118 幼女の親友にも弱点はある
リリィが自爆して倒れると、トンちゃんとスミレちゃんがリリィに駆け寄って泣き叫ぶ。
私がそれを、おバカだなぁ。なんて思いながら、微笑んで見ていると、スミレちゃんが涙を拭いて立ち上がった。
「リリィ、仇は取るなのよ!」
仇も何も、思いっきり自爆だよ?
「でゅ、デュフフフ。拙者が転生者でなければ、今ので死んでいたでござる。なんと末恐ろしい美少女でござろうか」
いやいやいや。
いくらなんでも、そんなお馬鹿な事で死なないでしょ。
それにしても、自分が転生者って知ってるんだね。
なら、もしかすると私と同じで、記憶をとり戻してるのかな?
そうなっちゃうと、能力がまだ一つあるよね?
「しかし、それもこれまで、残すはそこのおっぱいがデカい女だけで……っ!?」
オークがスミレちゃんを見て硬直する。
そして、顔を青白くさせて、大量の汗を流し始めた。
「バティン氏!? な、何故ここにバティン氏が!?」
スミレちゃんって、何気に魔族の間では有名だよね。
「覚悟するなのよ!」
「ええい! バティン氏が相手と言えど、拙者も今や覚醒者でござる! バティン氏におくれは取らぬわ!」
オークが叫ぶと、クラーケンがそれに合わせて、オイルをスミレちゃんに向かって吐き出した。
スミレちゃんがオイルを華麗に避け続ける中、私は倒れているリリィに近づく。
そして、リリィの側でしゃがんで、肩を揺らす。
「リリィ、起きて? おバカな事をやってる場合じゃないでしょう?」
肩を揺らしても、呼びかけても、頬っぺたをペチペチしても、リリィはピクリとも動かない。
うーん。
どうしよう?
あ。そうだ。
私はリリィの耳元で囁く。
「これが終わったら、一緒にお風呂入ろうね」
「もちろんよ!」
私が囁くと、リリィが大声を上げて、元気に立ち上がった。
そして、リリィが立ち上がると、それを見たオークが驚愕し息を飲み込む。
「馬鹿な!? 美少女が復活したでござる!? なんてタフな美少女でござるか!」
「ジャスミンとお風呂に入る約束をした私に、もう敵はないわ! さあ、観念なさい! オーク!」
「幼女先輩とお風呂なの!? いつの間に、そんな話になってるなのよ!?」
「悪いわねスミレ」
「羨ましい! 羨ましいなのよ!」
リリィとスミレちゃんが睨み合う。
え?
ちょっとちょっと2人とも!
そっちじゃない!
敵はそっちじゃないよ!
「デュフフフ。仲間割れでござるか? 収穫が一つだけなのは至極残念でござるが、その隙にここいらで退散させてもらうでござる」
オークがそう言うと、オークを乗せたクラーケンが海へと逃げていく。
「2人とも何やってるの!? 逃げちゃうよ!」
私が叫ぶと、リリィとスミレちゃんはハッとなり、オークとクラーケンを見た。
そして、リリィがオークとクラーケンを追いかけたけど、そこで思わぬ事が起こってしまった。
「い、いやっ」
なんと、リリィが海水に足を入れた途端、後退ってしまったのだ。
リリィ?
私は急いでリリィに駆け寄り、リリィを見て驚いた。
何故なら、リリィが少し震えていたからだ。
「リリィ?」
「じゃ、ジャスミン。ごめんね。私、やっぱりダメみたい」
やっぱり……ダメ?
何がダメなの? と私は聞こうとしたのだけど、それより早くトンちゃんが口を開いた。
「ハニー、どうしたッスか? あ。もしかして、川の時のッスか?」
川の時の?
……あ。
そうだ。
私は思い出す。
あれは、私達がまだ3歳の頃だった。
両親に連れられて、川に遊びに行った時の事。
あの時、リリィは川で溺れてしまったのだ。
リリィはそれがきっかけで、泳げなく、カナヅチになってしまった。
私はそれを思い出して、リリィを後ろから抱きしめた。
「ごめんね、リリィ。怖い思いさせちゃったね」
どうして私、あの時の事を忘れていたんだろう?
リリィがあの時の事を、トラウマにしてしまったのに。
私がリリィをギュウッと抱きしめると、リリィが私の腕にそっと手で触れる。
「良いのよ。こんなの、どうって事ないわ」
「でも……」
「背中にあたるジャスミンの突起物の感触があれば、こんなのへっちゃらよ」
「う……ん?」
ちょっと待って?
ちょっと待ってリリィ?
何を言っているの?
って言うか、その突起物って言いまわし止めて?
それなら、まだストレートに言った方が、良いと思うの。
リリィの顔を覗き込んでよく見ると、鼻血を垂れ流して、もの凄く幸せそうな顔をしていた。
心配して損しちゃったよ。
リリィは相変わらずだなぁ。
私はリリィから体を離して、再び胸を腕で隠す。
そして、皆に一言着替えて来る事を言って、更衣室へと向かった。




