113 幼女は古傷を抉られる
アマンダさんが実は王女様だったと知った私は、混乱してから落ち着くと、頭を抱えて考える。
どうしよう。
お友達だとか、身分をわきまえていない、すっごい失礼な発言だったよね?
しかも、一番問題なのは、王女様って知らずに馴れ馴れしく話しかけてた事だよ。
いくら他所の国の王女様だからって、世間知らずにも程があるよ私!
本当に私のおバカ!
と、私が自分のダメさに頭を悩ませていると、女の子がスミレちゃんの顔を見る。
そして、顔を真っ青にさせて、その場で尻餅をついた。
「ま、魔族!? やっぱり、お前が――」
女の子が何かを言いかけたその時、突然背後から怒鳴りつけるような声が聞こえてきた。
「アンタ等、うちの娘に何してんだ!?」
その声に振り向いて、怒鳴った人物を見て私は驚いた。
何故なら、その人物は、さっき私達を追い払った船主さんだったからだ。
船主さんは私達の顔を見ると、私と同じように驚いて顔をしかめた。
「お嬢ちゃん達はさっきの……」
「お、お父ちゃん!」
私と船主さんが目を合わせて驚くと、女の子が船主さんの所まで走りだす。
そして、目に涙を溜めて船主さんに抱き付いて、私を見て睨んできた。
「随分と酷い事をしてくれるじゃねえか? そんなに追い出されたのが、気にくわなかったのか?」
「そ、そんなんじゃないよ。その子がずぶ濡れで、ここで座り込んでいたから、どうしたのかと思って」
そう言って、私は女の子が実際にいた場所を指でさす。
「マノン、本当か?」
船主さんが女の子をじっと見る。
すると、女の子は気まずそうな顔をして、船主さんから目を逸らした。
船主さんは女の子の反応を見ると、大きくため息を吐きだして、私達に振り返る。
「すまなかったな、お嬢ちゃん達。俺の勘違いみたいだ」
船主さんが謝罪すると、スミレちゃんが調子に乗って身を乗り出す。
「すまなかったで済んだら、警察はいらないなのよ」
「そうッスよ。おたく、そんなやっすい言葉で、済ませられると思ってるッスか?」
なにこの質の悪い、当たり屋みたいな2人。
と言うか、この世界に警察はいないよ? スミレちゃん。
私は呆れながらも、2人をトントンと叩く。
「もう。スミレちゃんもトンちゃんも、そう言うのよくないと思うよ」
私がそう言った時だった。
突然、船主さんが目を見開いて、スミレちゃんと私を交互に見ながら驚いた。
そして、船主さんが恐る恐るといった感じに口を開く。
「お、お嬢ちゃん。この魔族は、お嬢ちゃんの何なんだ?」
「え? お友だ――」
「私は、幼女先輩の奴隷にしてペットなのよ!」
あの、スミレちゃん?
人前で、そういう恥ずかしい事をドヤ顔で言わないで?
それに、スミレちゃんを奴隷にしたつもりも、ペットにしたつもりもないよ?
「魔族を従えた少女!? まさか、まさかお嬢ちゃんが!?」
「えぇっと……?」
私が船主さんの反応に困惑していると、船主さんが鬼気迫る顔で迫って来た。
「よく見ると、それは王家の紋章の首飾りじゃねえか!」
「あ。はい」
って、近い近い。
もの凄く顔が近いよ!
近すぎて、何だか怖い!
私が若干怯えると、船主さんの背後に、拳を振り上げたリリィの姿が。
「あ。リリィ、待って。大丈夫だから」
私がそう言うと、リリィは振り上げた拳を治める。
「なあ? お嬢ちゃんはもしかして、鳥人達が暮らす集落で、魔族に悩まされた人々を救った事があるか?」
「そ、そんな大袈裟な事はしてないけど」
リリィの暴走に、つき合わされてただけだし。
「チョコ林で突然現れたゴブリンの群れから、その時いた人間全員を、身を犠牲にして護り通した事はあるか?」
「え、えぇっと、たしかにある意味では、身を犠牲にしてなくもないような?」
スミレちゃんの書いた薄い本に出てくる女の子の、モデルになっただけだけど。
私が船主さんの質問に全て答えると、船主さんは突然歓声を上げる。
「間違いない! 喜べマノン! この方がいれば、この町も救われるぞ!」
ど、どういう事?
女の子も私と同じように、意味がわからないようで、船主さんを訝しんで見た。
「お父ちゃん? この子が何だって言うの?」
女の子が訊ねると、船主さんは嬉々として、私を手差しして大声を上げた。
「この方は魔族を従えて、魔族から人々を救う救世主、その名も『魔性の幼女』さんだ!」
な、なんでそのあだ名を!?
久々に言われたよ!
と言うか、せっかく忘れてたのに、ぶり返らさないでよぉ!
私その呼ばれ方嫌なのに!
って、あれ?
聞き間違いかな?
その名もって言わなかった?
「その名も魔性の幼女。ぷぷぷ。その名も魔性の幼女。ぷぷぷー」
トンちゃんが船主さんの言葉に笑いを堪える中、私はがっくりと項垂れる。
私の名前はジャスミンだよぉ。




