8.可能性
大変だけど漫画を描くのと同じくらいたのしいです。
ー何が起きたの?
確か私は目の前で、重症を負った知り合いを治療していた。
なのに、ふざけた理由で突如邪魔をされたのだ。
ーこのまま連れて行かれたら治療出来ずに死んでしまう。それだけはダメ…!
身体を持ち上げられた瞬間身体の中が熱くなり、一気に外へ放出するような…感覚が襲った。
そして温かい何かに包まれたと思えばこの状況だ。
「どうして火傷が治ってるの…?」
先程とは打って変わって、呟いた言葉が大きく聞こえる程辺りは静かだった。
「花、お前何をした?いや、お前がやったのか?」
「…クラースさん…私、何をしたんでしょうか…」
もしかして初めから火傷などなかったのではないか?そうとさえ思えきた。だが、治療にあたっていた二人の服は血だらけだった。
呆然としていると我に返った憲兵が動き出す。
「き、貴様何をした!」
「おい、とにかく罪人を連れて行くんだ!」
横で離せと暴れるクラースとは違い、花はまだその背中から目が離せない。
ふと気になった左手首の許可証を見たがやはり無色透明のままだった。
ードサッ
「ここで大人しくしてろ!」
城の外れに連れて来られたクラースと花は、別々に鉄格子付きの牢屋に放り込まれ、憲兵はさっさと出て行った。
起き上がると意外にも牢屋は、花が想像しているものとは違うようだ。ゲームや漫画ではこういう牢屋は暗くて汚いイメージが多いが、ここは街と同じく壁に床、天井まで白で統一され綺麗に掃除がされており、ベッドメイキングまでされているのだ。
外が見える小さな窓もあるが、頭すら通りそうにない。
「なんだか罪人を入れる場所とは思えないわ…普通に部屋みたい」
「お前は牢屋にどんなイメージがあるんだ。いくら罪人でも最低限は保証されるのが国の決まりだからな。それにしても…花、お前魔法が使えたのか?」
そう、今一番気になるのはそれだ。
「そんな訳ないですよ。だって属性が無いんですよ?ほら、許可証だって無色透明のままですし」
そう言って格子から左腕を出し隣の牢屋に居るクラースに見せる。
「確かに…無色透明だな。だがお前の足元に魔方陣が浮かび上がるのを俺は見たぞ?魔法を使う時は魔方陣が浮かび上がる事くらいは俺だって知っている」
「そう言われても…うーん…」
訳が分からず二人で唸る。
もし本当に魔法が使えるのなら召喚された時点で分かるはず。神官というのは非常に優秀な人物しかなれないと聞いているので、その神官が見落とすとは考えにくいのだ。
ますます分からない。
そのまま時間だけが過ぎ、外が暗くなる頃誰かが入ってくる音がする。
ーもしかして食事かな?
丁度お腹も空いてきた頃で花は思わず期待する。
しかし現れたのは神官だった。
足早に花のいる牢屋までやってくる。
「失礼、魔法を使用したというのは貴女ですか?」
「使用したかどうかはわかりませんが、あの場には居ました」
「許可証を確認させて下さい」
言われた通りに許可証を見せると、神官は難しい顔になる。その様子をクラースも静かに見守る。
「…属性が現れた訳ではないのですね。では次にこれに触れて下さい」
差し出されたのは野球ボールくらいの小さな水の球。…そう、どう見ても水だ。何故水がボールの形を保てるのか気になるが、とりあえず触れてみる。
すると。
「きゃあ!」
触れた瞬間、水の球が急激に膨らみ神官をすっぽり飲み込んでしまう。花自身も半分程巻き添えをくらうがパッと水が消えてなくなった。不思議な事に神官も花も濡れていない。
「…どうなっている?属性無しのはずが膨大な魔力を持っているとは…」
神官がぶつぶつと呟き出し、だが…とか、可能性も…など何か考えているようだ。
しばらくして考えがまとまったのか、花に牢屋を出るよう指示してくる。
「貴女の検査をもう一度やり直す必要がありそうです。私に着いてきて下さい」
「待って下さい!クラースさんはどうなるんですか?一緒じゃダメでしょうか?」
「申し訳ないが用事があるのは貴女だけです。心配せずとも貴女にも彼にも悪いようにはしません」
しかし心配なものは心配なのだ。花はクラースを見るが、大丈夫だから行ってこいと言われてしまう。
「分かりました…検査でもなんでも受けますからクラースさんには何もしないで下さい」
「えぇ、神官である私が保証します。では私について来て下さい」
不安になりながらついて行く花は、牢屋の出口で一度振り向いてからそのまま牢屋を後にした。