127 幼女を愛でる資格を持とう
海の中に潜ると、私の目に映ったのは、とても綺麗な景色だった。
綺麗で透き通る海の底は、珊瑚が広がり綺麗に染まり、色鮮やかに輝いていた。
色んな種類の魚たちが、所々に泳いでいるのが見えて、こんな状況でなければ私は目を奪われていた事だろう。
不思議。
海の中だけど、プリュちゃんの水の加護のおかげで、呼吸が出来る。
制限時間は30分。
ううん。
盗られてから時間が少し経ってるから、そんなにないかな?
でも、これなら、きっと大丈夫だよね。
私はすぐに周囲を確認して、オークとクラーケンを捜す。
すると、プリュちゃんが私の前に出て、指をさした。
「ジャスミンさん。あそこだぞ」
海の中なのに、お話も出来るんだ?
教えて貰った方向を見ると、だいぶ遠くに行ってしまっているみたいだけど、クラーケンの姿を確認出来た。
「プリュちゃん。ありがとー」
私はプリュちゃんに一言お礼を言うと、魔法でウォータージェット推進の要領で、足裏のあたりから高圧の水流を勢いよく噴出して、一気にクラーケンとの距離を詰めた。
すると、背後に迫る私に気がついたようで、クラーケンが私を見てから泳ぐスピードを上げる。
「トンちゃん」
私が名前を呼ぶと、トンちゃんがこくりと頷く。
私はクラーケンを囲うように、魔法で純水の壁と空気の隙間を作る。
そして、クラーケンに狙いを定めて、魔法の電撃を放った。
「ぎゃぁぁああっ!」
私が放った電撃は、見事に命中してオークの叫びが海中に響く。
そして、クラーケンが意識を失い、動かなくなった。
良かった。
電気が漏れてないし、上手く囲えたみたい。
って、あれ?
オークが叫んだ?
もしかして、オークも喋れるの?
あのオークは私の使った水の魔法で溺れたのに、こっちのオークは呼吸が出来るのかな?
てっきり、長い間海に潜っていられないと思っていたんだけど……。
私がそんな風に疑問を抱いていると、若干丸焦げのオークがクラーケンから離れて、私から10メートル程の距離まで泳いできた。
「とんでもない美幼女でござるな! 海の中で電気を流すとは、頭がおかしいでござるぞ!」
喋ってる。
やっぱり、理由はわからないけど、水中で呼吸が出来るんだね。
「だが、拙者は玄人故、この程度の電撃は効かぬでござる!」
思いっきり焦げちゃってるけど、本当に効いてないのかな?
って、そんな事よりだよ!
「プリュちゃんに謝って!」
私が叫ぶと、オークが顔を顰める。
「プリュちゃん?」
「水の精霊のプリュちゃんだよ」
「デュフフ。水の精霊の事でござったか。お断りでござる」
むー。
もう一回、電気を浴びせてあげようかな。
「何故拙者が、そんな事をせねばならぬでござるか! 悔しかったら、この本にサインをする条件として、提示しなかった自分を恨――」
そう言いながら、オークはさっきの本を取り出した。
そして取り出した本を見て、オークが一瞬、時間が止まったかのように動きを止める。
何故ならそれは、私の放った電撃を浴びて黒焦げになり、本と呼べる代物ではなくなっていたからだ。
あ。
え、えーと……。
「ご、ごめんね」
私が一言謝ると、オークの止まっていた時間が動き出す。
「ごめんねじゃ、済まぬでござるぞーっ!」
うわ。
すっごい怒ってる。
「これは、今や大ヒット連載中の、ツルっとパイけつ魔女っ娘ジャスたん一巻の初版! しかも、モデルになった魔性の幼女たんのサイン入りの、超レア物だったのでござるぞ!」
いやいや。
その初版云々はともかくとして、サインは私が書いてあげたからだよ?
「許さん! 許さんぞ! 美幼女! いや、魔性の幼女たん!」
オークが私を睨み、手をかざす。
すると、私は着ていた水着を、どういうわけなのか一瞬で脱がされてしまった。
「ぴゃっ!」
ま、また!?
これ、本当にどうなってるの!?
私は直ぐに胸を腕で隠した。
「デュフフフフ。拙者の能力を、そんじょそこ等のオークと一緒と思うでないぞ!」
オークが私の水着を鷲掴みする。
「拙者の能力は、覚醒せし能力! どんな条件であろうと、下着と水着を脱がせて、拙者の手にワープさせる能力でござる!」
出たよ!
くだらない能力!
と言うか、納得だよ。
フルーレティさんも同じような事言ってたよね?
能力が覚醒したって。
それと同じで、このオークも能力が覚醒してるんだ。
「デュフフ。魔性の幼女たんよ。ちっぱいを隠す為に、身動きを上手くとれまい!」
うぅ。 たしかに。
片腕しか動かせないから、ちょっと動きづらいかも。
「拙者の愛読書を黒焦げにしてしまった罪、その体で代償を払ってもらうでござるぞ! デュフフフフ」
ひぃ!
目が怖い!
凄くいやらしい目で私を見てるよ!
私が雰囲気に呑まれて怖気づくと、プリュちゃんが両手を広げて、私の目の前に立った。
「ジャスミンさんには、指一本触れさせないんだぞ!」
「デュフフ。忘れたでござるか? お前では、拙者には敵わぬぞ!」
「ジャスミンさん、逃げるんだぞ。時間稼ぎ位は、やってみせるぞ」
プリュちゃん。
私はプリュちゃんのおかげで、落ち着きを取り戻す。
「ううん。プリュちゃんありがとー。私は、大丈夫だよ」
「愚かなり魔性の幼女たん! 拙者はもう一つの能力、水中での呼吸を手に入れて、水中戦の訓練を受けた身」
オークがもの凄いスピードで泳ぎ、私達に接近する。
「さながら拙者は、海を優雅に泳ぐイルカ同然でござる。逃げた方が賢明でござったぞ!」
イルカさんと一緒にしないで!
って、あ。
イルカさんって漢字で書くと、海豚だっけ?
「わっ!」
「プリュちゃん!」
私が思わずおバカな事を考えていると、プリュちゃんが接近したオークに払いのけられた。
そして、私がプリュちゃんを目で追うと、その隙をつかれてオークに掴みかかられてしまった。
「まずは、その邪魔な短パンを――」
しまった!
このままじゃ!
「汚い手で、私のジャスミンに触ってんじゃないわよ!」
「――ブヒィーッッ!」
デカく鈍い音と共に、オークが海底目掛けて吹っ飛びぶつかる。
えっ!?
私は自分の目を疑う程に驚いた。
何故なら泳げない筈のリリィが、払いのけられたプリュちゃんを抱きしめながら、オークを海底に蹴り飛ばしたからだ。
「まったく、何が美幼女よ。何が魔性の幼女たんよ。こんなに小さな女の子に乱暴して! アンタには、全ての女の子を愛でる資格がないのよ!」
リリィがプリュちゃんをギュッと抱きしめて、海底に勢いよくぶつかって倒れこんだオークを睨みつけて、勢いよく言い放った。
私はそんなリリィの姿を見て、まるで物語の主人公みたいでかっこいいなぁ。と感じたのであった。




