011 幼女に近づく変態に天罰を
私が、自分のパンツをオークに被られて半泣きになっていると、リリィがわなわなと震えだした。
「許せないわ!」
「えっ!? リリィ!?」
リリィが物凄い形相をして、茂みを飛び出してオークの前に出てしまった。
あわわわわ。
いくらなんでも、無謀すぎるよ!
オークとは戦わないって話だったのに、リリィが頭に血が上って冷静じゃなくなってる!
相手は、私のパンツを被る様な変態なんだよ!?
リリィも変態だけど、見た目が凄く可愛くて素敵な女の子なんだよ!?
このままじゃ、リリィが薄い本が厚くなる様な展開になっちゃう!
児ポルの神様助けて!
ごくり。
あっ。
こらっ。
何を期待しているのよ私!
こういう時ばっか出て来るな前世のおっさんだった私!
危ない危ない。
と、私は大きく首を横に振る。
前世でオタクだった私は、オークが……って、そんな事今はどうでも良い。
この場を切り抜ける方法を、必死に考えるけど思いつかずに悩んでいると、リリィとオークの様子がおかしい事に気が付いた。
「白状しなさい!? どうやって、ジャスミンのパンツを脱がせたの!?」
「ぐへへへへ。オラ達オークには、魔族にしか使えない特殊な能力があるのだ」
オークが、高らかに両手を天に向けて広げて叫ぶ。
「オークの特殊能力。それは、両足の裏が地についていない相手のパンツを脱がす事が出来る、パンツ早脱がせの能力だ!」
「何ですって!?」
くっ、くだらない!
なんてくだらない能力なのそれ!?
え?
魔族って、昔人を殺したりとか、なんかヤバい系の種族じゃないの!?
パンツ早脱がせって馬鹿なんじゃないの!?
たしかにヤバいけど、違う意味のヤバさだよ!
「くっ。何て恐ろしい能力なの!?」
「ぐへへへへ。わかったかい? お嬢ちゃん。君もその犠牲になるんだよ?」
何これ?
え?
本当に何これ?
全然怖くない。
って言うか、なんかもう凄くどうでも良くなってきたよ?
何でリリィは、あんなに追い詰められた顔してるの?
オークの能力、すっごく馬鹿だよ?
「じゃあ、今までパンツを盗まれた子達のパンツは……」
「勿論、オラがこの能力で脱ぎたてを頂いたのさ!」
「何て事を!」
「ぐへへへへ。さあ、パンツを頂こうか!?」
どうしよう?
何か馬鹿らしくて、出て行く気も起きなくなっちゃったよ。
だって、あのオーク超馬鹿なんだもん。
ぐへへじゃないよ。
あれもう、ただの気持ち悪い変態だよ。
リリィには悪いけど、別にパンツ盗まれるだけなら放っておいても……。
そこで、私はふと思い出す。
リリィ、今パンツ穿いてないじゃんか。
その時、オークが動いた。
その巨体からは想像できない程のスピードで、リリィに近づき襲う。
そして……。
「――何っ!?」
オークは驚愕し、リリィとの距離をとった。
「パンツを穿いていない……だと?」
驚愕しているオークに、リリィが冷ややかな目線を向けて笑う。
「うふふ。残念だったわね」
「ちくしょーっ!」
オークは悔しさのあまり地面を両手で叩き、地面が割れる。
ええーっ!?
地面割れちゃったよ!?
「貴方がパンツを何らかの方法で脱がせているのは、最初から知っていたのよ。それなのに、穿いているわけないでしょ?」
「くそっ! 最初から知ってて、わざとオラにパンツを脱がされると、恐怖している演技をしていたのか!?」
「うふふ。そういう事よ。さて、どうしてくれようかしら?」
いやいや。
待って待って?
どうしてくれようかしら? じゃないよリリィ。
地面割れたんだよ?
そんな事言ってる場合じゃないよ?
馬鹿だとか変態だとか言って、調子のって馬鹿にしてた私でも、さすがにヤバいってわかるよ?
今ので私だったら、パンツ脱げって言われたら、絶対脱いで渡して逃げるもん。
オークめちゃくちゃ怖い。
私が顔面蒼白になって固まる中、リリィは増長していく。
「私のジャスミンのパンツを、頭に被った罪は重いわよ?許されない事だわ。魔法で痛めつけてあげるから、覚悟する事ね」
「何? 今オラが被ってるパンツは、お嬢ちゃんの大切な物なのか?」
「そうよ! それを、よくも!」
リリィの言葉を聞いたオークが立ち上がり、豪快に笑いだす。
「ぐへへへへ! ならこうしてやる!」
オークは被っていた私のパンツを外し、両手で破り捨てた。
「きゃーっ!」
それを見たリリィは、ショックのあまりその場で倒れた。
「ぐへへへへ。お嬢ちゃん。形勢逆転だな?」
「何て事を……」
何だろう?
何だろうこれ?
あまりにも馬鹿すぎて、もう何からつっこめば良いのかわからないよ。
て言うか、私リリィの言葉でわかっちゃった。
そして、私は茂みの中を出て2人の前に姿を現す。
「お、お嬢ちゃんはさっきの」
「ジャスミン! 来ちゃ駄目よ! ジャスミンはパンツを穿いてるんだもの!」
「何? ぐへへへへ。お嬢ちゃん丁度良かった。またお嬢ちゃんのパンツを頂こう!」
オークが舌なめずりをして、私に近づいて来た。
私はそれを冷静に捉えて、リリィのおかげで気が付いた事を実行に移す。
「生命の源にして、大地を潤す母なる滴よ。混沌より出でりし神をも恐れぬ邪悪なる意思に天罰を与える為、我が魔力を糧とし彼の者を包み込め――」
オークの足元に魔法陣が浮かび上がる。
「なっ、何だこれは!?」
「――水縛牢屋!」
「っ!?」
私が呪文を言い放つと、魔法陣から大量の水が噴き出して、オークの全身を覆った。
そして、オークは水の中から出ようともがき続けるが、水はオークを中心にまとわりついて離れない。
「ジャスミン凄い……」
リリィは私の放った魔法に驚き、私を信じられないといった目でマジマジと見た。
何でそんな目で私を見たのか、それは私でもわかる。
だって、前世の記憶が甦る前までの私は、魔法に苦手意識があって全く使わなかったからだ。
実際、私自身も魔法が使えるようになるなんて思ってなかったし、リリィが驚くのも無理もない。
「えっと……私ね、前世の記憶が甦ったって言ったでしょ? それで魔法が使えるようになったの」
「そうだったの。でも、聞いた事も無い魔法を使うのね。それは前世で使っていた魔法なの?」
「うっ。これは……」
ごめんなさい。
厨二っぽい事がしたいおっさんの、ただの戯言です。
だって、魔法使えるってかっこいいでしょ!?
本当は魔法で水出しただけだけど、呪文とか魔法名とかあった方がかっこいいかなって思って、私が考えたの!
だからそこは、つっこまないでリリィ!
と、そんな事を心の中で叫んでいると、オークの動きがついに鈍くなってきた。
「ごぼっ……」
あっ。
白目向いてる。
仕方ないなぁ。
流石にパンツ盗んだだけで、これ以上は可哀想だし、この辺にしてあげよう。
私は水に手を当てて、魔法を解除してあげた。
魔法から解除された水は、地面に落ちて地面に吸収されていく。
オークはゲホゲホと咽ながら、土下座の様な姿勢をしていた。
うーん。
ちょっとやりすぎたかな?
「ジャスミン。良いの?」
「うん」
私は未だに咽ているオークに近寄り、しゃがみこんだ。
「やりすぎちゃってごめんね」
「何でオラを助けた? オラは魔族だぞ。お嬢ちゃん達人間の敵だ。殺さなくていいのか?」
顔を上げて、私と目が合ったオークが問う。
私は、その問いに苦笑して答える。
「パンツを盗んだだけでしょ? たしかに悪い事だけど、そんなの殺す理由になんてならないもん」
魔族だから殺さないとだとか、そう言うのはよくわからない。
それに、このオークが誰かを殺したわけでもないし、やった悪い事って言ったらパンツを盗んでいた事くらい。
それなら、何も殺す事は無いと思う。
過去に魔族と色々あったのかもしれないけど、それはあくまで昔の事。
昔は昔。今は今だもんね。
そもそも、そう言う重い話が私は好きじゃない。
もっと気楽に考えればいいと思うもん。
「あ。でも、ちゃんと反省しないとダメだよ?」
今度は笑顔をオークに向ける。
ちょっと汚いやり方だけど、前世おっさんだった私は知っている。
女の子の笑顔には、みーんな逆らえないのだ。




