111 幼女の冒険は不穏な空気に包まれる
リリィ、そしてスミレちゃんと3人で村を出た私は、南に進んで、オカリナという名前の港町に辿り着いた。
皆さんご存知の、あの楽器のオカリナではない。
港町オカリナは、船を作ったり修理したりする為の造船所が、楽器のオカリナのような形をしている港町なのだ。
楽器のオカリナで言う、口を当てる場所から煙が吹いていて、指で押さえる場所が船の出入りをする所だ。
そして船が出入りすると、その度に楽器のオカリナのような音が鳴る。
この港町は、そんな不思議で特徴的な港町なのだ。
どうしてこの港町に来ているかと言うと、もちろんベルゼビュートさん達が向かったエルフの里に行く為なのだけど、他にも理由があった。
エルフの里は、村から真っ直ぐ西に向かった場所にあると言われている。
それなのに、何故南に位置するこの港町に来たのか?
答えは簡単。
山を三つも破壊してしまった私が、怖くてその場所を通るのを恐れたからだ。
だって、かなり大事件になってると思うの。
もしかしたら、犯人ってばれて、国の偉い人から指名手配されちゃうかもしれないんだもん!
と、ビビりまくった私が、もの凄く嫌がったのだ。
リリィとスミレちゃんからは、気にしなくて良いと言ってもらえたのだけど、それでも私の罪悪感は拭えなかった。
そんなわけで、遠回りになるけれど南に進んで、港町から山を越えた先の向かう事になったのだ。
そんなわけで、やって来ました港町オカリナ。
この港町オカリナは、魚人が治める海底国家バセットホルンの領内で、数少ない陸に作られた町の一つだ。
この港町から見える海の景色は、珊瑚が綺麗でとても美しく、眺めているだけで時間を忘れてしまいそうになる。
「わぁ。綺麗」
私は思わず、感嘆と声を上げる。
目の前に広がる綺麗な海、そして真っ白な砂浜が、私を駆け出したくなる衝動を奮い立たせてくれる。
私は必死に衝動を抑えて、横に立つリリィに話しかける。
「リリィ、早速だけど、船を――って、いない!?」
「ジャス、リリィならトンペットとスミレと一緒に、海に向かって走って行ったです」
「え!?」
私は頭上で座るラテちゃんの言葉を聞いて、驚いて3人の姿を捜す。
「いた」
姿を見つけると、3人とも見事に大はしゃぎして騒いでる姿が見えた。
仕方がないなぁ。
でも、リリィまで海を見てはしゃぐなんて、思わなかったなぁ。
私はそんな事を思いながら、3人に近づいて行く。
「ジャスミン、見て見て? 海ってこんなにも広いのね。私、初めて見たわ」
ああ。そっか。
海に来る事なんて、今まで無かったもんね。
それで、リリィが珍しく、こんなにもはしゃいでいたんだね。
なんか可愛いかも。
私がリリィを見てクスクスと笑っていると、スミレちゃんが急にテンションを落として、ぶつぶつと呟いた。
「幼女が、幼女が一人もいないなのよ。嗅覚が治らないから、せめて目の保養を期待してたのになのよ」
うわぁ。
スミレちゃんガチ泣きしてるよ。
スミレちゃんの嗅覚は、サルガタナスに封じられて以来、全く戻っていなかった。
サルガタナスが使った怪しい煙の効果は、今も持続しているのだ。
嗅覚が奪われてから、元気がない事が多くなったもんなぁ。
目的はともかくとして、少し可哀想かも。
「波打ち際で遊ぶ幼女の濡れたパンツを、透視したかったなのよ!」
うわぁ。
ろくでもない事を考えてたよ。
全然可哀想なんかじゃなかったね。
と言うか、変態すぎて気持ち悪いよスミレちゃん。
「大丈夫よスミレ。ジャスミンがいるじゃない」
うん? リリィ?
なんでスミレちゃんの手を握って、意味ありげな事を言って私を見るの?
「そうなのよ! 私には、幼女先輩がいるなのよ!」
リリィとスミレちゃんが私の下半身に注目する。
「ちょっと2人とも! その目でこっち見ないでよ!?」
「大丈夫よジャスミン。安心して、存分に濡れて来ていいのよ?」
「そうなのですよ幼女先輩! 早く海に入って来るなのですよ!」
「何を言ってるの2人とも! 行かないよ! 私、海の中になんて入らないからね!」
「「ええー」」
「ええーじゃないよ!」
リリィとスミレちゃんが、2人してもの凄くがっかりした表情を見せる。
そんな顔したって、ダメなんだからね!
と、私達が騒いでいると、トンちゃんが私の頬っぺをツンツンと突いた。
「ご主人。幼女どころか、人っ子一人いないッスよ」
「え?」
私は驚いて周囲を見まわして、人が誰もいない事に気がついた。
「本当だ……」
なんでだろう? と、考えていると、リリィが首を傾げた。
「私にはよくわからないのだけど、たまたまいないだけじゃないかしら?」
「ここオカリナの砂浜は、とても綺麗と有名な観光名所なの。だから、人が全くいないなんて、ありえないなのよ。朝から夜まで、毎日観光客でごった返しで有名な場所なのよ」
スミレちゃんが力なく答えて、大きくため息を吐き出した。
「ボクも一度ここに来た事あるッスけど、その時は人が蟻の様に鬱陶しい位にいたッスよ」
トンちゃん。
その例えやめて?
「そうなのね。それなら、何で今は誰もいないのかしら?」
「時期じゃないとか?」
リリィの質問に私が質問を重ねると、スミレちゃんが目を虚ろにして答えてくれた。
「ここは日本と違って、四季があるわけじゃないので、そう言うシーズン的なものは関係ないなのですよ」
「あ。そうなんだ」
じゃあ、なんで誰もいないんだろう?
リリィが言う通り、たまたまなのかな?
うーん。
なんだか不穏だなぁ。
いやな予感がするよ……。
などと、私が不穏な空気を感じている横で、リリィがスミレちゃんの言葉に首を傾げる。
「二ホン? シキ? 聞いた事ないわね」
まあ、リリィは知らなくて当然だもんね。
と言うかだよ。
スミレちゃん、いつまで落ち込んでるの?
がっかりしすぎだよ。
気持ちはわからなくはないけどね。
私も前世では、女の子の水着姿を見る為だけに、海に行くくらいだもん。
などと考えていると、ラテちゃんが私の頭をトントンと軽く叩いた。
「そんな事より、早く乗る船を探すです」
「う、うん。そうだね」
そう返事を返すと、私は目的地行きの船を探しに、リリィとスミレちゃんに声をかけて歩き出した。




