12.訪問
よし、明るくなります。
二日後、ユアンは約束通り処分を死刑から国外追放へと変更してくれた。後で分かったが、なんとクラースとユアンは幼馴染でユアン自身も処分を軽く出来ないか動いていたそうなのだ。
だが国のミスを表に出したがらない国王と貴族は刑の変更を認めなかった。そこでユアンは私を利用し処分の変更を成功させたのだ。
その証拠に国外追放される前、もう一度クラースと話をする為牢屋に来たのだが、目の前で「ユアンお前死刑とかビビるじゃねーか!」「うるさい!これでも頑張ったんだ!感謝しろ!」と仲良く喧嘩された。
ちなみに、子供を使ったあの最悪な検査はユアンを通さず勝手に行われた事と分かり、その後指示を出した者はユアンにより処分されている。
そして後日、無罪のクラースは国外追放された。
クラースが国外追放されてから二週間。
花は神の代行者としてお披露目も兼ね、神殿で儀式を行っていた。神殿には入り切らない程人が集まり外に溢れている状態だ。
今まで神頼みで暮らしてきた人々は、治癒魔法が使えるという明確な信仰対象が現れた事で、残念ながらますますその信仰心を強くしていた。その証拠に人々の目は希望に満ち溢れている。
ーこの国の人々はきっと成長する気がない
花は祭壇に上がりながらそう思う。
自分に治癒魔法が使えると分かってから今日まで考えていたが、怪我を治す事自体は別に構わないと思っている。治せる力があるなら出し惜しむ必要はないと思うからだ。
だがそれでは駄目なのだ。今は私がいれば怪我は治せるが、私が死ねば治す人が居なくなる。そうなっては神頼みに逆戻りだ。
いや、逆戻りより酷いかもしれない…だって人は一度その環境に慣れてしまうとなかなか元には戻れない生き物だから。
ーやっぱり薬草や薬を広めた方が絶対にいい
しかし詳しかったクラースはもういない。それに、知識は未熟ながらも花自身で薬治療を広めたいと国王に申し出たところ、王はもちろんその場に居た貴族に猛反対されたのだ。何故なら信仰者からの寄付金で貴族は良い思いをしているから。
「この国のトップは本当に腐ってるわね…」
ぼそりと呟く。形ばかりの儀式を終え神殿から退出した花はそのまま部屋へ戻る。
「花様、お疲れ様でした。今日のこれからの予定ですが夜の食事会までは自由時間となります。昼食はすぐにお持ちしますので今しばらくお待ち下さい」
そういとメイドは部屋から出て行った。
神の代行者として花は特別待遇を受けているが、監視の為どこへ行くにも必ず護衛が付いてくる。
「衣食住には困らないけど息が詰まるのよね。今すぐ各国への挨拶回りに行きたいわ…」
旅行気分で。
溜息をついているとメイドが昼食を持ってきたので、さっさと片付けてユアンに相談しに行く事に決めた。
「失礼します、ユアンさんは居ますか?」
花がいる部屋から歩いて割とすぐの、神官等の仕事場へ訪れた。ここでは大神官や神官の他に下っ端の見習いも仕事をしている。
部屋の中は、花への治療依頼の手紙や貢ぎ物で溢れかえっており、処理が間に合わない為か毎日夜遅くまで明かりがついていた。
「花様!お疲れ様です!ユアン様なら奥の部屋にいらっしゃいます」
「お疲れ様、ルイ。ありがとう、ちょっと覗いてみるわね」
元気なこの女性神官見習いの名前はルイ。平均年齢が高いこの職業で、唯一花と同じ二十代だ。立場は違うがとても仲が良い。
奥の部屋を除くとルイの言う通り、ユアンが難しい顔をしながら書類と睨み合っていた。
「ユアンさん、今時間ありますか?」
「見ての通り寝る暇も無いが?」
ユアンの顔をよく見れば目の下にクマが出来ている。果たして何徹目か。
「い、忙しい時にすみません…。あの、各国への訪問っていつになりますか?ちょっと息抜きに他の国も見てみたいんですが…」
「それだ!お前!ちょっと各国回ってこい!そうすればこの騒ぎも少しは落ち着くはずっ…!」
クラースとのやり取りを見られてからは、自分の性格を隠すつもりがなくなったのか、敬語はどこへやら。
まあ、年上にあの態度をとられ続けられるのは正直キツイかったのでいいのだが。
とにかく、ユアンのこの勢いであれば数日で訪問が実現するだろう。
早く書きたい話はこの分だと30…40話あたりになりそうです…