100 幼女に執着してはいけません
はい。結論から言います。
アスモデちゃんが負けを認めた事で、皆が元の姿に戻ったようです。
そんなわけで、今は着替えを済ませたスミレちゃんの嗅覚を頼りに、アスモデちゃんの後を追っている途中である。
村の皆も元に戻ったから、追う必要が無いとも思ったのだけど、気になる事があったのだ。
スミレちゃんの話では、ニクスちゃんが捕まっているようだし、たっくんも行方がわからない。
「タイムはともかく、ニクスがまだ捕まっているままだとしたら、助け出す必要があるわね」
「うん」
って、いやいや。
たっくんも助けてあげようよ?
「ルピナスちゃん。本当について来て良かったの? 危ないんだよ?」
「大丈夫だよ」
「幼女先輩。大丈夫なのですよ。私がルピナスちゃんを護るなのです」
「う、うん。よろしくね。スミレちゃん」
「ところでご主人。ご主人は、パンツ穿いて来なくて良かったんスか?」
「あ!」
すっかり忘れていたよ。
私のバカ。
なんで忘れてたの!?
トンちゃんが、私の考えている事に察したのか、私の顔を見て鼻で笑う。
すると、それを見ていたリリィが、私に話しかけてきた。
「一度戻る?」
「ううん。アスモデちゃんが逃げてから、ただでさえ、結構時間が経ってるんだもん。戻ってなんかられないよ」
「いいの?」
「うん」
そうして、スミレちゃんの嗅覚を頼りに暫らく進むと、突然スミレちゃんが立ち止まった。
「こんな何もない所で止まって、どうしたのよ?」
たしかに、何もないよね。
立ち止まった場所は、本当に何もない草原だ。
唯一あるとすれば、疎らに生える木だけだ。
その木も本当に疎らに生えていて、私達のいる場所には、草しか生えていない。
「スミレちゃん。近くにアスモデちゃんがいるの?」
私とリリィが訊ねると、スミレちゃんが周囲を警戒しながら、それに答える。
「幼女先輩。アスモデちゃんの匂いが消えたなのですよ」
匂いが消えた?
でも、ここには本当に何もない。
どういう事なんだろう?
私もごくりと唾を飲み込み、周囲に警戒を向ける。
「ご主人。これ、絶対やばいッス。この場を離れた方が良いッスよ」
「うん。そうだね」
私がトンちゃんの言葉にこくりと頷き、その場を離れようとした時だった。
私は一つ、とんでもない違和感に気がついた。
「ここ、おかしくない?」
私は指をさして、皆が私の指をたどって、その違和感へと目を向ける。
「どういう事よ?」
「ここだけ、変な穴があるね」
「ルピナスちゃん。これは、変な穴があるとかの問題じゃないなのよ」
そう。
私が指をさしたそこは、複雑に広がっている穴が開いていた。
その穴は、まるで何か、木のような物があったかのような穴だ。
「皆走るッス!」
トンちゃんが突然大声を上げる。
すると、穴のあった場所に、突然大きな大木が出現した。
え!?
急な出来事で驚いていると、頭上から何かが落ちてきた。
「ご主人!」
「うん!」
私は、咄嗟にルピナスちゃんを捕まえる。
そして、急いで風の魔法を使って、大木から距離をとる。
すると、落ちてきた何かが、勢いよく地面に当たった。
その瞬間、その何かが弾けて、紫色をした煙を大量に噴出した。
「何よあれ!?」
「わからない。って、あれ? リリィ、スミレちゃんは?」
「スミレお姉ちゃんは、あの中だよ」
ルピナスちゃんがそう言って、未だに大量に噴出され続ける煙の方に指をさした。
嘘でしょ!?
「スミレちゃん!」
私はすぐに魔法を使って風を起こし、煙を吹き飛ばす。
すると、スミレちゃんがゲホゲホと咳き込んで、姿を現した。
「大丈夫!? スミレちゃん!」
スミレちゃんに近づこうとしたその時、今度は大木の上から、スミレちゃんの頭上に何者かが落ちてきた。
何者かは、そのままスミレちゃんの頭を、勢いよく地面に叩きつける。
そしてスミレちゃんは、そのまま倒れて動かなくなってしまった。
それを見た瞬間、リリィが大声で叫ぶ。
「あの時のエロピエロ!? よくもスミレを!」
何者かの正体は、エロピエロ。
以前ニクスちゃんの集落で、悪さをしていたサルガタナスだった。
「久しぶりだね。 オイラは執念深いんでね。あの時の借りを返しに来たよ」
エロピエロが下卑た笑みを浮かべて、スミレちゃんの頭をぐりぐりと足で踏み続ける。
「アンタ! スミレから足をどけなさいよ!?」
「やなこった。こいつは裏切者なんだ。ここで殺す事にしたのさ」
リリィとエロピエロが話しているうちに、私は呪文を唱え出す。
「凍てつく大地に縛られし親愛なる我が下部達よ」
「ご主人!? 駄目ッス! 今は水属性系の魔法は!」
「我を拒む愚かなる者共に罰を与え、今こそ全てを凍えあがらせろ!凍てつけ!氷結牢獄」
私が呪文を唱えると、私を中心とした半径100メートル以内の地面が凍り付……かない。
「え!?」
どういう事!?
私は驚き困惑する。
半径100メートルどころか、私から魔法が発せられる事が無かったからだ。
「隙を見せたね!」
え?
気が付くと、サルガタナスが魔法で作り出した直径5メートルはある鉄の針が、私の目の前まで迫っていた。
「ジャスミンお姉ちゃん!」
ルピナスちゃんが私に飛びついたおかげで、間一髪で助かる。
「ルピナスちゃん。ありがとー」
「うん」
「エロピエロ! 覚悟出来てるんでしょうね!?」
それを見たリリィが激怒して、エロピエロを睨むが、エロピエロは余裕の笑みを浮かべた。
「おー怖い怖い。今回も分が悪そうだ。退散させてもらうよ」
サルガタナスがスミレちゃんから足をどかして、直後、地面に穴が開く。
そして、あっという間にサルガタナスは逃げてしまった。
「なっ! ちょっと! 待ちなさいよ!?」
逃げ……た?
台風のように現れて、去って行ったサルガタナスの登場。
そして、何故か使えなかった魔法。
その一連の出来事に、私は暫らくの間、呆然と立ち尽くす事しか出来なかった。




