団長の矜持
タイトルを変更しました。
旧:ハグレの長は多くのモノに慕われる
新:因果の鎖~ハグレの長は多くのモノに慕われる~
親父さんの希望でエンジュちゃんには退席してもらった。
運ばれてきた料理に僕とノルンは舌鼓を打ち、メルが親父さんに事情聴取をしている。こういった情報収集はメルの分野だ。
「では、その『ダグラス商会』が『金色亭』を?」
「ああ、先日、この店を傘下に入れたいという打診されたが断った。それからだ。悪質な嫌がらせが始まったのは」
「何故断ったのですか?後ろ盾があればそれなりに経営が楽になるのでは?」
「普通ならな。だが奴らは俺達から利益を搾取することしか頭になかった」
そう言って親父さんは一枚の紙をメルに差し出した。
「拝見しても?」
「ああ」
メルは一通り目を通し溜息を吐く。
「ハァ、これでは「俺達のためにタダ働きしろ」と言っているようなものではないですか」
「いくら学がない俺でも気付くくらいに足元見てきやがった。だから断った」
「それで今に至ると。このことを商業ギルドには?」
「言ったさ。だが、揉み消されちまったようだ」
「商業ギルドの幹部に繋がりがある可能性大ですか。面倒ですね」
メルが困っているようなので助け舟を出すことにした。
「ヴァイブニバ、ヴァディアヴァルカラ、ブアッテビビヴォ」
「それは助かります。ありがとうございます。でもお行儀が悪いので口に物を入れて喋ってはいけませんよ、団長」
「いや、何言ってるか分かんねえよ!?」
親父さんはノリのいいツッコミを入れた。
「そうですか?「あいつには貸しがあるから使っていいよ」と団長は言いました」
「あんた、苦労してそうだな」
「もう慣れました。さて、団長のおかげで大体の方針は出来ました。食事を終えたら実行しましょうか」
そう言って、メルも食事を始めた。
「なあ、一つ聞いてもいいか?どうしてそこまでしてくれるんだ?俺達の関係はそこまで深いもんじゃねえ。お前らが良い奴だってことは分かってる。だが、無償の好意ってのは臆病者の俺にとっては不気味に思えるんだ」
そう言ってくれる親父さんも良い人なんだろう。普通はそんなこと聞かずに黙って好意を受け取ってしまうだろう。だが...
僕は口の中のモノを飲み込む。
「好意、ね。親父さんにはそう捉えられるのか。それなら良かった――」
僕はとても不安だった。自分が為そうとしていることが余計なお世話なのではないかと。
「――これは僕達、いや正確には僕の自己満足です。メル達『双銀』のメンバーはそれに付き合ってくれているに過ぎない」
「自己満足?」
「そうです。旅立つ人への手向け、未練を持っていって欲しくないという僕の願い」
「?」
「ははっ、訳が分からないですよね。とにかく親父さんは黙って僕達に任せてくれればいいんですよ。では、行ってきます。とてもおいしかったとエンジュちゃんにも伝えてください」
困惑している親父さんを尻目に僕達は席を立つ。
「最後に一つだけ、エンジュちゃんとの時間を大切にしてください」
そう言い残して『金色亭』を後にした。