123 幼女は今日の寝床を確保する
プリュちゃんとの契約を無事に成し遂げた私は、島に来た時と同じように、ライリーさんの船に乗って港町まで戻って来た。
港町まで戻って来ると、リリィとスミレちゃんが待っていてくれて、手を振って迎えてくれた。
「お帰りなさい。ジャスミン」
「幼女先輩、お帰りなさいなのですよ」
「うん。ただいま。リリィ、スミレちゃん」
私が船を下りて、3人でキャッキャッとはしゃいでいると、それを見ていたライリーさんが「船を停めて来ます」と言って、船を元あった場所に停めに行った。
私がライリーさんを見送っていると、リリィがプリュちゃんをジィッと見つめて、ニコッと笑う。
「この子が水の精霊?」
「うん。プリュイ=ターウオちゃんだよ」
「プリュね。よろしく」
「よ、よろしくだぞ」
プリュちゃんが若干怯えながら挨拶すると、トンちゃんがくるりと宙を舞って、プリュちゃんの横に並ぶ。
「契約をして、ご主人の記憶を見たんだから、ハニーが誰だかわかるッスよね?」
「わ、わかってるぞ」
「だったら、何で怯えてるッスか?」
「だって……」
プリュちゃんがリリィを見つめる。
そして、私をギュッと掴んで、涙目になる。
「だって、リリさんは変人なんだぞ」
プリュちゃんの言葉に、トンちゃんが笑いを堪えて、ラテちゃんまでもが失笑して、スミレちゃんはうんうんと頷く。
変人と言われた当の本人のリリィは、不思議そうな顔をして、首を傾げる。
そして、口に手を当てて、可笑しそうに笑った。
「うふふ。変人なんて、初めて言われたわ。アナタには、そう見えてしまったのね」
え?
嘘でしょう? リリィ。
気がついてなかったの!?
そう見えてしまったって言うか、どっからどう見ても変人そのものだよ?
プリュちゃんの言った事は、まぎれもなく真実だよ?
「でも安心て良いわよ? 私は変人ではないもの」
プリュちゃんが心配そうにリリィを見る。
すると、リリィはプリュちゃんに柔らかく微笑んだ。
「変人って変な人の事でしょう? 私は変な人では無いもの。でもそうね、あえて言うなら……」
そう言うと、リリィは左上に目線を向けて考えて、直ぐにプリュちゃんに目線を合わせる。
「変態かしら?」
いや、それもう一緒だよ!?
変人と、そんなに変わらないよ!
ううん。
それどころか、むしろ悪化してる。
私の中のイメージの問題かもだけど、変人より変態の方がやばい人って感じがするよ?
うーん。
でも、実際にリリィって変態だから、合ってはいるよね。
プリュちゃんがリリィの言葉を聞いて、更に怯えだす。
うぅ。
なんて可哀想なのプリュちゃん。
リリィがおバカな事を言い出すから、よけいに怯えてプルプルしてるよ。
可愛いけど可哀想だよ。
「リリィ、プリュちゃんをイジメたら、可哀想なのよ」
そう言って、スミレちゃんが何故かドヤ顔で、プリュちゃんを撫でる。
「別にイジメてないわよ」
「リリィは存在がイジメなのよ」
「スミレ、アンタ私に喧嘩売ってる?」
そう言ってリリィがスミレちゃんを睨みつけると、スミレちゃんは涙目になった。
「ご、ごめんなさいなのよ! 新人にかっこいい所を、見せたかっただけなのよ」
むしろかっこ悪いよスミレちゃん。
9歳の女の子に睨まれて、怯える大人ってどうなの?
残念な人にしか見えないよ?
「どうせそんな事だろうと思ったわ」
2人の会話を聞いていたプリュちゃんが、スミレちゃんをじっと見た。
「スミレさん。よろしくだぞ」
「よろしくなのよ」
なんとなくだけど、プリュちゃんがスミレちゃんに、親しげに声をかけたように見えた。
それを見たラテちゃんが、ぼそりと呟く。
「プリュイがスミレを、ポンコツ仲間として認識したみたいです」
「もう。ラテちゃん、変な事言わないでよ」
ラテちゃんも、たまに失礼な事言うよね。
ポンコツは、スミレちゃんだけだもん。
私達がお喋りしていると、ライリーさんとマノンちゃんがやって来た。
どうやら、船を元の場所に戻しに行った後に、迎えに来たマノンちゃんに会ったようだ。
私がマノンちゃんと、ただいまとおかえりのやり取りをしていると、ライリーさんが私に話しかけてきた。
「魔性の幼女さん、今日はもう遅いですから、私の家で泊まっていって下さい」
たしか、まだ今日泊まる所って、決めて無かったよね?
うん。凄く助かるかも。
「お言葉に甘えちゃおうかな」
「是非そうして下さい。魔性の幼女さんを家に泊めたって、町の連中に自慢出来るってもんですよ」
ライリーさんはそう言うと、気分良さげに大口を開けて笑い出す。
すると、マノンちゃんがライリーさんを睨みつけた。
「ちょっとお父ちゃん。恥ずかしい事言わないでよ」
私はそれを苦笑しながら見て、大事な事を思い出す。
「あ。そうだ。キッチンを借りていいかな?」
「ああ。もちろん構いませんよ」
「やった。ありがとー」
良かったぁ。
ちゃんとした所じゃないと、パンケーキも作るの大変だもんね。
よーし。
プリュちゃんに美味しいパンケーキをご馳走しよう!
そんなわけで、私達はライリーさんとマノンちゃんの後に続いて、2人のお家に向かった。




