116 幼女は海で水着を着たい
ライリーさんの案内で、魔族がよく出る海水浴場に向かう途中、私は心の引っかかりをすっかり忘れてしまっていた。
何故なら、リリィとスミレちゃんの行動が気になってしまったからだ。
そして、私は海水浴場に到着すると、気になっていた事を確認する事にした。
「ねえ? なんでリリィもスミレちゃんも水着を着ているの?」
そう。
リリィとスミレちゃんは、ライリーさんの家で水着に着替えて、そのまま出て来たのだ。
スミレちゃんは若干羞恥心があったからなのか、上からパーカーを着てはいたけれど。
と言うか、いつの間に水着なんて用意していたんだろう?
「せっかく海に来たんだもの。着なきゃ損でしょう?」
う、うーん。
でも、たしかに前世の私なら、大興奮のイベントだよね。
リリィみたいな美少女の、水着姿が見られるんだもん。
リリィのビキニ姿、とっても可愛くて、凄く眼福だよ。
「幼女先輩。心配しなくても、幼女先輩の水着もありますなのです」
そう言って、スミレちゃんが可愛い白のワンピースの水着を、何処からともなく取り出した。
私はそれをじぃっと見つめて、ちょっと着てみたい気持ちを抑えて、首を横に振る。
「くそう。やっぱりおっぱい女のおっぱいは段違いッスね。ボクとしてはハニーのおっぱいに飛び込みたい所ッスけど、あの夢の詰まった谷間を見ると、どうしても挟まれたい衝動にかられてしまうッス」
何言ってるのトンちゃん?
いきなり私の耳元で、真顔でおバカな事を言いだすのやめて?
「トンペットは相変わらず頭おかしいです」
その意見には概ね同意だけど……うーん。
ラテちゃんって、トンちゃんには凄く辛辣だよね。
私がラテちゃんの一言に苦笑していると、リリィが私に微笑みかける。
「ねえ、ジャスミン」
「なあに?」
「よく考えてみて? 別に、パンツを脱がずに水着を着たって、構わないじゃない」
たしかに。
と、私は思った。
何故なら、スミレちゃんが用意してくれたのは、ビキニのような物ではなくワンピース型の水着だからだ。
水着のワンピースであれば、下にパンツを穿いていても、上手に穿いていればわからない。
水着が白色なので、透けないかちょっと心配ではあったけど、私の穿いているパンツも白なので多分大丈夫だ。
それに、お店でする水着の試着も、下着を付けたままが普通だしおかしくもない。
今回はリリィとスミレちゃんに任せる事になっているし、海の中に入る事も無いので、濡れる心配もない。
そして、魔族の能力を考えれば、かなり効果的と言えるはずなのだ。
そんなわけで、私はスミレちゃんから水着を受け取る事にした。
「ありがとー、スミレちゃん。着て来るね」
私はそう言うと、受け取った水着を持って、海水浴場に設置されていた更衣室へと走る。
更衣室でパンツを穿いたまま水着に着替えて、はみパンしてないか確認する。
「よし。大……丈夫だよね?」
「心配しなくても、パンツなんてはみ出してないッスよ。ご主人」
「ぴゃぅっ」
私は突然トンちゃんにペチンと叩かれて、驚いて変な声を上げてしまった。
「何変な声出してるッスか?」
「だ、だって、トンちゃんがいるなんて、知らなかったんだもん」
「やれやれッス」
ほ、本当にびっくししたよ。
心臓が飛び出るかと思ったもん。
「トンペットはウザい癖に音を立てずに飛ぶから、仕方がないです」
ウザい癖にって、こらこら。
トンちゃん怒りそうだなぁ。
私はトンちゃんの顔を覗き込む。
だけど気にした様子もなく、それどころか「ラテは相変わらず口が悪いッスね~」なんて呑気に喋っている。
良かったぁ。
私の気にしすぎみたい。
私は安心すると、更衣室を出てリリィ達の許へと戻る。
すると、リリィとスミレちゃんが目を輝かせて、とても良い笑顔で私を迎えてくれた。
「ジャスミン。よく似合ってるわよ」
「幼女先輩。凄く可愛いなのですよ」
「2人ともありがとー」
私が2人に褒められてテレていると、ライリーさんが海を見て、大口を開けて驚いた表情を見せた。
それに気がついた私は、何だろうと気になって、ライリーさんの見ている方へと首をまわす。
「ひぇ」
そして、私は驚きのあまり変な声を出してしまった。
ライリーさんが見たのは海ではなく、魔族だったのだ。
「俺は初めて魔族を見たんだが、まさかこれ程デカいとは思わなかった」
その魔族は、ライリーさんが言う通り大きい魔族。
4階建てのアパートと同じくらいの、巨大なイカだった。
「クラーケンなのよ!」
「クラーケン? スミレ。知っているの?」
「巨大なイカの魔族なのよ。能力はイカ墨の変わりに、オイルを吐き出す能力なのよ!」
「はっはーん。それで、ヌルヌルにされるッスか~」
あれ?
その時、私は瞬間、目を疑った。
よく見ると、巨大なイカ、クラーケンの上に魔族がいたのだ。
しかも、その魔族の姿が、あのオークだったのだ。
私が驚いていると、クラーケンに乗るオークが私に目を合わした。
「デュフフ。かなりの大物が揃ってるでござる。クラーケン氏の好みのタイプの子もいるでござるな」
あれ?
喋り方が違う?
あ。
それによく見たら、このオーク、あのオークと違って髪が生えてる。
もしかして、オークはオークでも、別のオーク?
私は確かめる為に、オークをじぃっと見つめる。
「デュフフ。拙者を見つめている!? これは、恋の予感でござる!」
ひぃ。
やっぱり別のオークだ。
あのオークとは、別の気持ち悪さが出てるんだもん!
じゃ、じゃあ、もしかして!?
ライリーさんが言っていた魔族の能力って!
私がそう思った時だった。
「クラーケン氏。今ですぞ!」
オークが叫んだその瞬間、クラーケンがオイルを吐き出して、私は避ける間もなくオイルまみれにされてしまった。
うぅ。
何これやだぁ。
凄いヌルヌルするよぅ。
「な、なんて、なんて恐ろしい能力を使うの! こんなの、勝てるわけがないじゃない!」
「これは、大変な事になってしまったなのよ! 予想を遥かに上回る能力なのよ!」
うそ!?
リリィとスミレちゃんまで!?
私はリリィとスミレちゃんに振り向く。
そして、私は2人の姿を見て、がっかりと項垂れる。
あのぅ。
なんで2人して、私をガン見してるの?
敵はあっちだよ?
ほら。
リリィ、いつもみたいに鼻血が出ちゃってるよ?
スミレちゃん、目が怖いよ?
本当に2人ともしっかりしてよ。
鼻息荒くなってる場合じゃないよ!




