012 幼女は通り名を手に入れる
パンツ盗難事件の翌日、私はパパとママから魔族が復活した事を聞いた。
危険だからという事で、今後は子供だけで村の外には行かないようにと、注意を受けてしまった。
フラワーサークルは村の外だから、リリィと2人だけでお出かけは、残念だけど出来なそうだ。
その事に私は落ち込んだりもしたけれど、仕方がないし諦める事にした。
それはそうと、パパとママから魔族の話を聞いた翌々日。
村の毎年の恒例行事の一つ、健康診断の日を明日に控えた日となった。
そして、健康診断を明日に控えた私に、頭を悩まさられる出来事が起こってしまった。
それは、ママのお買い物のお手伝いをと、お使いに出かけた時の事だった。
◇
「ふんふんふ~ん♪」
前世の記憶が甦ってどうなるかと思ったけど、特に何かあるわけでもなかったし良かったな~。
たまに男っぽくなったりもするけど、特に問題ないし、心配して損しちゃった♪
以前と比べると、考え方も性格も変わっちゃったけど、やっぱり私は私。
ジャスミン=イベリスなんだ。
そんな事を考えながら、鼻歌まじりに上機嫌で歩いていた私は、道端で話をしていた3人のお姉さん達を見かけた。
ブーゲンビリアお姉さんと、そのお友達だ。
あまり話す機会がないから、ブーゲンビリアお姉さんしか名前を知らないんだよね。
ブーゲンビリアお姉さんは、髪をショートボブにしていて、髪が綺麗な白とピンクのツートンカラーで可愛い。
瞳の色はピンクで、目もパッチリしていて可愛い大人の女性だ。
あまり接点が無いお姉さんだけど、優しいイメージで、ちょっと憧れちゃう。
ちなみに他のお友達の2人は、モブっぽい顔立ちに容姿だから、余計にブーゲンビリアお姉さんが可愛く見える。
すれ違いざまに、私は元気に挨拶をする。
「おはよー!」
「あ、あらジャスミンちゃん。おはよう」
「おはよう」
「おはよう。今日も元気ね?」
「うん!」
満面の笑顔で答えて、大きく手を振ってバイバイをして別れる。
ブーゲンビリアお姉さんは、バイバイって小さく手を振ってくれて、嬉しくなった。
だけど、通り過ぎてから、小声で話すお姉さん達の話声が聞こえてしまった。
「最近あの子、調子のってるわよねえ?」
――え?
「本当よ。『魔性の幼女』の名は伊達じゃないわ。昨日なんか、たっくんに色目使ってたのよ!」
え?
「嘘っ!? 信じらんなーい! いつの間に会ってたのよ。鬱陶しいったらありゃしないわ」
ブーゲンビリアお姉さんまでもが、鬱陶しいと言い放った。
ええぇーっ!?
めちゃくちゃ嫌われてる!?
て言うか、色目って何?
たしかに、昨日たっくんと会ってお話したけど、色目なんて使ってないよ!?
だいたい、お姉さん達もそのたっくんも、20歳で私より11歳も年上じゃんか!
9歳の女の子な私に、嫉妬しないでよ!
それに『魔性の幼女』って何!?
私そんな風に言われてたの?
一気にテンションが下がる。
何だかなぁって感じだ。
前世でも、女同士はこういうのあるって知っていたけど、まさかこの世界でも同じ様な人種がいるとは思わなかった。
しかも、絶対わざと私に聞こえる様に喋っていた。
ブーゲンビリアお姉さんは、私の中では好印象な素敵なお姉さんだっただけにショックがでかい。
私は溜息をつき、とぼとぼと目的のお店へと歩いた。
そうして、目的地のお店、雑貨店へ到着する。
この雑貨店は、この村にある唯一のお店だ。
だから、この村の皆は日用品を買う時は、このお店に来る。
私のお使いのお目当ては剃刀。
ママったら、明日の健康診断に備えてムダ毛処理をしたいのに、剃刀が壊れちゃったって大慌てしてたんだもん。
ママがあまりにも騒ぐから、それが可笑しくって笑っちゃったら「ジャスミンにはまだ分からない事だけど大事な事なのよ!」って怒られちゃった。
店内を見て回っていると、ルピナスちゃんを発見した。
相変わらず狼の獣耳と尻尾が愛くるしく、尻尾をフリフリしながら目を輝かせて店内の商品を見ていて、思わず抱きしめたくなる可愛さだ。
私は、一先ず抱きしめたくなる衝動を抑えて、ルピナスちゃんに声をかける。
「ルピナスちゃん」
私が名前を呼ぶと、ルピナスちゃんは私に気がついて、天使のような笑顔で尻尾を振って駆け寄って来た。
相変わらずの、まん丸お目目でつぶらな瞳がとても可愛い。
尻尾もふりふりしてて、思わずキュンキュンしちゃう。
「ジャスミンお姉ちゃん!」
私は側まで来た可愛いルピナスちゃんを、我慢できずに頭を撫でる。
はぁ~。
癒される~。
ルピナスちゃんの可愛さは反則だよね。
私、女の子に生まれて来て良かったよ~。
前世でこんな事したら、完全にただの変質者でお縄だもん。
さっきまで、変なあだ名や陰口を言われてショックを受けていたけど、ルピナスちゃんのおかげで元気100倍だ。
「ルピナスちゃんもお買い物?」
「うん!」
私は、元気に返事をするルピナスちゃんが手に持っている物を、チラッと見た。
「ペンと紙? お絵描きするの?」
ルピナスちゃんが手に持っていたのは、可愛いお魚が描かれているペンと紙だった。
「違うよ。ママに文字を教えて貰うの!」
「へー。凄いねぇ」
実は、この村には学校というものが無い。
そもそも、この世界では学校自体がお金持ちしか行けないので、この世界の殆どの子供達は学校に行けない。
だから、この村で文字の読み書きが出来る人は限られているのだ。
ルピナスちゃんのママは、この村で文字の読み書きが出来る数少ない人の1人だったりする。
と、そんな事より、ニコニコ嬉しそうに喋るルピナスちゃんが可愛すぎてヤバい。
私はルピナスちゃんの可愛さを堪能しながら、目的の剃刀を購入した。
「またねー! ジャスミンお姉ちゃん!」
「うん。またねー」
2人で目的の物を買い終えると、私はルピナスちゃんをお家まで送り届けて帰宅した。
ルピナスちゃんのおかげで、凄く気分は晴れやかだ。
魔性の幼女とか言う変なあだ名や陰口については、もう深く考えないでおこうと、私は気にしない事にした。




