107 幼女も納得のチートな友人
襲いくるリリィの両手。
どうすれば、このピンチを切り抜けられるのかと、私はスカートを死守しながら考えた。
そして、私は一筋の光明を見い出した。
そうだ!
これなら!
私は、すかさず魔法を使う。
私を中心となるようにして、スカートにかかる重力の付加を、魔法で何万倍、何十万倍以上にも高めて、スカートを鉄壁に変えたのだ。
重さにすれば、1トンは軽く超えるそのスカートは、最早常人なら破る事は出来ない。
「くっ。やるわねジャスミン。流石私のジャスミンね」
「リリィのものになった覚えはないけど、リリィこそ流石だよ。この重力に、よくついてこられ……って、嘘でしょう!?」
本来は常人であれば、間違いなく捲る事が出来なくなったスカートを、驚く事に捲り上げかけている。
「でも、これ位じゃ、私を止められないわよ。私はあの時、銭湯で痛感したのよ。今のままじゃ、ジャスミンを護れないんだって」
何を言ってるの? リリィ。
9歳の女の子としては、結構十分に凄くおかしかったよ?
それにね、気付いてる?
むしろ、今は護るどころか、間違いなく襲っちゃってるよ?
「だから、私はあれから特訓を重ねてきたのよ!」
前も思った事なんだけど、絶対おかしいよね?
だって、あれから暫らく経ったって言っても、まだ数日なんだよ?
こういうのって、年単位。
早くても月単位で修業して、強くなりましたーって感じだと思うの。
あれから数日、と言うか、実際は一週間位しか経ってないんだよ?
「そして、今がその特訓の成果を見せる時だわ!」
今じゃないのは確実だよ!
って、え?
嘘でしょう!?
スカートが捲り上げられちゃう!?
「リリィ待って? 待ってってばっ!」
魔法だけだと、最早どうにもならないと悟った私は、再びスカートを押さえる。
「うふふ。ジャスミン。観念して、スカートを脱ぎ捨てるのよ!」
「やだよ! きゃあ! 待って!? 本当にダメだってば!」
恐るべきリリィの強さに、私が慌てふためいて涙目になり始めていると、今まで様子見をしていたベルゼビュートが動き出した。
ベルゼビュートがため息を一つ吐きだし、一瞬でスミレちゃんに近づいた。
そして、スミレちゃんの目の前に立つと、もの凄く怖い顔でスミレちゃんを睨みつける。
「ベルゼビュートくん!」
アスモデちゃんが涙目になりながらも、ベルゼビュートを見て、安堵の表情を見せる。
「バティン、貴様は記憶が甦るまでは、今よりまともな奴だったが……いや。今となっては、そんな事はどうでも良いか」
「げっ。ベルゼビュート様!」
ベルゼビュートが静かに告げる。
「我等魔族を裏切るという事が、どういう事か貴様も知っている筈だ。弁解は聞かんぞ」
ベルゼビュートがスミレちゃんのお腹を殴り、スミレちゃんはその場で倒れてしまった。
スミレちゃん!
やばいよ!
こんなお馬鹿な事してる場合じゃない!
私はそれを目のあたりにして焦るが、リリィは周りの様子が見えていないので、未だに私のスカートを狙っている。
「ちょっと、ねえ? リリィ。今はこんな事やってる場合じゃ」
ベルゼビュートが私達の方を向いて、手を前にかざした。
「一瞬で終わらせてやろう」
「あは。殺っちゃえ。ベルゼビュートくん」
や、やばいよ!
絶対アレ、やばいやつだよ!
ベルゼビュートがかざした手から、魔法陣が発生する。
そしてその魔法陣からは、私でもわかるくらいの強力な魔力が、もの凄い勢いで収束されていく。
「本当にやばいんだってば! リリィ!」
「ジャスミン?」
良かった。
気がついてくれた。
やっと、やっとお話が出来る状態になってくれたよ。
「どうしたの? 自分で脱ぐ気になったの?」
「違うよ! 何言ってるの!? って、今はそれどころじゃ」
私はそう言って、ベルゼビュートを見た。
ベルゼビュートが発生させた魔法陣が、怪しい緑色の光を放っていて、今にも魔法が飛び出しそうな勢いだった。
そんな時、私の頭上から、もぞもぞと動く気配を感じた。
「ふぁあ~。煩いです。ラテの睡眠を、邪魔しないでほしいです」
「ラテちゃん!?」
ラテちゃんは相変わらず眠そうにして、寝転がったまま周りをキョロキョロと見まわした。
「なるほど、だいたいは理解出来たです」
ラテちゃんが、ため息まじりにトンちゃんを見る。
「トンペットはお目目ぐるぐるで、情けないです」
そう言って失笑すると、ラテちゃんが私の頭上で立ち上がる。
「とりあえず、あの魔族を無力化するです。ジャス、大地の加護の力を見せつけてやるです」
「うん!」
私は強く返事をするが、既に遅かった。
私が返事をしたその瞬間、ベルゼビュートが私達に向けて、魔法を放ってしまったのだ。
ベルゼビュートが放った魔法は、雷を帯びた暴風の塊。
周囲を巻き込み突き進むその魔法は、以前私がフルーレティさんに使った魔法を遥かに凌ぐ威力。
そしてそれは地面を抉りながら突き進み、あらゆる物を巻き込みながら、もの凄い速度で私達を飲み込もうとしていた。
このままじゃ!
諦めかけたその時、私の目を疑うような出来事が起きてしまった。
「今良い所なんだから、邪魔しないでくれるかしら?」
そう言って、リリィが魔法を素手で殴って、打ち消した。
周囲にあったあらゆる物を巻き込み、地面を抉り私達をのみこもうとしたベルゼビュートの魔法を、いともたやすく殴って消したのだ。
残ったのは、ほんの少しのそよ風だけ。
心地の良い風が、私の頬を優しく撫でる。
え?
ええぇーっ!?
嘘でしょう!?
だって、だってほら?
地面が今の魔法で、抉られてたんだよ?
それを素手で!?
邪魔しないでくれるかしら? じゃないよ!
ほら見てよ?
ベルゼビュートさんもアスモデちゃんも驚きすぎて、固まっちゃってるよ?
凄すぎだよ!
その時、私は一つの答えに辿り着く。
そうだ。
私、わかったかも!
もう、これまでの事、そして今ので間違いないよ。
私の大親友、リリィは、存在がチートなんだ。
うんうん。
天才と変態は紙一重って言うし、きっと、チートと変態も紙一重なんだ!
そうして、それに気付いてしまった私は、うんうんと力強く頷いた。




