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104 幼女の天使は厳しいお年頃

 アスモデちゃんは暫らく固まると、じわじわと涙目になり、ベルゼビュートに顔を向けて懇願するように見つめた。

 私はアスモデちゃんに少しだけ同情しながら、2人の様子を伺った。


「ベルゼビュートくぅん」


「アスモデ、お前の能力は他にもあるだろう?」


 アスモデちゃんに名前を呼ばれたベルゼビュートは、ため息を一つ零して、退屈そうに呟いた。

 すると、アスモデちゃんの顔がみるみると明るくなっていく。


「そうだったわ!」


 そう口にすると、アスモデちゃんが、今度は勝ち誇ったような顔つきになる。


 私、今すっごく思ったんだけど、魔族の女の子って皆ポンコツ系なのかな?

 スミレちゃんもポンコツだし、アスモデちゃんもポンコツに見えるもん。

 なんだか、ポンコツ可愛い感じで、凄く応援したくなっちゃうよ。


「あは。ねえ? 私が何故村の人間を、元に戻してあげたかわかる?」


 アスモデちゃんが妖美に微笑む。

 するとその時、ルピナスちゃんが後ろを振り向いた。


「ルピナスちゃん?」


「パパーッ!」


 パパ?


 その時、背後からルピナスちゃんのパパが現れて、リリィに拳を振り上げる。

 リリィは一瞬だけ驚いた顔を見せたが、直ぐそれに反応して、ルピナスちゃんのパパの拳を避けた。


「ざーんねん。不意打ち失敗ね。でも、これでわかったでしょう?」


 アスモデちゃんが愉快そうにクスクスと笑う。


「村の人間を元に戻したのは、あくまでもカモフラージュ」


 ルピナスちゃんのパパが、アスモデちゃんの横に移動して、その場で片膝を地面につけてしゃがむ。

 そして、アスモデちゃんがしゃがんだルピナスちゃんのパパの頭に肘を乗せた。


「本当の目的は、私の魅了を受けたこの男に、アナタ達の後をつけさせる為よ」


「パパ……」


 ルピナスちゃん……。

 アスモデちゃんめ。

 なんて酷い事をするの!

 ポンコツだなんて、甘く見ていたよ。


「あは。この男を魅了して、正解だった様ね」


 どうしよう?

 ルピナスちゃんのパパを、傷つける事なんて出来ないよ。

 リリィも流石に、ルピナスちゃんのパパ相手に焦ってるのがわかる。

 このままじゃダメだ。

 でも、どうしたらいいのかわからないよ。


「さあどうする? この男に――」


 アスモデちゃんがご機嫌に何かを言いかけたその時、私の目を疑うような出来事が起こる。

 ルピナスちゃんのパパが、鈍い音とともに突然宙を舞ったのだ。

 そして、その原因は……。


「る、ルピナスちゃん!?」


「パパのあほーっ!」


 そう。

 ルピナスちゃんがもの凄い勢いで、自分のパパを殴り飛ばしたのだ。

 ルピナスちゃんのパパは、回転しながら吹っ飛んでいく。


 ええぇえぇーっ!?

 なんで!?

 何が起こったの!?


 ルピナスちゃんのパパは、地面にあたると、そのまま勢いよく地面に転がった。

 そして、数十メートル転がると、その場でピクリとも動かなくなった。


「パパ! 悪い事しちゃ、めっだよ! いつも言ってるでしょ!? ママに言うからね!」


 わぁ。

 ルピナスちゃんって、パパに厳しいお年頃だったんだね。

 ほら見て?

 プンスカしてる姿も、凄く可愛い。

 っじゃないよ!

 あわわわわ。

 ルピナスちゃん、止めてあげて?

 倒れてるパパの背中を、そんなに叩いたらダメだよ。

 あ。

 今度は上に乗って、ジャンプしだしちゃったよ!

 ルピナスちゃんを止めないと!


「ルピナスちゃん! それ以上は止めてあげて?」


 私が側まで行って止めに入ると、ルピナスちゃんは口をぷっくらと膨らませた。


 やーん。

 可愛いー。

 プクプクしてるー。


「だって、パパがリリィお姉ちゃんに、痛い事しようとしたんだもん」


 なんて良い子なの!

 ルピナスちゃんは、リリィを護ろうとしてくれたんだね!

 でもね、ルピナスちゃん。


「ルピナスちゃんのパパは、アスモデちゃんに操られているから、仕方がないんだよ?」


 そう言って、私がルピナスちゃんの頭を撫でると、ルピナスちゃんはパパの背中からようやく降りた。


「じゃあ、許してあげる」


「ルピナスちゃんは良い子だね」


 そう言って、再び頭を撫でる。

 すると、ルピナスちゃんはニコッと笑顔を私に向けた。

 そこで、今までそれを見ていたアスモデちゃんが、またもや涙目でベルゼビュートに顔を向ける。


「ベルゼビュートくぅん」


 ベルゼビュートはため息を一つ零すと、アスモデちゃんを退屈そうに見つめた。


「何度も情けない顔をするな。まだ魅了が解けたわけじゃないのだろう? それに、まだ他に手があるのだろう?」


 ベルゼビュートがそう訊ねると、アスモデちゃんが「そうよ!」と言って、またもや勝ち誇った顔をした。


 私、ベルゼビュートさんの事、人として結構好きかも。

 なんか、もの凄く良い人そうじゃない?


「あは。今度こそ、アナタ達の最後よ!」


 そう言って、ポンコツ可愛いアスモデちゃんは、妖美に微笑むのであった。

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