー?」
その声に振り返って見えたのは、遠くの方からマノンちゃんが私達の所まで、泳いで来ている姿だった。
「あれ? マノンちゃん?」
するとそこで、リリィが私の肩に触れて柔らかく微笑むと、パンツを取りだす。
「持って来たわよ。ジャスミンのパンツ」
「へ? あ、うん。ありがとー」
私はリリィからパンツを受け取ると、リリィを見て首を傾げた。
そう言えばだけど、リリィ、なんで海の中で喋れてるの?
私が頭に?を浮かべていると、マノンちゃんが私達の所まで辿り着き、息を切らして口を開く。
「リリィさん凄いですね。私から急に離れて海底に下りてから、もの凄い速い速度で海底を走り出すから、驚きましたよ」
「仕方がないでしょう? あの豚がジャスミンに手を出そうとしていたのが、見えたんだもの」
そう言って、リリィは私の肩から手を離す。
2人の話を聞きながら、私は今更ながらに、ある事に気がついた。
それは、リリィが全く泳いでいないという事だ。
どうやら、リリィは沈まないように、マノンちゃんに支えられているようなのだ。
もしかして、私の肩に触れたのって、沈まないようにだったの?
うーん。
海の中で喋ってるのも気になるし……って、考えていても仕方ないよね。
よし。
聞いてみよう。
「ねえ、リリィ。色々聞きたい事があるんだけど?」
「何かしら?」
「えっと、まずはね。なんで海の中なのに喋れてるの? って言うか、呼吸が出来てるの?」
私がそう訊ねると、リリィは苦笑する。
「やだわ。ジャスミンったら。出来て当然じゃない」
「え?」
あれ?
リリィって魚人じゃなかったよね?
出来て当然ってどういう事?
「ジャスミンが寿命を縮めて戦っているのに、私がトラウマなんかに、負けてなんていられないでしょう?」
「うん?」
「そう思ったら、泳ぐ事は出来なかったけど、水中でも呼吸が出来るようになったのよ」
「えええぇぇーっ!?」
いやおかしいよ!
絶対おかしいよそんなの!
そこは普通、泳げるようになったとか、そんな感じだよね!?
泳げないけど呼吸が出来るようになるって、意味わかんないよ!
前からいつも思ってたけど、リリィめちゃくちゃだよ!
チートのレベル超えてない!?
その時、私はハッとなって冷静をとり戻す。
い、いけない。
まだ、まだ聞きたい事があるんだもん。
リリィがチートだなんて、そんなのもうわかってた事じゃない。
落ち着け私!
こんなのまだまだ序の口だよね。
きっとチートの世界では普通なんだ。
よーし。
泳げてないのはわかった。
でも、そのわりにはな事があるよね。
私は気を取り直して、再びリリィに質問する。
「リリィ、海の中なのに随分と普通に動けていたみたいだけど、なんでなの?」
と言うか、普通と言っておいてなんだけど、魚人のマノンちゃんよりも随分と俊敏みたいだよね?
「やだわ。ジャスミンったら。おかしな事を聞くのね」
「え?」
私、おかしな事聞いた?
だって、ほら。
リリィってば、マノンちゃんが支えてくれてなきゃ、今頃は沈んで海の底だよ?
それなのに、目にも止まらない速さでオークを蹴り飛ばしたんだよ?
マノンちゃんみたいに、魚人ならともかく……って、そっか!
そうだよ。
マノンちゃんだよ!
マノンちゃんから、海の中を動くコツみたいなものを、教えて貰ったのかも!
それなら、チートなリリィなら直ぐに、海の中を自由自在に……。
と、私は若干頭を混乱させながら、リリィを掴んで支えているマノンちゃんを見た。
だけど、マノンちゃんは私の心を察したのか、苦笑して首を横に振る。
「ジャスミンは雨の日に、雨に打たれながら歩いていて、動き辛いと感じた事はある?」
「え? ないけど?」
よっぽど強く雨が降っていたら、思うかもだけど……。
「それと一緒よ。雨が降っていようと、海の中だろうと、同じ水でしょう? 問題ないわよ」
「そっかぁ」
えーと、つまり?
雨の日に歩くのと、海の中で歩くのも、一緒なんだね。
うんうん。
私はリリィにニコッと一瞬だけ微笑むと、直ぐに頭を抱え込んだ。
そんなわけないよ!
状況が違いすぎるよ!
何か同じ事があるとしたら、濡れるって所だけだよ!
最早水は水でも、雨水と海水は別物だとか、そんな事どうでも良いくらいに違いすぎるよ!
これもチートなリリィなら普通なの?
って言うか、あれ? チートってなんだっけ?
リリィのあまりにも意味のわからない進化? に、私が混乱していると、リリィは抱っこしていたプリュちゃんを離して微笑む。
「プリュ、ジャスミンの側にいてあげて?」
「うん。ありがとうだぞ」
プリュちゃんが私の腕を、ギュッと掴んだ。
するとその時、リリィに異変が起きる。
「うっ」
「リリィ!?」
リリィが口を押えて俯くと、口から血が流れ出した。
「何とか頑張って耐えていたのだけど、流石に我慢が出来なくなってきたみたいだわ」
どうしよう。
油断した。
ここは海の中なんだもん。
水圧の影響だよね?
いくらリリィでも、水圧には耐えられないんだ。
早く何とかしないと!
私がリリィを心配して肩を掴むと、リリィが顔を上げた。
そして、リリィは息を荒くして口を開く。
「ジャスミン。いつもより、随分と大胆な格好をしているのね? もう、私耐えられないわ」
「え?」
私は顔を下に向けて、自分の姿を確認する。
すると、短パンがオークに一瞬触れられたのか、ちょっとエッチな感じに肌蹴ていた事に気がついた。
更に、よく考えてみれば、今の私はこの通り胸を腕で隠している。
そんな私の姿は、全裸になっている時より、若干エッチな感じの雰囲気を出していた。
「きゃ、きゃーっ!」
私は叫びながら大急ぎで岩陰に隠れると、リリィから受け取ったパンツを穿いた。
もうやだ。
リリィのあれ、よく見たら口じゃなくて、鼻から鼻血が出てただけだし!
たぶん、プリュちゃんを抱いてたから、頑張って耐えれてたんだろうなぁ。
って、そんな事よりだよ。
うーん……どうしよう?
結局、胸は腕でしか隠せないよね……。
私が頭を抱えて悩んでいると、トンちゃんが私の頬っぺたをツンツンと突いてきた。
「トンちゃん?」
振り向くと、トンちゃんはグッと親指を立てて、そのまま立てた指を自分にさした。
「任せろって事?」
私がそう訊ねると、トンちゃんがこくりと頷く。
頼もしい!
トンちゃんを連れてきて、正解だったよ!
そんなわけで、私は頼もしいトンちゃんに、身を委ねる事にしました。




