102 幼女に不健全なものを見せてはいけません
ルピナスちゃんの耳を頼りに、村から随分と離れた場所までやって来た。
少し遠くに大きい山が3つあり、ちょうどその山を越えると、隣国のベードラ領土内に入るあたりの場所だ。
そして、私達が今いる場所は、小さい岩山が幾つもある荒野だ。
結構遠くまで来ちゃったんだなぁ。
……あ。
見つけた。
ベルゼビュートとアスモデちゃんは、幾つかある岩山の中でも、比較的小さめの岩山の側にいた。
そして、私達は2人の姿を見つけると、まずは隠れて様子を見る事にした。
あれ?
アスモデちゃんが短パン穿いてる。
さっきは穿いてなかったのに。
なんでだろう?
「ジャスミン。あの小さい檻みたいな籠に入れられているのって、ニクスじゃない?」
「え?」
確認すると、小さな檻のような物に、猫ちゃんが一匹閉じ込められていた。
魔族は猫ちゃんに出来ないって事みたいだし、たぶんニクスちゃんだよね。
早く助けてあげなきゃ。
「ジャスミンお姉ちゃん。たっくんもいるよ」
「あ。本当だ」
よく見ると、そこには私が魔法をかけて、マスコット化しているたっくんの姿もあった。
なんとなくそんな気はしていたけど、捕まってたんだね。
それに、ケット=シーちゃんの能力は、まだ解けていないんだ。
と、私が考えていると、2人の会話が聞こえてきた。
「奴からの連絡は、どうなっている?」
「要注意人物に挨拶してから、向こうに行くって言ってたよ」
「そうか。挨拶という事は、期待は出来なそうだな」
「そうだね~。まあ、仕方がないよ。別件があるんだし」
「ふん。奴にも困ったものだな。おかげで、こちらまで動き回るハメになった」
「私達を巻き込んだ分の働きは、しっかりやってくれるって言ってたけどね」
「そうでなくては困る」
なんだか、ベルゼビュートの雰囲気が、あの時会った時と全然違うなぁ。
もっと優しそうな感じだったのに、今はなんだか怖いもん。
って、そんな事よりだよ。
奴って、サルガタナスの事かな?
要注意人物は、私だよね。
サルガタナスの引き際が早かったのは、別件で何かをしていたから。
それで、その別件が理由で、一つの場所に留まってなかったって事なのかな?
実際、妙な話ではあった。
ベルゼビュートが引っ越して来た家の地下には、ケット=シーちゃん達しかいなかった。
ラークの家にも、いたのはアスモデちゃんだけ。
そして、ここに来て、ようやくベルゼビュートがいたのだ。
理由はわからないが、ベルゼビュート達はあまりにも、バラバラに行動しすぎだったのだ。
そうして、私が理由がなんなのか考えていると、トンちゃんが私の頬っぺたをツンツンと突いた。
「トンちゃん?」
「ご主人。あの檻の鍵が近くにないか、ボクが見て来てあげるッスよ」
「え? ありがとー。トンちゃん」
「任せるッス~」
トンちゃんはそう言うと、高度を上げて見つからないように、ゆっくりと近づいていく。
「幼女先輩。幼女先輩」
「うん?」
「一緒に捕まったはずのフルーレティ様とプルソン達、それに裏切者のエリゴスがいないなのですよ」
言われてみれば、たしかにそうだよね。
どうしてだろう?
これも、さっきみたいな罠なのかな?
「それに、あの猫がニクスちゃんだとしても、ニクスちゃんがここにいる事が不思議なのですよ」
「え? どうして?」
「ニクスちゃんは、エリゴスが預かっているはずなのですよ」
そうだった!
私、すっかりその事を忘れていたよ。
じゃあ、これって完全に罠なんじゃ!?
「馬鹿! スミレ、アンタそれを早く言いなさいよ! 早くドゥーウィンをこっちに呼び戻さな――」
その時、檻の中にいた猫ちゃんがトンちゃんに気がつく。
「侵入者です!」
「え!?」
トンちゃんは驚き、一瞬動きを止めてしまう。
そして、その瞬間をアスモデちゃんは見逃さなかった。
アスモデちゃんがトンちゃんを地面に叩き落とす。
叩き落されたトンちゃんは、そのままぐったりと倒れてしまった。
「トンちゃん!」
私は堪らず、ベルゼビュートとアスモデちゃんの前に姿を現してしまった。
「あは。要注意人物が来たよ。ベルゼビュートくん」
「そのようだな」
私は2人を無視して、倒れたトンちゃんの側まで行く。
そして、トンちゃんを両手で拾い上げる。
あぁ。良かった。
気絶してるだけみたい。
「丁度良い。おい貴様。その檻に入っている、二頭身の猫の魔法を解け」
「え?」
私がベルゼビュートに振り返ると、アスモデちゃんが私にゆっくりと近づいた。
「アナタの魔法が強力すぎて、私の魔法が上書きされちゃってるのよ。だから、このままじゃ困るのよね~」
「困る? アンタ達の狙いは、その檻に入ってる馬鹿を始末する事でしょ? そのままの方が、都合が良いのではないかしら?」
リリィが私とアスモデちゃんの間に入って、アスモデちゃんを睨みつける。
「始末? そうねえ。たしかに、他の魔族達は、フェニックスの命を狙っているわ。でも、ベルゼビュートくんは違う」
アスモデちゃんが妖美に微笑む。
「ベルゼビュートくんは、フェニックスの能力で不老不死になるのよ」
ベルゼビュートも不老不死を狙ってたの!?
な、なんだか、話のスケールが大きくなってきてない?
結構大変な事になってきている気がするよ!
「おいアスモデ。喋り過ぎだ」
ベルゼビュートが深く息を吐くようにそう言うと、アスモデちゃんがベルゼビュートに振り向き、テヘペロをした。
て、テヘペロしてる……。
さっきから少し気になっていたのだけど、アスモデちゃんってベルゼビュートの部下って感じがしないよね?
協力者って感じなのかな?
てっきり、ベルゼビュートの部下とかだと思っていたけど……。
「あは。まあ、そう言うわけだから、さっさと魔法を解いてもらえない?」
アスモデちゃんが私を睨み、私は緊張で、ごくりと唾を飲み込んだ。
「私が魔法を解いて、たっくんを元に戻して不老不死になったら、何をするつもりなの?」
私が訊ねると、アスモデちゃんは妖美に微笑む。
「魔族の頂点に立ち、人間達を震え上がらせ、猫以外のペットを飼う事を禁止にさせるのよ!」
アスモデちゃんは勢いよく話すと、もの凄いドヤ顔で胸を張った。
「え? ええぇ……」
猫以外のペットを禁止?
どうしよう?
凄くどうでも良いような、良くないような、微妙な目的だよ!
これは、たっくんを元に戻した方が良いのか、良くないのか判断に困るよ。
「なんて恐ろしい事を! 絶対阻止しないと、大変な事になるわね」
え?
リリィ?
そんなに言うほど、大変な事にはならないような気がするよ?
「あわわわ。そんな事になったら、私が幼女先輩のペットになれないなのよ!」
ちょっと待ってスミレちゃん。
そもそも、私はスミレちゃんをペットにするつもりないよ?
って言うか、そんな事考えてたの?
「シロちゃん捨てられちゃうの? 可哀想だよ」
シロちゃん!?
その時、ルピナスちゃんの言葉で私に衝撃が走る。
そうだよ!
何呑気な事考えてたの私!
猫ちゃん以外のペット禁止になっちゃったら、シロちゃんが家から追い出されちゃうよ!
あんなに可愛いのに!
それはダメだよ!
そんなの絶対ダメだよ!
「アスモデ。魔法をかけた者が死ねば、魔法は解ける。遊んでいないで、さっさとその小娘を殺せば済む話だ」
ひぃっ。
今、私睨まれたよ!
ベルゼビュートもの凄く怖いよ!
ベルゼビュートだけ、なんか私達とは別の存在感があるよ!
ペットは猫ちゃんだけになる世界を作りますって感じの事を、考えている人にはとても見えないよ!
私がベルゼビュートに睨まれてビビッていると、リリィが不敵に笑い口を開く。
「残念だけど、アスモデ。アンタじゃ私には勝てないわ」
「あは。強がっても意味ないわよ。私、こう見えても結構強いのよ? アナタなんかに――ひぅん!」
一瞬の出来事だった。
アスモデちゃんが喋っている間に、リリィはアスモデちゃんに一瞬で接近した。
そして、アスモデちゃんの尻尾を掴んだのだ。
「どう? アンタの弱点は尻尾。勝負あったわね」
「や、やへなさ……っんぃ。ダメ。そん……なに」
ヤッター!
サスガリリィ!
コレデ、残スハベルゼビュートダケダネ!
リリィの魔の手がアスモデちゃんを襲い、段々と服も乱れていく。
「ゃっ……ぉねが……ぃ……んっ」
…………はい。
これ、やめさせないとダメなやつだ。
だってほら見て?
もう、18禁一歩手前なノリだよ?
ルピナスちゃんの教育上、すっごくよろしくないんだもん。
私は段々とエスカレートしていく親友を見つめて、ため息を一つ吐きだした。
そして、ニッコリと微笑む。
うふふ。
リリィってば、すっかり興奮して、鼻息が荒くなっちゃってる。
もう、どっちが悪者かわからないよ。




