表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
105/288

105 幼女は言葉より気持ちを大事にします

 アスモデちゃんが妖美に微笑みながら、何処からともなく小さな檻を取り出した。

 その檻は、ペット用のキャリーバッグサイズの物だ。


「あは。この子が何だかわかる?」


 私は取り出された檻の中に入っていた、その子を見て驚いた。


「シロちゃん!?」


「あは。せいか~い。この子は、あの家で飼われていた犬のシロちゃんよ」


 そんな!

 シロちゃんが捕まっていたなんて!


 焦る私の反応を見て、アスモデちゃんは満足したように、妖美に微笑んだ。


「シロちゃんを人質にとるなんて、卑怯だよ!」


「卑怯で結構よ。だって、私は魔族なんだもの」


 私とアスモデちゃんが睨み合う中、シロちゃんが口を開いた。


「そこにいるのは、吾輩好みの可愛いお嬢ちゃんじゃないか。いやぁ、参った参った。このエロ可愛いお嬢ちゃんの柔肌を、ペロペロと味見しようとしたら、捕まってしまってな~」


 ……うん?


 私は耳を疑い、シロちゃんを見つめる。

 相変わらずの可愛い豆柴のシロちゃんは、キュートなお目目で私を見つめていて、少し困り顔をしていた。


 き、気のせいだよね?

 うんうん。

 気のせい気のせ――


「後もう少しで、このエロ可愛いお嬢ちゃんの、美味しそうな太ももをペロペロ出来たんだけどよ~。本当に困っちゃうわな~」


 ええぇーっ!?

 嘘でしょ!?

 あの可愛いシロちゃんが!

 あの可愛いシロちゃんがーっ!


 私はショックで頭を抱えて考える。


 落ち着け!

 落ち着くんだ私!

 そうだ!

 動物さんの言葉がわかる魔法のオンオフを、選んですればいいんだよ!


 そして私は、シロちゃんの言葉を理解できないように意識する。


「ワンワン。ワン。ワオーン」


 やったー!

 成功したよ!

 うんうん。

 なんでもかんでも、言葉が通じればいいって事ないもんね。

 大事なのは気持ち。

 そう。

 大事なのは気持ちなんだよ。


「ジャスミン。あの馬鹿犬は、放っておいても、問題ないと思うのだけど?」


「うん。そ――ダメだよ。ちゃんと助けてあげないと、可哀想だよ」


 私はリリィの意見に同意しかけるも、頑張って否定する。

 そこで、私は一つ気がついた。


「あれ? リリィ、もしかして、シロちゃんの言葉がわかるの?」


 私がそう訊ねると、リリィはハッとなって、シロちゃんを横目でチラリと見る。

 そして、私に目を合わせて、苦笑した。


「そのようね。猫にされた後に、それを自分で克服したからかしら?」


 リリィ。

 本当にもう、なんでもありになっていってるよね。

 凄すぎない? 


「ちょっとアナタ達、ごちゃごちゃと身内だけで喋らないでほしいんだけど?」


 私達のお話を聞いていたアスモデちゃんが、若干怒り気味になる。


「そんな余裕ぶっていられるのも、今の内よ」


 アスモデちゃんが何処からともなく、今度は香ばしくて良い匂いのする串焼きを取り出した。


「串焼き?」


 リリィが訊ねると、アスモデちゃんが妖美な笑みを浮かべる。


「この子はね、飼い主が餌をやり忘れているせいで、今朝から何も食べていないの」


 アスモデちゃんはそう言うと、シロちゃんに串焼きを見せつける。

 シロちゃんは串焼きを見て、大量のよだれを垂らして飛びつくけど、檻の中なので届かない。


「シロちゃん可哀想」


 ルピナスちゃんが、シロちゃんを悲しげに見つめる。


 うん。

 本当に可哀想だよ。

 アスモデちゃんって、何気にエグイ事するね。

 と言うか、ラークも本当に最低だなぁ。

 ちゃんと朝ご飯をあげないとだよ。


「立ちなさい! 私の奴隷!」


 アスモデちゃんの言葉を聞き、ルピナスちゃんのパパが立ち上がる。


「この子に、この串焼きを食べさせてあげたいでしょう? だったら、抵抗しない事ね」


「卑怯よ!」


「パパ! 目を覚まして!」


 リリィとルピナスちゃんが叫ぶ。

 そんな中、私はふと思う事があった。


 ねえ?

 別に、シロちゃんをとり戻した後に、ご飯上げればよくないかな?


「あんな馬鹿犬でも、あんな惨たらしい事をされてるのを見せられたら、手が出せないじゃない!」


 良かった。

 リリィって、なんだかんだ言っても、やっぱり凄く優しい子なんだね。

 私、そんなリリィの事が好きだよ。

 でもね、今はその優しさを発揮しなくて良いと思うんだ。

 だってそうでしょう?

 アスモデちゃんからシロちゃんを助けてあげれば、お腹いっぱいご飯を食べさせてあげられるんだよ?


 私はそこまで考えると、自分がうっかりしていた事に気がついた。


 あ。そっか。

 教えてあげればいいんだ。


「リリィ、シロちゃんは――」


 と、私が教えてあげようとしたその時、今まで黙って見ていたスミレちゃんが大声を上げた。


「そこまでなのよ!」


 スミレちゃん!?


「あは。なあに? ビクビクと怯えるだけで、何も出来ないバティンちゃん」


 アスモデちゃんが哀れむような目でスミレちゃんを見ると、スミレちゃんはその目を睨み返した。


「幼女先輩。今まで足を引っ張り続けて、申し訳ありませんなのですよ」


 スミレちゃんはそう言うと、アスモデちゃんにビシッと指をさす。


「アスモデちゃん! もう、お前の好きにはさせないなのよ!」


「あは。威勢だけは良いみたいね? でも、アナタに何が出来るのかしら?」


「アスモデちゃん。見ていてわかったなのよ。お前は、ベルゼビュート様に惚れているなのよ」


「なっ!」


 スミレちゃんが放った言葉は、アスモデちゃんを動揺させるには十分な言葉だった。

 アスモデちゃんの顔が、真っ赤に染まり、あわあわと慌てだす。

 そして、アスモデちゃんは動揺しすぎて、シロちゃんが入っている檻を、串焼きと一緒に地面に落とした。

 私はその様子を心配になって見ると、落ちた拍子に串焼きが檻の側に転がって、シロちゃんが串焼きにかぶりつく。


 あ。

 良かったね。シロちゃん。


 私がシロちゃんを見てホッとしていると、アスモデちゃんが顔を真っ赤にさせたまま、声を裏返らせる。


「何いきなり、馬鹿な事言ってるのよ!」 


 アスモデちゃんが、ベルゼビュートとスミレちゃんを交互に見だす。


「そんなわけ! そんなわけー!」


 わぁ。なんだか可愛いなぁ。

 すっごく女の子してるんだもん。

 恋する乙女の顔だよね。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ